第21小節目 ♫ 秘めたる白き息吹
その楽器は、彼が今持つソプラニーノオカリナよりも遥かに大きく、深みのある存在感を漂わせていた。
石英の石でできたそれは、どこか冷たさを感じさせる質感であり、薄暗い森の中でも純白に輝いていた。
「君、オカリナは吹けないって…。」
クロウリーの問いに少女は何も答えなかった。
ただ、その指先でそっとバスオカリナの冷たい曲線を撫でている。
まるでオカリナの心を探るような動作だった。
「少し、音を聴いていてください。」
そう言うと、ユーリは静かに深呼吸をし、唇にオカリナを当てた。
静寂が支配する中、低く重厚な音色が響き始める。
周囲の空気が、凛とした。
「この音はまさか…。」
大地の奥底から響くようなバスオカリナの旋律は、どこか母の優しさを思わせるような温もりがあった。
同時に大地の力強さを宿しているようでもあり、そして、悲しそうでもあった。
曲が進むにつれ、クロウリーは目を閉じ、音色に身を任せた。
痛みが薄れていく不思議な感覚が広がり、血が滲んでいた傷が癒えていく。
さらに、周りの枯れ果てていた草木までもが、音色に呼応するように少しずつ色を取り戻し始めた。
くすんでいた葉色は鮮やかな緑を取り戻し、乾ききっていた土から小さな芽が顔を出した。
ユーリは何も言わず、ただ旋律を紡いだ。
この曲は昔、この世界のどこかで作られたもの。
空を見上げ、遥か遠くに存在する惑星に心を馳せ、音色を綴った者があったのだろう。
かの星の正体は、実は巨大なガスのかたまりである。その姿は悍ましいとも言える。
それでも、人はあの惑星に何かしらの神秘と崇高さを感じたのかもしれない。
そしてその惑星と同じ名を付けられたこの曲は、今もなお人々に安らぎを、そして力強さを与え続けている___…。
曲が終わる頃、木々の隙間からは暖かな光が差し込み、鳥の美しい声が響いていた。
二人の足元には緑と花々が広がっており、あたりは命に満ち溢れた場所へと姿を変えた。
ユーリはバスオカリナをそっと膝の上に置いた。
クロウリーが自身の腕をまくってみると、そこには傷の跡すら残っていなかった。
完璧に癒えたことを確信しながら、彼は周囲の変化に目を奪われていた。
「これ、君が…?」
少女は深く息を吐いた。
「クロウリー様。
私がオカリナは吹けないと言ったのは、嘘なんです。」
つづく




