アッシュランド領 再び
領境の町テリアで盗賊を引き渡す。
ここの隊長だったヨルヴィックさんはマリデン子爵の下で親衛隊隊長をやっているそうだ。
「会えないのは残念な様な……。」
「まてまて、ニコラ思い出せ。あのおっさんは緑の騎士の話が長かっただろう。今会えば更に黒騎士の話が追加されると思うぞ。」
僕はミハイルの意見で思い直した。
ヨルヴィックさんの話も長いこともあるが、今余計な事をしている暇はない。
「確かにそうだ。あれは拷問だった。」
僕はミハイルと顔を見合わせて苦笑いをした。
テリアからアッシュランド領へ向かう街道は整備されている道だ。
内乱の被害が及んでいないらしく、道中の治安も良い。
馬車の操縦は朝から昼、昼から夕と二交代で行っている。
この馬車には八人いるので、一日に操縦する人数は四人(操縦者とその手伝い)。
組み合わせにもよるが、二日に一度、半日操縦すれば良い持ち回りになっている。
今日は僕とジュリアの組み合わせでの操縦の日だ。
「ニコラ見て!あんなに大きな湖なんてあったかしら?」
ジュリアが指を指したその先には新しく大きな湖が出来ていた。
周りを森に囲まれており、湖の水は青く澄んでおり底が見えるほどである。
(なぜこのような湖が出来たのかは覚えがあるが、知らない振りをしておこう。)
僕はそう心に刻んだ。
この湖、今では付近の村の重要な水源として使われだしているらしい。
よく見ると、岸辺に新しい村が出来始めている。
街道の途中に留まる旅館もあるように思えた。
「領境の丁度良い位置に旅館があるわ。今日はこの村に泊まって、明日の朝出発すれば夕方ぐらいにはブロッサムに到着するわね。ここに村を作ったのはロムスさんでしょうね。」
街道を安全に移動する為には安全に泊まることの出来る旅館は必要だ。
この道はオロール王国からセリアン王国への旅路でもある。
それを見越してのロムスさんの手配なのだろう。
その日はその新しくできた村の旅館に泊まり、翌朝ブロッサムに向けて出発した。
昼を過ぎる頃、道は地面に砕石を撒いただけの物から石畳に代わる。
ブロッサムに近いほど交通が整備されているのだ。
僕達は少し予定よりも早く、夕方前にブロッサムに到着した。
ジュリアが僕と他の六人に今後の予定を伝えた。
「ニコラと私はこの後、アッシュランド伯に挨拶と今後の予定の相談に行きます。後の者は必要物資の補給をお願いします。」
ミハイルやマロリオンは食料の買出しに出かけた。
シオリとカエデは飲料水の確保。
キョウカとゼフィールは馬車の手入れである。
食料や水も大事だが馬車の手入れを怠るわけにはいかない。
長旅での替えは無いのだ。
僕とジュリアがアッシュランド伯爵の屋敷を訪れると、ロムスさん自身が出迎えてくれた。
「やあ、ジュリエット嬢にニコラ君。久しぶりだね、あの時はずいぶんと御世話になったよ。」
「お世話になっております。今日は父の名代として参りました。これをお受け取り下さい。」
ジュリアは深々とお辞儀をすると、持っていたハンドバックから手紙を一通取り出し、ロムスさんの傍に控えていた執事に差し出した。
「アルバート殿からの手紙ですね。ありがたく頂戴いたします。では、カール。彼らを案内してくれ。」
ロムスさんの執事はカールと言う名前らしい。
年季の入った短いひげを蓄え少し小太りの初老の男の様だ。
執事のカールさんは用心深くこちらを窺っている。
こちらに落ち度でもあったのだろうか?
「では、お客様方。こちらへ。」
執事のカールさんの案内で屋敷の応接間に通される。
「こちらでお待ちください。また何かあればメイドを控えさせていただきますので、何なりとお命じ下さい。」
入口を見るとひとりのメイドが立っている。
ただ、その姿は隙が少なく、普通のメイドには見えなかった。
「カールさんでしたか?あなたはアッシュランド伯に仕えて長いのでしょうか?」
「はい。私は先代の頃よりお仕えしております。この度、ロムス様が新しく当主になられたのを機会に引退を考えておりましたが、ロムス様のご温情で仕えさせていただくことになりました。」
「そうでしたか。ぶしつけな質問で失礼しました。」
「いえいえ。お気になさらずに。」
どうやらカールさんは先代のレクト・アッシュランドからこの家に仕えていた人物の様だ。
先代のような事にならない様に細心の注意を払っているのだろう。
僕は隙の無いメイドがいる理由を理解した。
(ロムスさんもまだまだ油断が出来ないと言うわけか……。)
アッシュランド領で打ち合わせの後、僕たちが泊まる旅館に隣接する小屋に向かう。
ここで用意したあの魔道具を組み立てるのだ。




