現場に到着
通常の道ではここからではかなり時間がかかる。出来る限り早く現場に向かうためにスカイラインに乗り、シロの運転で三十七支部へ向かった。
「どうして襲撃が……」
「おそらく相手は焦ったのだと思います」
初が漏らした疑問に携帯からマドレが答えた。
「最近、三十七支部は敵からあたりを付けられている場所の一つであると我々は考えていました。なのでいざという時に籠城できるように物資を送ろうと今回の作戦が立案されました。敵さんはそこを叩くつもりだったのでしょう。がしかし、初様によってそれは短時間かつ気付かないうちに終わらせられてしまった。何も戦果をあげられないのは不味い。かといって無事に物資が渡ってしまった以上、知らない間にもっと物資を潤沢にされてしまったら打つ手が無くなってしまう、このまま放置するのは避けたい。ということでまだ勝ち目がある今、襲撃したのだと思われます」
——マドレさんのその言い分は確かに論理的で納得するものだ。反論する気もおきない程に。けれど、その論理だと……。
「マドレさん、それって……」
「はい。初様の考えている通りでございます。間違いなく三十七支部、もしくはこの作戦に関わっている人間のうちに裏切者がいます」
「そう、ですよね」
——最初から裏切者がいるのは分かっていた。それが誰かなんて組織がでかいからあまり身近ではなかった。けれど、今回の急な作戦の変更に気づいている人はかなり絞られる。つまり可能性だけを考えるのなら、みなみだってあり得るわけだ。
「ただ初様、僭越ながら申しますと、今は三十七支部の方々の救出に尽力するべきかと」
「……ですね」
初はどうやって救出するか、または制圧する必要があるのかを考えながら慣れない浮遊感に身をゆだねた。
スカイラインから降りて支部に近づいてくると、シロといのりは何かの詠唱を唱え始め、みなみは何処からか拳銃を取り出していて、マガジンを確認していた。
——そうだ。僕は今から戦場に行くんだ。命のやり取りが発生する場所へ。殺さなければいけない現場へ。
初はその事実を改めて思うとギュッと心臓を掴まれたように動けなくなった。もう着くというのに指の一つも動いてはくれなかった。初は何度もどうにか動かそうとするもプルプル震えるだけだ。頭に魔方陣を思い浮かべようとしてもすぐに霧散してしまった。このままだと戦力にすらならない。
「初さん、大丈夫っすか?」
拳銃を片手に持ちながらみなみが訊いてきた。
「ちょっと大丈夫じゃないかも……」
「へへっ、正直でいいっすね。そんないい子にお守りをあげましょう」
みなみは持っていた銃を初に渡した。
「これはグロックっていう銃です。軽くて扱いやすいですよ」
「みなみはそれ渡して大丈夫なの?」
「はいっす。それはトクマの支給品の銃なので、私にはこの愛しのベレッタちゃんがいますから、だいじょうぶいっす!」
突然もぞもぞしだしたと思うと何処からかさっきとは違う銃を取り出した。
「ま、初さんはこんなもの必要ないとは思いますが、さっき言った通りお守りっす! ま、ほっておいても貰える銃なんですけどね」
初は差し出された銃を恐るおそる震える手で握った。すぐにそこにみなみが手を被せた。
「大丈夫です。私たちは殺し合いに行くんじゃありません。助けに行くんです。殺す必要も殺される必要もないんす。私はこの通り筋肉で解決する派ですから難しいですけど、もしかしたら初さんのすごい魔法で無血で救出できるかもしれませんしね!」
みなみはそう言って笑ってくれた。
——そうだ。わざわざ戦う必要なんてないんだ。一度や二度憧れたことのある映画俳優みたいに敵をバッタバッタ倒すことなんてする必要もない。ただ、敵の戦意を喪失させればいいんだ。
「ありがとう」
「いえいえ、さ、初さん! もう着きますよ!」
初は貰った銃を後ろのベルトに差して正面を見た。そこには何人かが本を持って支部であろう建物の方を向いていた。その人たちの前方にはアサルトライフルだろうか、銃を構えている人もいる。
「シロさん!」
「もう準備できてますよ」
「じゃあやっちゃってください!」
そして車は減速することなくその集団を轢いた。
「殺さないって言ってたじゃん!」




