意外な怖いもの
初が後ろを向くと、さっきの車による突撃で相手の正面にいた敵は半分ほど戦闘不能になっていた。
「よっしゃ、もう一発行っておきましょう!」
その合図と共に車はUターン、先ほど避けた人たちに向かっていく。流石に学習したのか銃を持っている人たちが撃ってくが、何かにはじかれたように車にすら当たらなかった。そして無情にも車に狙いを定めていた人たちをまた轢いた。
「これで面倒くさい銃持ちは消えましたね」
「すね! じゃあ後は詠唱中断しちゃった可哀想な人たちを倒しちゃいますか!」
車を敵のど真ん中に停め、そこからみなみは車のドアを蹴り破り、驚いた人を一二発、そしてそこから拳銃を抜こうとしている人たちにも蹴り破ったドアを盾にしながらまた一二発。初の出番などまるでなく、すっかり正面は制圧されてしまった。
「あとは周りに隠れてる人たちっすねー。どうしましょう。ほっておいても変えると思いますけど」
「いや、パパッと仕留めるか逃がすかしましょう。いのりがいるとは負傷は避けたいですからね」
「そうっすね。痛いのはいやっす。じゃあ初さん、お願いできますか?」
「へ?」
初は突然の無茶振りに素っ頓狂な声を上げた。
「いや、きっと今、周りの他の敵がこっちの様子を伺ってると思うんすよ」
「え!」
初はあたりを見渡す。
「という訳で詠唱する様子もなく、指パッチンでちょード派手な魔法を出しちゃってください!」
「そんな都合のいい魔法なんて……」
——あった。悔しいことに一つ思いだしてしまった。昨日一人でトクマの公開された魔法を見ていた時にこれは一回使ってみたいと思ったんだ。けどここだとまずいかもしれない。他に被害が出ないようにとなると難しいか?
思案している間に大きなビルが視界に映った。そしてそこにはお目当てのものがあった。
「じゃあやってみますね」
——元々この魔法は空気中の水滴を集める魔法だった。つまるところ空気中に大きい水滴を作る魔法だった。けれどこれはあることに応用できる。原理を知っていたら簡単だ。
初は指を鳴らした。
「初さん、何も起こりませんけど」
「ね……」
初は失敗したかとも思ったが、徐々に雲が初達の上に現れ始めたのを見てホッと胸をなでおろした。
「え、え?」
いのりが慌てたように車の窓から顔を出した。
そこから十秒ほどして轟音と共にすぐ目の前のビルの避雷針めがけて雷が落ちた。
「ひゃあ!」
それと当時に車の中からかわいい声が聞こえた。さらにもう一度雷が落ちる。
「あのー、初さん。そろそろ止めてあげられませんか? きっと相手はもういませんし。なによりいのりちゃんがプルプル震えちゃってるので」
見ると確かに車の助手席でうずくまっているいのりの肩があった。
「あー、でも止め方知らないんすよね」
——ただこのまま放置するのも忍びないし、この魔法の逆をやってみればいけるかな。ちょっとやってみるか。
初は指を鳴らした。するとすぐに雲は霧散して、雷はそれ以上降らなくなった。
みなみは「私は一応まだ敵がいるか周りを見てきます! 初さんはいのりちゃんをよろしくお願いします!」と言ってタタッとどこかへ行ってしまった。言われた通りに初が車に戻ると、まだいのりはうずくまっていた。
「あ、初さん、いのりさんをよろしくお願いします。私は支部の方に挨拶をしてきます。先ほどあちらから制圧完了の連絡がきたので」
「はい。分かりました」
シロは運転席から降りて建物のある方に歩いて行った。結果、車の中に残るいのりと、それを窓越しに見る初という構図になってしまった。しかし、任された以上そのままにはできないので初は入れ替わる様に運転席に座った。
「えっと、いのりさん。すみません。そんなに雷が苦手だと知らなくて。もう大丈夫ですよ」
「い、いえ、おきになさらず……」
けれどいのりは震えたままだ。初は割れ物を触る様にいのりの背中に優しく手を置いた。
「すみません……。先輩なのに」
「関係ないですよ。誰でも苦手なものはありますから」
「そうです、かね……」
とりあえずいのりが落ち着くまで背中をゆっくり叩きながら声をかけ続けた。
そこから一二分ぐらいでいのりは顔を上げた。
「すみません。ご迷惑をおかけしました。もう大丈夫です」
「無理しなくても良いですよ。シロさんは支部に挨拶に行きましたし、みなみは周りを確認しに行きましたので」
「いや、私にもやるべきことがあるので」
いのりは両手で自分の頬を叩くと目つきを変えて車から出ていった。初もそれについて行った。




