第36小節目 ♫ 鍵盤の街のドレスコード
クロウリーたちは、グランドピアノ州の街並みを歩きながら、目的地である国際オーケストラ音楽学院へ向かおうとしていた。
「こっちの道ですね、行きましょう。」
ユーリが先へ進もうとすると、クロウリーが足を止めて言った。
「ちょっと待って。」
「え?」
クロウリーは、ユーリの着ている深緑色のワンピースに目を留めた。
「ねえ、少し寒いんじゃない?」
薄手のコーデュロイ生地のそれは、グランドピアノ州の気候には少し心許ないことに気がついたのだ。
先を急ごうとする彼女は、真面目な性格がゆえに口には出さないものの、微かに肌寒そうな仕草が見られた。
そしてクロウリーは自身の肩に掛けてある紫色のマントを見やった。
彼の髪の色をより鮮やかにしたようなそれは、ピアノ合衆国に入るまで顔を隠すのに使っていた。しかし旅の間ですっかりボロボロになってしまっていた。
さらに街行く人々を見ても分かる通り、この州の白黒を基調としたファッションに比べると、目立ちすぎる色合いでもあった。
「新しい服に着替える必要があるみたいだね。」
クロウリーはそう言うと、すぐそこにあった洋装店を見た。
店内はシックな白と黒のインテリアでまとめられていた。
整然と並ぶ服や小物たちも、モノトーンが基調だ。
「さあ、何か暖かそうな服を選ぼう。」
クロウリーはやや硬い表情のユーリの肩を押しながら、店の中へと進んだ。
商品はどれも機能的でありながら上品で、主にピアノを弾く人々の生活を考慮したデザインになっていた。
例えば、シャツやワンピースの袖は少し短いものや、装飾が控えめであったりと、腕を動かす際に邪魔にならないよう仕立てられている。
また靴の陳列棚には、ドレスシューズやヒールなど、踵の高いものが多く見られた。
これらはピアノのペダルを踏むのに有用なのであろう。
「フォーマルなものばかりだね。」
クロウリーが呟きながら店内を見回す。
「やっぱり、ここは規律を重んじる場所なんですね。」
ユーリはまだ緊張しているようだった。
だが店の奥に目を向けた彼女は、少しほっとした。
奥のラックには、華やかな色合いのドレスが吊るされていたのだ。
色とりどりの花たちのようなそれは、ここが白と黒が全てというわけではないことを示している。
「発表会用のお衣装ですよ。」
品の良い店員が、適切な間合いと丁寧な口調で二人に声をかけた。
「どれも素敵です…。」
ユーリは微笑みながら、店員にも、そこの花々たちに対しても答える。
「施設によっては、白黒の服でしか入れない場所もあるので、迷われたらモノトーンのお洋服をおすすめいたします。」
という店員の助言も聞き、二人は新たな装いに着替えた。
つづく




