第33小節目 ♫ 木製の小鳥
それから数日が経った。
ある昼の晴れた日、クロウリーは船の甲板に座り込み、何やら真剣な顔をしていた。
海風が彼の紫色の髪をさらい、ロングコートの裾がなびいている様は、どことなく絵になった。
それを遠巻きに眺めていたユーリが近づくと、彼の手には何か木でできた細長いものが握られていた。
「何してるんですか?」
ユーリは少し間を空けて左隣に座り、それを覗き込んだ。
「見てくれ!」
クロウリーは嬉しそうに顔を上げて言った。
手の中にあるのは、どうやら船内の木材の端切れを削って作った、即席のテノールオカリナだった。
「それ、船の道具を勝手に削ったりとか…?」
「違うぞ、ちゃんと甲板の掃除をしていた船員から許可を得た!」
そう言って得意げなクロウリー。
だがよく見ると、オカリナの形はややいびつで、音が出るかどうかすら怪しい。
「ミケルのソプラニーノオカリナがあるとはいえ、ずっとテノールを吹いていないから恋しくなってね。
ボクの父もよく、オカリナを使ってたから…。
さあ、試してみるぞ!」
「や、やめておいたほうが…。」
意気揚々とした王子は、その即席オカリナを口に当て、息を吹き込んだ。
しかし出てきたのは、音楽というよりも、ただの「ピヨ〜〜ッ!」という間抜けな音だった。
周囲で寝そべっていた人も驚き、クロウリーをじっと見つめる。
「だから言ったのに…。」
ユーリは少し呆れ気味に呟く。
「ふむ、はやり木材が硬すぎたか。
今度はもう少し柔らかい木で作れば、必ず成功する!」
クロウリーはすぐに次の材料探しに取り掛かった。
ユーリは軽くため息をつきながらも、彼が本当に楽しそうな姿を見て、止める気にはなれなかった。
結局クロウリーは、日が暮れるまで木材の端切れを削り続けた。
そなうち船員や乗客たちにも興味を持たれ、「オカリナ作りってそんなに面白いのか?」と周囲を巻き込み始めていた。
彼の無邪気な笑顔と情熱を、ユーリはそっと見守った。
つづく




