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異世界第六迷宮~深淵からの新生は螺旋を描く黄金の進化~  作者: マリエッティ
陽昇

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第84話 加入

カーネイジアイを倒した後、

自分たちは意識を失ったリーザを中間部屋まで運ぶことにした。

リーザを背負うため、その場で膝をつく。


「レオノールちゃん、肩へ腕を回してくれるか?」

「うん」


レオノールがリーザの腕を持ち上げ、自分の肩へ回していく。

背後から身体を預けられたところで、両脚を抱えて立ち上がった。

意識のない人間は、自分で身体を支えてくれない。

しかし、細身のリーザは見た目通り軽い。

これなら背負ってしまえば、中間部屋まで運ぶのも難しくないだろう。


背中へ掛かる重さが片側へ寄り、最初の一歩で危うく体勢を崩しかけた。


「おっ!」

「師匠、大丈夫ですか?」

「ああ、大丈夫。少し持ち直しただけだ」


持ち直したというのは嘘ではないが、つい声が出てしまった理由はほかにある。

リーザの二つの柔らかいモノの感触が、背中に走ったためである。

細身の体型に似合わず、なかなかどうして、立派なものをお持ちである。


柔らかいモノ、いや、リーザの身体がずり落ちないよう、

もっと身体を密着させなければ。

おお、これまたなかなかいい感じではないか。


これは救助であり、必要な処置なのだから仕方がない。

そう、必然的な行為なのだ。

わざわざ言い訳を並べている時点で、すでに怪しい気もするが……


「師匠、顔が赤くないですか?」

「えっ、いや、戦闘の後だからな」


カーリナが振り返り、不思議そうに首を傾げた。

危ない、危ない。

もう少しでバレるところだった。

カーリナはこういうことに限って妙に勘が鋭いんだよな。

カーネイジアイの一つ目よりも今は厳しい。


「カーリナ、先頭を頼む。魔物がいたら無理に戦わず、すぐに教えてくれ」

「はい、師匠!」


カーリナが槍を構え、通路の先へ向き直る。


「レオノールちゃんはボニーさんを頼む」

「うん。ボニーさん、あたしにつかまって」

「そこまで弱ってないって言ってるだろ」


ボニーはそう答えたものの、踏み出した足がわずかに揺れた。

レオノールが差し出した腕を見て、気まずそうに口元を曲げる。


「……じゃ、転びそうになった時だけ借りるからな」

「うん。それでいいよ」


すでにレオノールがボニーの剣を持っていた。

いつ拾ったのかは分からないが、周囲を見る余裕も自分よりあるらしい。

もっとも、今の自分は意識を背中に集中するので精いっぱいだから、

それどころではない。


通路を進むたびに、リーザの呼吸が首筋へかかる。

一定の間隔で聞こえる弱い息に、意識を失っているだけだと確認できる。

それに安心する一方で、背中の感触と吐息のダブルパンチに悶絶しそうだ。


「ヒデキ、大丈夫か?」


横を歩くボニーが顔を覗き込んできた。


「呼吸は安定しています。もう少しで中間部屋です」

「そうじゃなくて、あんたの方だ。さっきから歩き方が硬いぞ」

「せっ、背負っている人を落とさないようにしているだけです。アハハハハ」


間違ったことは言っていない、すべてを説明していないだけだ。


「ふうん……」


ボニーがこちらを見上げたが、それ以上は追及してこなかった。

変に察しの良い相手でなくて助かった。


***


中間部屋へ入ると壁際まで進み、リーザを背負ったまま膝をつく。


「リーザさんを下ろす」


名残り惜しいが、レオノールに手伝ってもらいながら、

背中のリーザを降ろし、壁際の石床へゆっくり横たえる。


柔らかな感触が離れたことに、

安心したような、惜しいような複雑な気分になる。

救助が無事に終わったのだから安心で正しい。

もう一方については……失ったものは大きい。

うん、確かに大きかった。


ボニーもリーザの横へ座り込んだ。

強がっていたものの、壁に背中を預けた途端、大きく肩を上下させている。

そこへ、レオノールが拾ってきた剣を差し出した。


「ボニーさん、これ返すね」

「ああ、ありがとな」


剣を受け取ったボニーは鞘へ戻そうとしたが、

手元が定まらず、二度目でようやく収めた。


「ボニーさん、何があったのか聞かせてもらっても?」


ボニーはリーザの顔を一度確認してから、短く息を吐いた。


「最初はアーマードサイクロプスだった。ウチらの目的は鍵だからな。

 ウチらがアーマードと戦ってる途中で、

 さっきの眼帯の女が急に現れやがったんだ」


魔物同士が争ってくれれば助かるのだが、

迷宮はそこまで冒険者に都合よくできていない。

敵が二体なら、危険も単純に二倍になる。

むしろ、どちらの攻撃がどこから飛んでくるか分からない分、それ以上だろう。


「アーマードサイクロプスは二人で倒せたんですか?」

「ああ。リーザが魔法を叩き込んで、どうにかな。

 鍵は出なかったが、ほら、サイクロプスの眼だ」


ボニーは腰のポーチから、丸い石のようなものを取り出した。

淡い光を内側に閉じ込めた、不思議な素材だ。


「でも、その直後にリーザが倒れた。魔力を使い切ったんだと思う。

 眼帯の女を止めるので精いっぱいで、

 倒れたリーザを抱えて逃げることができなくてな」

「二人だけで、よくそこまで持ちこたえましたね」


カーリナが感心したように口にする。


「持ちこたえたってほどじゃねえよ。

ヒデキたちが来なきゃ、ウチも今ごろ倒れてた」


自嘲するように笑うボニーにレオノールが質問する。


「じゃあ、リーザさんは、怪我しちゃったってわけじゃないんだ?」

「ああ、カーネイジアイの斧は受けてないと思う。

 倒れる前に見た限りじゃ、傷もなかった」


外傷がなく、魔力の枯渇が原因なら、休めば意識を取り戻す可能性は高い。

問題は、自分が治療の知識を持っていないことだ。

鑑定で状態がすべて分かれば便利なのだが、

世の中はそこまで親切にはできていない。


「お兄ちゃん、これも落ちてたよ」


レオノールがマジックバッグから、小さな箱を取り出した。

箱の中には銀色の輪、一つ目を思わせる模様が浮かんでいる。


これは……

レオノールから輪を受け取り、鑑定を使う。


『サイクロプスの指輪』


「おおおお! ――えっ、これいつ拾ったの?」

「リーザさんを運ぶ準備をしてた時。

 ボニーさんの剣の近くに落ちてたの」


思わず声が出てしまったが、残っていた三種類のうち、一つが手に入った。

残るは、ゴブリンとオーガの指輪。

よしっ、これで……


いや、待てよ。

自分たちだけでカーネイジアイを倒したならともかく、

先に戦っていたのはボニーたちだ。

それに、目的の鍵は出なかったらしい。

希少で高価な指輪が目の前にあれば、

ボニーは所有権を主張してくるのではないか?


指を切られ、指輪を奪われた者もいるという、

フランクの言葉が頭をよぎる。


「ヒデキ、それ指輪か?」


ボニーが尋ねてくる。


「えっ、ああ、はい」

「ヒデキたちの目的は指輪なのか?」


どう返答すべきだろう。

誤魔化す……いや、下手に隠したら、バレたときに不信感を持たれてしまう。

ここは正直に話しておいた方が、話がこじれずに済むだろう。


「そうです。私たちの目的は指輪を集めることです。

 これを探してヴァサ北へ来ました」

「集めることが目的なのか?

 変わってんな。なら、少しは借りを返せたか?」

「え? どういう――」

「それはヒデキたちのモンだ」

「いや、でもそれでは――」

「ボニー?」


か細い声が聞こえた。

ボニーが勢いよく振り返る。


「リーザ!」


リーザのまぶたがゆっくり開いた。

焦点の定まらない目で天井を見上げた後、すぐ横にいるボニーへ顔を向ける。


「ここは……中間部屋ですの?」

「ああ。もう大丈夫だ」

「わたくし、アーマードサイクロプスを魔法で……!

 そう、カーネイジアイは?」

「倒した。ウチひとりで――と言いたいとこだが、

 ここにいるヒデキたちが助けてくれたんだ」


リーザがこちらへ顔を向ける。

まだ顔色は白いが、意識ははっきりしているようだ。

身体を起こそうとしたため、レオノールが慌てて肩を支えた。


「まだ寝てた方がいいよ」

「ありがとうございます」


改めて自分を見上げた。


「ヒデキさん。助けていただき、ありがとうございました」

「困った時はお互い様ですから」


口に出してから、ずいぶん立派な返事だと感じた。

つい先ほどまで、背中へ伝わる感触に喜んでいた人間の台詞とは思えない。

自分の内側だけを鑑定できる者がいれば、低評価は確実だろう。


しかし……リーザの姿を見ると、背負っていた時のアノ感触が蘇ってくる。

おっと、いけない。

今度こそ顔に出さないようにしなければ。


「ヒデキさん!」


突然強い声で呼ばれ、肩が跳ねた。


「ごめんなさい!」

「……何のことでしょう?」


リーザが目を瞬かせる。

どうやら、背負っていた時の雑念がバレたわけではないらしい。

安心したが、何について謝ったのかを尋ねられる前に、話を進めてもらいたい。


「お願いがあります。次の戦闘に、わたくしを同行させていただけませんか?」

「ん? 次のですか?」

「はい。命を助けていただきながら、

 わたくしたちは、何もお返しできるようなものを持ち合わせておりません。

 ですので、せめて次の戦いでお力にならせてください」

「それなら、ウチからも頼む。ウチら二人を同行させてくれ」


自分としては、背中の感触だけで十分に『お返し』になったのだが、

それでは納得しないだろうし、言った瞬間にこの場が凍り付くだろう。

なんせ、この中間部屋にいる男は自分ひとりなのだから。


「それでしたら、先ほどボニーさんから、これをもらったので」

「だから! それはあんたらが倒したんだから当たり前だって。

 そんなんじゃ、恩を返したことになってないって。

 なあ、次の指輪、ウチらにも手伝わせてくれ」

「あら、ヒデキさんは指輪が目的でしたの?」

「そうらしい、指輪を集めるのが趣味だってよ。変わってんだろ?」


「なあ、ヒデキ。まだ別の魔物の指輪を集めるんだろ?」

「ええ、その予定です」

「次はどこの魔物だ?」


ここで隠しても仕方がない。


「11階層のオーガプリンセスです。オーガの指輪を狙っています」

「まあ、11階層ですの?」


リーザの声がわずかに硬くなった。

それでも、視線は逸らさない。


「三人で戦うつもりだったのか?」


ボニーがカーリナとレオノールを見た後、こちらへ視線を戻す。


「その予定でした」

「だったら、前衛はカーリナ一人だろ。今みたいに相手の攻撃を分けるなら、

 もう一人いた方がいい。ウチが前に入れば、カーリナの負担も減るだろ?」

「ボニーさんとなら、ボクも戦いやすいと思います」


カーリナがすぐに同意する。

先ほどの戦闘では、二人が左右からカーネイジアイを挟み、

互いの隙を補っていた。

初めて組んだにしては、悪くない連携だった。


「あら、前衛はカーリナさんひとりですの?」

「ああ、ヒデキは魔法使いだからな」

「そうでしたの? ヒデキさん、わたくしも魔法使いですの。

 次の戦いで魔法を拝見できれば、

 魔力の扱いについてお役に立てることがあるかもしれません」

「魔力の扱いですか?」

「はい。戦闘では後衛として支援できますし、

 魔法についても何か助言できると思いますわ」


魔法を専門にしている者から助言を受けられるのはありがたい。

オーガプリンセスとの戦いを思い返す。

三人でも倒すことはできたが、余裕のある戦いではなかった。


次回は砂時計を使い、時間内に何度も討伐する予定だ。

さらにウロボロスも組み合わせる。

一度だけ勝てば終わりではない。

前衛も後衛も、人数が多い方がよい。

恩返しという理由を抜きにしても、二人の協力は大きな戦力になる。


「わかりました。オーガプリンセス戦への協力をお願いします」


ボニーが満足そうに口元を上げ、リーザも小さく頭を下げた。


「ただし、危険だと判断したら退きます。

 指輪より、全員が生きて帰ることを優先します」

「分かってるって。死んだら恩返しもできないからな」

「承知しております」

「師匠、これで五人ですね!」


カーリナが嬉しそうに声を上げる。


「ボニーお姉ちゃんとリーザお姉ちゃんも一緒なんだね」


レオノールの兎耳も真っ直ぐに立っていた。

三人で入った8階層から、五人で地上へ戻ることになった。

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