事後処理
いのりは倒れた敵の方まで歩いて行って、その倒れた敵をじっくり見るようにしゃがみ込んだ。
——何をしているんだ? そんな見て嬉しいようなものではないだろうに。
すぐにいのりはぼそぼそと何かを呟き始めた。おそらく詠唱だろう。しかしそれだけではなく、いのりは詠唱を続けながらそのすでにピクリとも動かない敵を手錠で拘束しだしたのだ。そして詠唱が終わったその時、敵の明らかに致命的ある深い傷跡がみるみる消えていった。いや、その表現は適切でない。正確に言うなら血が固まり、かさぶたができて、そのかさぶたが取れたところの傷が塞がっていた。
「それは……」
「これは体の免疫を活性化する魔法です」
「いのりさん、そんなすごい魔法使えるんですか?」
「ふふん。先輩はすごいんですよ? 任せてください」
さっきまでの真剣な表情から一変、その小柄な体躯相応の仕草で胸を張って言った。その無邪気な子どもを彷彿とさせる可愛い行動に、初はつい先輩であることを忘れてその頭を撫でてしまった。
「ふぇっ?」
いのりはその突然の行動に間の抜けた声をあげた。すぐに両手をわたわたと動かしながらまた「あうあう……」とよく分からない声で抵抗する。
「あ、すみません。つい……」
初は慌てて手をひっこめた。
「い、いえ、あの、はい。だいじょうぶです」
その言葉とは裏腹に顔が赤く視線は彷徨っている。
「じゃ、じゃあ他の人も処置しますねっ!」
そう言って、いのりはパタパタとまだ倒れている人たちの所へ走って行った。また一人で残されてしまった初は特にすることもないので、ただぽけーとその様子を眺めることにした。
いのりの回復作業が終わるよりも、みなみが帰って来るよりもシロが複数人の人を連れて初の元へ帰ってきた。
「それではみなさん、お願いします」
そのシロの合図で、後ろに控えていた警察の制服を着た人たちがいのりさんが治した人たちを建物の方へ運び始めた。
「初さん、お待たせしました。こちらの方々はここの支部のメンバーです。この後、尋問を開始して色々聞きます。どれほどの情報が得られるかは分かりませんけれど」
流し目で連れていかれる人たちを見ながら言う。
「その尋問はシロさんが?」
「本当はその方が良いのですけれど、あちらにも面子がありますからね。それに私は尋問に使う魔法は好きではありませんので使わなくていいのならそれに越したことはありません」
きっとなにかあるのだろうと初はそれ以上は訊かなかった。
別に興味がない訳ではなかったが、初はそれよりもまだ戻ってこないみなみの方が気になって仕方がなかった。残っていた敵にやられてしまったのではないか、何か他の良くないことに巻き込まれているのではないか。そろそろ探しに行こうとシロやいのりに提案しようと口を開いた時、
「ふいー、いのりちゃん、追加でー」
みなみが意識を失っている敵であろうを人の襟を引っ張って、引きずりながら戻ってきた。そしてその人をポイッといのりの前に投げた。
「みなみ、もう少し丁寧にやってください」
「いのりちゃんはやさしいなー」
「まったく……」
いのりはそうぶつくさ言いながらもしゃがみ込んで詠唱し始めた。なんだかんだでこの二人の相性はいいらしい。
「じゃあ帰りますか」
治療を終え、建物の中に運ばれるのを見守った後、シロが車の方へ歩き出した。
「そうっすね! めんどくさいことは全て任せて飲み直しましょう!」
続いてみなみ。
「まだ飲んでいなかったので飲み直しではないですけど」
ふいにポケットの中にあるスマホからそんな声がふと聞こえてくる。
——こっちが起動しなくてもかってに動けるのか! そんなの本当にスパイウェアじゃないか。それなら支部みんなの携帯に入ればスパイ問題はすべて解決なのでは?
「あー、あー、うるさいっすねー」
そして携帯からマドレの声が聞こえることが変なことではないかのようにみなみは普通に答えた。
「ほら! こんなやつ放っておいて、初さんも早く行きましょ!」
「あ、うん」
初はそれ以上考える前にみなみに連れられて車の中に入った。




