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馬鹿野郎

  


   「やら・れで・たま・るか」

 それでも、フラフラになりながら立ち上がるセルアルを見て

  ディアボロスの口元が、ニヤリと笑うとセルアルの首を掴み

  何度も何度も、地面に叩きつけ始めた。


 そして、セルアルの体が『ビクビク』と体が痙攣するのを

  目にしたディアボロスは、そのまま地面に投げつけると

  空を見上げて、咆哮を上げたのだった。


 


 「フ〜〜〜」

 ディアボロスは大きく息を吐くと、動かなくなったセルアルには

  目もくれずに、辺りを見ながらノシノシと歩き出した時

  

 「何処に行く気だ」

 

 その声の方に視線を向けると、動かなくなり死んだと思っていた

  セルアルが立っているのが、目に映った。

  体中の骨が折れて、顔は血だらけのセルアルが、足を引き摺りながら

  近付いてくる姿に、ディアボロスは後退り、そして本能が言っていた。

  ボロボロで、動くのがやっとの筈のセルアルを危険だと感じていたのだ。


 野生的なその本能は、正しかった。

  何故なら、何度も攻撃を受けている最中に、セルアルの固有スキルである

『不屈の闘志』が覚醒していたからだった。

  

『不屈の闘志』は、受けた痛みの分だけ、全身は強化される。

  絶対負けない。屈したりはしない。その思いが強い程より強くなる。

  そして、致命傷を負ったセルアルの全身は、ディアボロスの攻撃では

  痛みを与えられない程、強固になり、それが力へと直結していたが

  意識が朦朧としているセルアルが、それを知る由はなかった…。

  

 ディアボロスは再び雄叫びを上げると、拳をセルアルの顔面に打ち付けたが

  顔面で受け止めたまま、その場からびくりとも動かなかった。

  それに驚いたのか一歩下がると、今度は腕を思いっきり後ろに引いて

  渾身の力を込めて拳を突き出した。


 セルアルは、その渾身の一撃を片手で受けとめると、ディアボロスの拳を握りしめたまま

  そのまま後ろに引っ張り、腕を引き千切った。


 ディアボロスは堪らず悲鳴を上げて、千切れた腕の肩口に手を当てながら

  よろめいたのを、セルアルは見逃さず間合いを詰めて、剣を横に振り切ると

  ディアボロスの上半身が『ドスン』と音を立てて地面に崩れ落ちた。


 ゆっくりと、その上半身に近付いて、見下ろしながら顔面を剣で突き刺すと

  ディアボロスの全身がボロボロと崩れていき、その中から魔石がゴロリと

  地面に転がり出ると同時に、全身は粉末の様になり、風に舞って宙へと散っていった。


 




 その後、冒険者協会の治療室に搬送されたセルアルの治療に

  高名な治癒師が数人がかりで、治療に専念していた。

  

 セルアルが搬送された時、ギルマスを始め、クレハ、スハノ、カーシェ、ミラーなど

  多くの冒険者に深々と頭を下げられて

 『どうか、助けて欲しい』『死ぬには、まだまだ早すぎる』『どうかお願いします』

  涙声で懇願された時、困惑した治癒師達のリーダー格の男性が、口を開いた。


 「勿論、私達も助けるつもりですが、大量の出血に、皮膚を突き破り

  骨の一部が見えている箇所もありますので、念の為に覚悟だけは・・・」



 その言葉を残して治癒師達が治療室に入ってから、数時間が過ぎていた。

  治療室の前のロビーで、カルラがウロウロと歩き回り

  スハノとクレハが、頭を抱えて俯いていた。

  

 そして、カーシェの横に座っているミラーが、眠そうにコクリ、コクリと

  頭が前後に動いてるのを見て、カルラがもう寝る様に促すと

  ミラーは首を振り足早で歩き出すと、暫くして帰って来た。


 「顔を洗ってきたから、大丈夫!」「セルアル兄ちゃんが、目が覚めた時

  おかえりって、言うんだもん」


 カルラを始めその場に居た全員が、溢れ落ちそうになる涙を必死で堪えた。


 

 

 そして、三時が過ぎた頃だった。

 

 『みんな、ごめん』『もうダメかもしれない』

 

 何処からかセルアルの声が、治療室の前のロビーに静かに響いた。

 

 「え?」

 全員が固まり、動きを止めた。


 「セルアルなの?」「なに馬鹿なこと言ってるの?」

 「聞こえてる?」「あきらめないで!」

 スハノの悲痛な叫び声で、皆がハッと我に返った。


 「そうだ!」「お前には、まだまだ働いてもらわないと困る!」


 「セルアル兄ちゃん!何処にいるの!」


 「セ、セルアルさん!」


 『スハノ達が、無事でよかった』『ミラー皆んなの言う事聞くんだぞ』

 『もう・・・』


 セルアルの声が聞こえなくなると、カルラが意を決したかの様な顔付きで

  突然歩き出すと治療室の扉を開いて、ズカズカと入っていった。

 

 「ちょっと、ギルドマスター、困ります」「今はまだ治療中で…」


 「分かってる!」「それ位分かってる!」「だけどね、このままだと

  セルアルは、助からない!」「君達もそう思ってるんだろう!」


 セルアルの症状が分かっている治癒師達は、無言のまま俯いた。


 「だから、皆んなで助ける!」「お前達も入れ!」

 「ヒール位出来るだろう!」「後悔する前に動け!」

 カルラの叫びに触発されて、次々と治療室に入ってくると

  それぞれが手を翳してヒールを唱えながら、セルアルに必死の思いで、語りかけた。

  

 「セルアル、諦めるな!」「目を覚ませ!」


 「そうよ!」「皆んな待ってる!」


 「セルっち!」「助けてくれた礼も言えてないにゃ!」


 「セルアル兄ちゃん、目を覚まして!」


 「セ、セルアルさん!」「が、頑張って下さい〜!」


 「皆んなの声が、聞こえてるか!」「死んだら、皆んなが許さないからね!」

 「もし、もし、死んだら、ミルセ姉になんて詫びればいいんだよ」

 カルラの瞳からボロボロと零れた大粒の涙が、セルアルの手に落ちた時だった。


 「カ、カルラさん」「らしくない」「な、泣いてる」


 するとカルラが、涙を拭いながら言った。

 「馬鹿野郎」・・・と。


 

 

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