初任務 ⑥
奥の部屋でから三人で物資を運び出す。初は魔法で他の二人は手で持ち上げて運んでいた。詠唱があるのならわざわざ魔法を使うよりかは確かに手の方が早い。しかもドアを通ったりで入れ組んでいるので細かい調節をする必要がある。面倒くさくて初も最初は手で運ぼうとしたのだが、あまりの重さに諦めた。魔法ならそのエネルギーを調節するだけでいいのだ。
全て運び出すころにはそれから一時間ほど経っていて、裏手のスペースなんてものはほとんどなくなっていた。それほどまでに物資が多かった。
——この量三日で運ぶ予定だったのは流石に頑張りすぎだろ。その分僕の能力を評価してくれてると思うべきなのだろうか。それとも物資の運搬がそこまで滞っていたのか。そこまで相手のスパイはこちらの情報を掴んでいるのならかなり危ない状況と言える。ここが襲撃されるなんてことがあったら研究どころじゃない。ひとまずはいるであろうスパイを探すことを最優先にするべきか。でもどうやって? あのルートでの襲撃が予想されるのならその輸送に関わっている人間か? それともそれを最初に計画した中核の人物か? そもそも一人なのか?
「では初さん、お願いします」
その言葉に初は思考から現実に戻される。
「あ、はい。やりますね」
初は昨日、研究の合間に調節しておいた魔方陣を思い浮かべて指を鳴らす。すぐに風が吹いて物資のボックスのうちの一つが宙に浮く。それを確認したのち、もう一度指を鳴らして透明にした。
「やば……」
そんなみなみの声はそのままに次々と荷物を運んでいく。移動させるまで一時間もかかった荷物はほんの十分足らずで全て運び出された。
「改めて本当にすごいですね。あんなにあった物資がこんなに早く……」
「基礎的な魔法の応用ですからシロさんも研究すれば使えるようになりますよ。無詠唱じゃなくても一日あれば終わると思いますし」
「基礎的……」
シロは疑わし気な視線を初に向ける。
「多少なら僕も教えるので……」
「え、いいんですか!」
それに食いついたのはシロではなくみなみだった。頼られること、求められることがなく最近を過ごしていた初にとっては、そこに降って湧いた自身の趣味に関する話題につい話してしまいたくなってしまっていた。
「初さん」
しかしそれはすぐにシロの真面目な声に咎められる。シロはさっきの目ではなく真面目な、それこそ二回目セキさんと話していた時と同じような視線で初を見る。
「それはダメです。魔法の使用はあくまでも才能なんかに左右されない単なる技術なんです。しかも今はそれに特許を施したり制限をかけられるものはありません。もちろん組織を強固なものにするために全体へ教える、所謂トクマの特別な魔法技術もありますが、基本的に我々は個人の能力によって成立しているんです。それに今のトクマはどこに耳があるかなんて分からない状態です。むやみに自分の研究結果をばら撒く真似は長期的に我々にとって不利益になる可能性もあることを十分留意しておいてください」
そう真っ直ぐ初を叱った。
「……はい」
「分かったならいいです。別に初さんが悪いとかそういう訳ではないんです。悪いのは技術の発展に伴ってそれを悪用せんとする人々です。理想の世界ならより技術を広めた方が世界のためですがそうではないんです」
付け加えるように「悲しいことなんですけどね」と言い、シロはこの話題を閉じた。




