第29小節目 ♫ 水色のソロステージ
(クロウリー様!?)
ユーリは慌てたが、彼は小さくウインクすると、息を吸い込んだ。
そしてソプラニーノオカリナで、軽やかな旋律を奏で始めた。
「なんだなんだ?」
高らかな音色が船のデッキに響き渡り、周囲の乗客たちが次々と振り返る。
クロウリーが吹く曲、それは海や空の軽やかな青色を連想させるような、清々しいメロディー。
「この曲知ってる!フルート四重奏のために作られた曲でしょう?」
それは近頃フルート皇国で流行している組曲の一つだ。
今ここで彼が奏でるそれは、フルートの音域に近いソプラニーノオカリナでアレンジして吹いたものであった。
演奏を聴いた乗客たちが集まってくる。
顔も分からぬ青年の卓越したしらべに、皆が心を奪われた。
隣にいたユーリも耳を澄まし聴き入った。
(フルート皇国の音楽…なのに。)
敵対しているかもしれないフルート皇国の曲を吹くなど、普通ならあり得ないことかもしれない。
だがクロウリーにとっては、そんなことは全く問題ではなかった。
彼の心の中には、ただその時吹きたい音楽があるだけだった。
国の情勢や争いなど関係ない。
これまで彼が国の民のためにオカリナを吹いた時もそうであったように。
ユーリはふと、胸の中に広がる不安と共に、その純粋さに羨ましさを感じた。
「あなたは本当に自由なんですね…。」
彼女の中の世界が、クロウリーの音楽によって少しずつ変わっていくのを感じた。
つづく




