緊急アラート
店に入るとそこは普通の居酒屋の様に見えたが、一般の席のどれにも案内されず、二階のそれも奥の個室に案内された。
「ここの店主さんが実はトクマのOGで昔から色々気を使ってくださるんです」
初の疑問を表情から察してかシロが答えてくれた。
「そうなんですね」
「我々は急の任務だったり特別秘密な会話もありますからね」
「それに私も話せませんしね」
店に置いてある注文用のタブレットから突然マドレが出てきた。
「マドレさんそんなところにもいるんですか」
「もちろんです。といっても志乃様のタブレットに繋げていただいているだけなのですが……」
確かによく見るといつのまにかシロはいつの間にかタブレットを取り出していて、そこから注文用のタブレットにケーブルが伸びていた。
「ということでみなさんとりあえず乾杯の飲み物を頼みましょう」
「なんでAIが仕切ってるんすか」
「おや、そんな小さいことを気にするとは身長だけでなく器までも小さいのですね」
「は?」
「ほら二人とも早くしますよ」
そんなの関係なしにいのりがタブレットを触りだす。相当この状態に慣れているのだろう。
「いのりちゃん! 私の方が器大きいよね!」
「そうですね」
いのりはみなみの方を一瞥もすることなく適当げに答えるが、みなみはその答えを受けて胸を張って得意げにしている。
「ふふふ。ほらマドレ、いのりちゃんもこう言ってるんすよ?」
「おや、どうやらその小さい脳みそでは今のが真摯に考えられた答えでないということが分からないようです。脳に行く栄養も全てその無駄な乳に行っているのでは?」
「はい、かっちーん。絶対ぶっ殺す」
「おやおや、図星でしたか? やはり脳みそが小さいのは間違いないようですね」
「初さん何飲みますか?」
一発触発な二人の会話も完全にスルーしていのりが訊いてくる。
「え、あ、とりあえず生で」
「別に飲みたいものあるなら好きに頼んでいいんですよ? ここは私たちのおごりですし」
また柔らかな笑顔でそう言う。その優しい雰囲気に初はすっかり絆されてしまいそうだった。
「ありがとうございます。じゃあカシオレで」
「はい。分かりました。初さん、しっかり飲みたいもの言えてえらいです」
「そ、そうなんですか?」
「はい。えらいです。よしよししてあげてもいいですが、ここだとみなみに邪魔されちゃうので、今度二人っきりのときにでも」
そういって初にだけ見えるようにいのりはウィンクをした。その見た目にそぐわぬ妖艶さに隣で繰り広げられている舌戦など聞こえないほど見惚れてしまった。
——あれ? 僕はいつの間にいのりさんの弟になったのだろう。でもいいか。なんかとても幸せそうだし。
「そ、そういえばみなみはいのりさんにため口なのは何か理由が? いのりさんの方が先輩なんですよね?」
しかし、すぐに意識を戻して見惚れていたことを隠すように違う話題を振った。
「そうですね。本人の言葉を引用するなら、いのりちゃんはいのりちゃんだから! らしいです」
「……それはよく分かりませんね」
「はい。初めて出会った時からあの調子でしたからもう諦めました」
「それは大変ですね」
「慣れればちょっとは可愛げを感じないでもないですよ?」
「いおりちゃん! 私のこと可愛いって言った!?」
「言ってないです」
みなみがマドレとの話を中断して入ってくる。
「てか私もいおりちゃんによしよししてほしいんすけど!」
「してもらってないし」
「それでもっす!」
とても理不尽だった。
「みなさんいつもので良いですよね?」
「はい」
「いのりちゃん特別ドリンクとかな……」
「ないです」
「はい。いつもので……」
そして注文を終えたのかタブレットを最初に置いてあった充電ポートに置いた。
その時だった。突然初を除く三人の携帯からアラームが鳴り響いた。それは地震が来た時になるアラートとよく似ていた。
「はあ」
いのりはそのアラートを聞いてため息をついた。
「お酒はお預けです、みなさん。どうやら三十七支部が襲撃にあったようです」
——三十七支部……。今日物資を届けた支部か! でも何故。いや、今はそれより。
「みなさん行きますよ!」
そのシロの合図で初を除くみんなが席を立った。初は置いていかれないように急いで席を立った。




