表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
オカリナ王国〜音楽の力が全てのこの世界で〜  作者: 早乙女リリィ
第 I 楽章 オカリナ王国〜自由と優しさ〜
PR
25/45

第24小節目 ♫ 出立


 「ピアノ合衆国…?」


 クロウリーは、海の向こうに広がる巨大な国、『ピアノ合衆国』を思い浮かべた。


 その国はいくつもの州が集まり形成された連邦国家であり、それぞれの州が個性豊かな文化と伝統を持っている。

 象徴する楽器はもちろんピアノ。

 州ごとに特徴のあるピアノを扱う人々が暮らしており、その多様性は計り知れない。


 その首都は、国の東海岸部に位置する『グランドピアノ州』。

 そこにはクロウリーがかつて音楽を学んでいた学校ら『国際オーケストラ音楽学院』があった。


 「ボクの恩師がいるんだ。彼女なら何か力になってくれるかもしれない。」



 クロウリーとユーリは、王都とは反対方向へと森を抜け、その先の小さな村にたどり着いた。

 そこから港までは半日ほどの道のりだという。


 「この川沿いを下っていけば、小さいけれど港があります。」

 「ありがとうユーリ。君には本当に世話になったね。

 でももう、これ以上は付き合わせられない。」


 彼が背負った袋には、ソプラニーノオカリナ、そしてユーリから貰ったパンや水、果物などが収められていた。

 その量がこの旅が長いものになることを示している。


 ユーリは俯き、小さく微笑んだ。

 「分かっています。私がいても、お役に立てることはもう…。」

 「違うよ。」

 クロウリーは優しく、だが強く遮った。

 森の木々はざわめき、葉がこすれ合う音だけが二人の間に響いていた。


 クロウリーは港へと向かう道を歩き出した。

 頬に当たる風は冷たくはないが、どこか物悲しいものだった。

 それは彼の背中を押しているようで、同時に引き止めようとしているようにも感じられた。


 ユーリはそこに立ち尽くしていた。

 その右手には、肩掛け鞄の布越しに、バスオカリナを握りしめていた。

 肩に止まっていた左のバッツが、ちらりと小さくなっていくクロウリーの背中を見たあと、彼女の頬に顔を寄せた。

 まるで「本当にこれでいいのか?」と問いかけているようでもあった。


 クロウリーは一度振り返った。

 少女の表情は、もう遠すぎてはっきりと見えない。


 「君のバスオカリナの音色が好きだ。」

 クロウリーの言葉が、風に乗ってユーリのもとへ届いた。


 「君の音は、とても優しいよ。」

 そう話す彼のエメラルドの瞳は、穏やかだった。


 最後の言葉がユーリの胸に染み込んでいく。

 彼女は何も答えなかった。

 ただ静かに、クロウリーの姿が見えなくなるまでそこに立っていた…___。



 風はさらに強くなった。

 どのくらい時間が経っただろう。

 随分と歩いた気もするが、まだ全然なのかもしれない。

 クロウリーは一歩一歩ただ歩みを進め、あたりには土を踏みしめる音だけがあった。


 彼は歩きながら静かに思いを巡らせた。

 それは自分のことよりも、国や家族を心配する気持ちであった。

 「父上や母上は大丈夫だろうか。家臣たちは…。

 そして、ミケル…。」


 特に、弟のことが頭によぎる。

 クロウリーはミケルの最後の顔を思い出した。そして、彼がどうしても自分を追い詰めてしまうことを理解していた。

 あんなことがあってなお、当たり前のようにクロウリーは兄弟としての絆を変わらず感じていた。

 「どうか無事でいてくれ…。」

 その小さな呟きのようなものは、風にかき消されるように散っていった。

 冷静でいるつもりでも、焦りがクロウリーの中に積もっていった。


 すると、背後でかすかに足音と、羽音のようなものが聞こえてきた。

 足を止めると、それは軽く小さくパタパタと近づいてきて、彼の少し後ろまで来たところで止まった。

 クロウリーはゆっくりと振り返った。


 「私も行きます…!」

 ユーリの声が、はっきりと響く。



 つづく


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ