初任務 ④
「ふっー! これで全部ですかねっ!」
汗を拭いながら初の新しい部屋でみなみが言う。彼女の献身的ともいえるサポートによって引っ越しはスムーズにそして素早く行われていた。そもそも初が荷物が少ない人間だった。彼の部屋には研究のための本、論文、また、最低限の調理器具、家具ぐらいしかない。しかもみなみとシロが言っていた寮は初の部屋から案外に近く、それも早く作業を終えることができた要因であった。
「純粋な疑問なんですけどいいですか?」
「はい。何でしょう」
初はすでにマドレに話を通してきたと言うシロに訊いた。
「この馬鹿でかモニターは何ですか?」
そう新しい部屋の壁に不自然なほど大きなモニターが取り付けられていたのだ。こんなもの一般の部屋に取り付けられているなんてことはない。確かにここは普通の寮ではないのだけれど、それでも初は部屋にそんなでかいのがあるというだけで何だか落ち着かなかった。
「ああ、それは……」
「ふふふ。ここは私から説明しましょう!」
手に持った荷物を床に置き、みなみはモニターの横に移動し自身の胸を叩いた。
「これはですねー……」
そう言って壁に備え付けられている電話のキーパットのようなものを操作しだした。するとすぐにモニターの電気がついてそこに魔法使いの帽子を模しているであろうエンブレムが表示された。それはトクマの制服に刺繍されていたワッペンと同じものだった。
「そして……」
みなみはキーパットの下部にある他の部分とは素材が異なっているところを触りながら、上部にあるインターホンのカメラのようなところを覗き込んだ。すると映し出されたエンブレムの代わりに読み込み中のインジケーターが表示され、すぐにみなみの顔写真と名前、年齢、そして所属が映し出された。
——ここって第三部隊なんだ。そういえば自分がどの聞いてなかったな。同じだろうか。
そんなこと考えている間に画面は切り替わり、スマホのホーム画面のような形で三×三の合計九つの項目を選択できる画面になった。
「これはこんな感じで自分に関係してる作戦の情報とか、司令部からの通達とかを見ることが出来るんす。他にも最新のニュースとか新たな魔法技術の情報も見れます」
「新たな魔法技術の情報!? 本当にか!?」
「ちょちょ! 怖いこわい! それ以上近づかないでください!」
「そんなことよりもそれはどこで見るんだ!」
初はみなみにどんどんと近寄っていき、もう顔がくっつきそうなほどだった。
「わ、分かりましたから! はやくどいてくださいっす! 操作できないっすから!」
無言で初は一歩だけ後ろに下がる。
「初さん、さっきといい、今回といい、そんなテンション上げれたんすね……」
ジト目で離れた初を見ながら、みなみはまたポチポチとキーパットを操作しだす。
「トクマに一般公開されている研究資料はここです。じゃあ後は好きに見るなり試してみるなりしてください。私はもう知りませんからね! 近寄るならモニターにしてください! では!」
子犬が逃げるようにみなみはビュンとその場を離れた。初は代わりにシロの方を見るが素早く目を逸らされた。味方はいないようだった。
「もう荷物は全部運び終えたので、私もみなみと一緒に戻ります。また明日任務終わりか何かにマドレを紹介しますのでそのつもりでいてください。それでは」
シロはいつもよりも早口でそう言い切って初の返事も聞かずに部屋を出ていった。
——そこまで避けなくてもいいじゃないか。別に悪いことしたわけでもないし。ただ魔法技術の情報が見られると聞いてテンションが上がっちゃっただけだって。でも二人が帰ったのならちょうどいい。誰にも邪魔をされずに調べられる。
誰もいなくなった段ボールだらけの部屋で初は画面を食い入るように時間を忘れ、新たな知識に没頭した。




