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オカリナ王国〜音楽の力が全てのこの世界で〜  作者: 早乙女リリィ
第 II 楽章 ピアノ合衆国〜規律、創造、そして祈り〜
42/45

第40小節目 ♫ それはフォルテッシモ、さしずめ、フォルテ。


 二人はそのまま、ホールの中から聴こえてくるピアノの響きに耳を傾けた。

 ユーリは最初、その音の主はクロウリーの恩師であるエリーゼクラヴィアだと思っていた。

 けれど聴いていくうちに、何人もの生徒たちが順番に一曲ずつ弾いているのだと分かった。


 「先生、どんな方なんですか。」

 ユーリが小声で尋ねる。

 「とても、厳しい。」

 クロウリーはホールの扉の方を向いたままで答えた。横顔は口角こそ上がっているものの、その笑みは明らかに引きつっていた。


 「もしかして、本当は会いたくなかったり?」

 「いやいや、そんなこと、そんなこと。」

 彼は早口で否定する。だがそれはどうも嘘くさい。


 そして何か誤魔化すかのように、話題を変えた。

 「それよりも君さ、まだ学生だよね。どこの学校に通っているの?」

 突然の問いに少女は少し驚いたものの、すぐに表情を和らげて答えた。

 「実は私、学校にはもう…。」


 クロウリーは彼女の答えに眉を上げた。

 「そうなの?」

 「はい、2年前に母が亡くなったり、他にも色々…。ですね。」


 ユーリは静かに話した。

 その声は淡々としていて、感情の起伏を感じさせなかった。

 まるで悲しみや悔しささえも、とうに手放してしまったかのように。


 クロウリーはじっと彼女の横顔を見つめる。

 「なるほどね。それでいて、一人で生きる術を身につけている。それに、あのオカリナの腕前……。」

 「そんなことはないです……。

ただ必要だったから、できることをしていただけで。」


 ユーリの控えめな言葉に、クロウリーは微笑んだ。

 「そうだ!」

 思わず声が弾む。

 静かにしていなければいけないホールの前だというのに、熱がこもった声が響いた。


 「君さえ良ければさ、ここを受験してみなよ。」

 ユーリが驚いたように顔を上げる。

 クロウリーはそのまま続けた。


 「毎年、入学試験の合格者の中で、成績上位者数百人に奨学金が支給されるんだ。

 その中でも、各楽器専攻の首席合格者なら入学金も学費も全免除!

 君ならオカリナ専攻で受けたら、トップ間違い無しだ。」


 クロウリーのエメラルド色の瞳が、まっすぐにユーリを見つめる。

 「まだ音楽を学びたい気持ちがあるなら…挑戦してみる価値はあると思うよ。」

 彼の言葉が、彼女の心にそっと触れた。


 「それに、ここではきっと、もっといろんなことが見つかる。

 世界は広いからね。」

 彼はステンドグラスの外に目を向けた。

 差し込んだ午後の光は、色とりどりの影を床に映し出している。


 ユーリはじっと耳を傾け、そっと目を伏せる。

 ——まだ音楽を学びたい気持ちが、自分の中に残っているのかもしれない。

 そんな予感が、胸の奥で小さく芽生えた。


 そんな話をして、また少し仲が縮まったような二人の座るベンチに、ふいに影が落ちた。


 「『ピアニッシモ』。」


 ピシャリと言い切るその声は、女性のものだった。

 クロウリーは反射的に顔を上げる。

 「……エ……。」


 そしてそれが誰か分かった瞬間、彼の表情は一気に強張った。

 先程まで、「世界は広い」だの「挑戦してみる価値はある」だのと、年下の少女に向かって悠々と語っていた青年の姿はどこへやら。

 今や彼は、(いか)る飼い主に怯える仔犬のように縮こまっていた。


 その様子を見て、ユーリは不思議に思う。

 (もしかして、この方が…。)

 スラリと伸びた背筋に、整った顔立ち。鋭い眼差しには、一切の甘さがない。


 「エリーゼ…先生…。」


 つづく

 

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