出発の日
出発の日が来た。
どれほどこの日を待ち望んだことか。
「ニコラ、油と格闘する日々はもう終わりなんだよな?」
僕だけでなくミハイルやマロリオンも自動車の組立を憶えさせられた。
キュアさん曰く、“憶えている者が多いほど間違いは少ない“そうだ。
でも、全員が間違えていたり、一人だけが正しく他が同じように間違えていたりしたらどうするのだろう?
組み立てていて分かったのだが、自動車を構成する部品は意外に多い。
確かにギア一つ間違った場所に組み込むと動きがおかしくなるし、部品の消耗が早くなるだろう。
自動車は魔獣から採れる魔石を原料にして動く。
大きさにもよるが長時間の駆動が可能だ。
馬車の場合、動物を使っている為、何時間かおきに休息させる必要がある。
二十四時間歩くことの出来る動物は人間だけなのだ。
「我々は今この日、新しい一歩を踏み出す日を迎えられた。
天気は上々、申し分のない晴天です。
これは新しい世界へ踏み出す我々を祝福しているかのようです。
新天地では困難なこともあるでしょう。
ですが、この日の為に冒険者訓練所で培った訓練は無駄ではありません。
新天地では各々の役割を果たしていただきたい。
それでは出発です!良い旅路を!」
アルバートさんの掛け声で一行は出発する。
騎士団は予定通り三台の大型馬車に別れ、それぞれの隊商が雇い入れた傭兵として行動するようだ。
それぞれが隊商の前に付き護衛をする。
三つに分かれた隊商はそれぞれ別のルートで獣人の国、セリアン王国を目指す。
僕達のルートはマデリン領を通り、アッシュランド領を抜けセリアン王国を目指すコースだ。
以前通った道だが、内乱の続く帝国を通る為、十分に気をつける必要がある。
「とまぁ、皆で打ち合わせはしたよね?」
僕は隣に座るゼフィールに話しかけた。
「魔導帝国内で高度な索敵を使うと疑われる元だから使えないし、今回は傭兵団がいるので問題ないと思うけど?」
こう話す僕たちの周りを三十人からの盗賊たちが囲んでいる。
盗賊の人数もそうだが、街道で盗賊に会うこと自体が帝国の崩壊具合を表していた。
面構えの悪そうな男がいつもの盗賊の口上を述べている。
「俺達はこの辺を縄張りにするブレイズ盗賊団だ。大人しく積荷を寄こせ。そうすれば命までは取らない。」
それを聞いて僕はハァとため息を漏らした。
テンプレートにはテンプレートを返すしかないだろう。
「盗賊団ですか、この日の為に用意させていただきました。先生方やって下さい!」
僕がそう号令を出すと傭兵の格好をした騎士団の連中が馬車から飛び出した。
飛び出すと同時に口上を述べていた盗賊は首を切られ物言わぬ体となる。
二人が中央へ切り込む中、残りの六人が二手に分かれ盗賊を囲い込む。
一方的な殺戮劇が目の前で繰り広げられている様だった。
盗賊の人数が半分ほどになった時、盗賊の一人が武器を捨て両手を上げ降伏した。
すると、それにつられるかの様に他の盗賊も武器を捨て両手を上げる。
どうやら最初に降伏した盗賊は頭だったようだ。
その男が僕たちに命乞いをした。
「降伏する。命ばかりは助けてくれ。」
その様子を見て僕はジュリアに盗賊の処遇を訊ねた。
「どうします?」
「ニコラに任せるわ。」
僕は少し考える。
このまま殲滅するのも簡単だ。
だけど彼らはいったいなぜ盗賊になったのだろうか?
彼らから魔導帝国内の現状を聞けるかもしれない。
尋問の結果わかった事だが彼らは元々マデリン子爵の兵士だった。
マデリン子爵の変死以降、後継ぎである長男と次男の骨肉の争いが繰り広げられる。
双方、ゼラム派とルジョン派に分かれての争いだ。
その為、領土は荒れ難民が急増した。
その争いに終止符を打ったのが今のハリー・マデリン子爵である。
彼は三男でありながら領境の町に左遷されていたヨルヴィックと共に長男と次男を討ったのだ。
「ハリーが反旗を翻した時、我らは手を組みハリーを圧倒した。あの時、黒騎士さえ出てこねば!!」
捕まえた盗賊(元マリデン子爵の兵)はそう言った。
黒騎士が出てきたところを考えると、ロムスさんも関わっているみたいだ。




