第26小節目 ♫ オカリナ船
高い船笛を響かせるそれは、思いのほか大きな客船であった。
その船は、まるで巨大なオカリナを模したかのような形をしていたのだ。
曲線を描く船体はまろやかな赤土色で、表面はさらさらとした陶器のようでもあった。
さらによく見ると、側面にはオカリナの音孔のような丸い窓が並んでいて、中からは乗客たちがちらりと見える。
船首もオカリナの吹き口の形をしており、波を切り裂きながら進んでいた。
船体が波に揺れるたび、微かにきしむ音が聞こえてくる。
船が港に到着すると、船員たちが甲板から降りてきて、手際よく乗船口を整える。
「なんだ、二人だけか。」
船員の男は、客の一人がこの国の王子であることには気がついていないようだった。
乗船できるよう待っていた二人だったが、突然ユーリは重要なことを思い出した。
「あんたら、切符は持っているんだろうな?」
船員の言葉に、クロウリーとユーリは顔を見合わせた。
(…君、お金持ってたりする?)
(持ってません…!)
(だよねぇ。)
そこに、少々不機嫌そうな声が割り込んできた。
「急いでいるんだ、早くしまたえ。」
上のデッキで煙草をふかしていた中年の男がこちらを見下ろしていた。
茶色い背広を着たその腹は丸く、甲板の柵にもたれながら、薄い煙をオカリナ形のパイプから吐いていた。
焦るユーリの隣で、クロウリーは一瞬目を細めた。
「すまない、切符はあるんだが鞄の奥底に入ってしまってね。すぐに取り出せそうにないから、後で渡すよ。
あの急いでいる彼のためにもひとまず乗せてくれないか。」
口元には自信を漂わせながら船員に向き直る。
「本当かぁ?」
船員は眉をひそめ、疑わしげな視線を向ける。
「ああ、本当だとも。」
そう余裕を装い、肩をすくめる。
「ほら、彼女が疲れているだろう?早く座らせてやりたいんだ。」
「私全然疲れていませんけど…。」
(いいから黙ってて!)
クロウリーは顔を引きつらせた笑みで応じた。
まだ納得していないような顔の船員だったが、煙草をはじきながらこちらを見ている男の視線もあり、渋々頷いた。
こうして二人は、揺れるタラップを慎重に渡り、船内へと足を踏み入れた。
(無賃乗船ですよ!?)
(仕方ない、後でなんとかするさ。)
ひそひそと話しながらデッキを歩く二人の声に、左のバッツが心配げに「キィ」と短く鳴いた。
ポッポーー♪
船はまた、オカリナのような軽やかな汽笛を鳴らした。
つづく




