第28小説目 ♫ 切符を出せ!
「おい、切符は見つかったのか。」
その低い声に、二人は振り向いた。
出航後、仕事がひと段落したらしい先ほどの船員がこちらに向かってきた。
「ええと、その…。」
ユーリは言葉を詰まらせた。
「ちょっと鞄の中が散らかっていてね。すぐに出てくると思うんだけど…。」
クロウリーは平静を装い、笑顔で返事をした。
「すぐに出てくる?」
船員は眉をひそめた。
「出港前に確認すべきだったな。今すぐ出せ。」
「ええもちろん、今探します!」
鞄を開け、クロウリーは手早く中身をかき回し始めた。だが切符なんてものは元からない。
追い詰められながらも、彼は策を巡らせる。
するとその時、鞄の中からころん、と音を立て、何かが転がった。
それはソプラニーノオカリナだった。
「それは切符じゃないな、オカリナだ。」
船員は険しい表情を崩さない。
「そう、オカリナだ…。そう…。」
クロウリーは一瞬固まったように見えたが、次の瞬間パッと顔を明るくさせて手を叩いた。
「そうなんだ!ボクらはオカリナ吹きの音楽家なんだ!」
「…は?」
船員の表情が、一瞬驚きに変わる。
「そう!この船に乗ったのは乗客を楽しませるため。急遽雇われたんだよ。」
(ええ〜!?)
ユーリは思わず声を上げそうになる。
そして口をあんぐりと開けて、クロウリーを見た。
「それで切符なんて最初から持ってなかったんだった!いやあ、すっかり忘れていたよ。」
「聞いていないぞ、そんな話!」
船員はクロウリーたちにまた一歩近づき、さらに眉間に皺を寄せた。
「お前が音楽家だって証拠を見せろ、証拠を!」
「証拠?簡単さ。」
彼は軽やかに微笑むと、持っていたソプラニーノオカリナを唇に当てた。
「じゃあ、これを聴いてくれよ。」
ま深く被ったマントの奥で、緑の瞳がきらりと光った。
つづく




