第30小節目 ♫ コインの中の音符たち
船の甲板に広がるメロディー。
最初は無愛想だった船員も、腕組みをほどいて静かに聴き入っている。
煙草を吸いながら柵にもたれていた男も、その手を止め、「悪くない。」と呟いた。
曲が終わると一瞬周りは静まり返り、その後に盛大な拍手に包まれた。
「なんて素晴らしいんだ!」
「もっと聴かせてよ!」
乗客たちの声が次々とあがる。
船員はというとため息をつき、
「もういい、好きにしろ。
ただしちゃんと仕事するんだぞ!」
と言ってどこかへ行った。
何曲かの即興演奏会を終えた後、二人と二羽は、偶然にも空いていた客室の一間を借りることができた。
そこのテーブルには、先ほどのクロウリーの演奏に感動した人たちからの心付けのコインがどっさりと積み上がっている。
「とんでもない金額になりそうですね。」
ユーリは、目の前のコインの山を見ながらぽつりと言った。
四分音符の絵が刻印された銅貨、二分音符柄の銀貨。さらには全音符が刻まれた金貨までもが混じっていた。
全音符金貨は、この世界で最も価値のある硬貨だ。
「これだけあれば食料どころか、これからの旅の宿にも困らないね。」
クロウリーは笑いながら、金貨をひとつ拾って軽く眺めた。
「特に、お金持ちそうなマダムはあんなに大金をくださって…。」
ユーリの言う女性というのは、VIPの椅子に腰掛け、奥の方で静かに演奏を聴いていた人物だった。
白と黒のストライプ模様のようなボブカットは、前髪もサイドも全てが直線で切り揃えられていた。
顔にはサングラス、そして服装もこれまた白黒のツートーンカラーのコートに身を包み、どこか威圧感があった。
背中には何やら大きな黒い箱を背負っており、大型楽器の演奏者のようにも見えた。
「これは、いずれ事が収束したら身を明かして百倍にでもしてお返ししないとね。」
クロウリーは右手に顎を添え、冗談めかして言った。
「さあ、貰ったこの音符の中から、今からでも切符代を払いに行こうか。」
立ち上がったクロウリーの言葉に、ユーリは目を丸くする。
「まさか…最初からそのつもりでオカリナを吹いたんですか!?」
彼は振り返った横顔でニヤリと口端をつり上げた。
「無一文のオカリナ国民が稼ぐとしたら、これが基本だろう?」
その言葉にユーリはため息をつきながらも微笑む。
「本当にクロウリー様は…。」
二人が客室を出てデッキへと向かうと、空には満天の星広がっていた。
クロウリーは歩きながら天を見上げた。
「いつか君ともデュエットできる日が来たら…。
待ってるよ。」
彼の言葉に対し、ユーリはまだ何も応えられずに下を向いた。
しかし、二人の心の旋律は確実に同じ方向へと流れはじめている。
柔らかな風がデッキを吹き抜ける。
つづく




