彼らは暗黒大陸の探索を希望している。
・暗黒大陸
オロール王国の西南、魔導帝国グレゴワールから南に位置する未知の大陸である。
今まで何百人もの人々が探索に出かけたが帰って来た者は一握り。
帰って来た者も暗黒大陸について語ろうとしない為、全くの未知の大陸でもあった。
いや、語ろうとしないというのは語弊がある。
語ろうとしないでは無く、彼らは全て語ることが出来なかったのだ。
大陸の海岸線には海龍の巣が多くあり近づくことを困難にさせていた。
その為、暗黒大陸へは陸路を使う。
大陸の玄関口にあたる場所には獣人の国、セリアン王国が存在する。
暗黒大陸の北側に位置するこの国を通らなければ暗黒大陸に行くことが出来ない。
セリアンは獣人の国家となっているが、実際は魔導帝国の属国であった。
帝国の為に暗黒大陸を目指す者達を捕まえ処分する。
その為に存在していたと言っても過言ではない。
運よく帰ってきたとされる者は魔導帝国に記憶を奪われた廃人同然の者や帝国に忠誠を誓った者達だけなのだ。
その為、獣人の国による渡航の規制は帝国以外の国が暗黒大陸へ探索を行う場合の障壁となっていた。
帝国の為に帝国以外の者達を排除する獣人達。
だがそんな彼らも変わらなければならない日がやって来た。
ラウド・オライオンはセリアン王国の宰相である。
少し年老いた狼の様か姿をしているがその目は少しも衰えた所が無く未だに壮健であることを示していた。
宰相であるラウドは何時もの様に幼い国王に代わり国内の業務を行っていた。
その一つが国内の有力者を集めた賢人会議である。
ただこの会議、内密に行われている為、帝国の関係者はその中に含まれていない。
会議は王宮の会議室、その場所に各地から集まった様々な人々で運営されていた。
テーブルには十人の人々が席に着いている。
その人種も様々で、多くは獣人だが、人間、エルフ、ドワーフ、有角族、小人族も参加していた。
彼らもこの国の有力者なのだ。
その会議の最中、猫の耳を持つ兵士が飛び込んできた。
彼は伝令を務める兵士なのだろう。
会議室には彼の声が響いた。
「報告します!本日未明、帝都より皇帝陛下崩御の知らせが届きました!!」
伝令の声で会議室が騒めく。
「なんだと!!皇帝は不死身では無かったのか?!」
「皇帝が崩御したとなると国が荒れる。これは我々にとってのチャンスでは?」
「まて、崩御と決めつけるのは早い。間違いないのだな?」
議長である宰相のラウドは伝令の兵士に問いかける。
「はい、宰相閣下。間違いございません。これは帝都よりの直送便です。」
セリアンは魔導帝国よりも魔法技術が劣っている為、情報の伝達手段も劣っていると思われがちであるが、その様なことは無い。
魔導帝国で使われている系列と異なる情報伝達手段を持っていた。
帝国の魔道通信は呪文による音声の伝達が主である。
それに対して、セリアンでは双子の精神感応による情報の伝達が使われていた。
「帝国各地で貴族連中が不穏な動きを見せていると聞く。帝国に動乱の兆し在りなのでしょうか?」
ラウドの傍にいた小人族のタスタルはセリアンでも有名な商人である。
帝国内の動乱に商売のタネを嗅ぎ取ったのだろうか?
「ふむ、まだ各貴族が本格的に動き出すまで時間があろう。その間にこちらはどの様に対処するか考えねば。」
だが、ラウドが考えたよりも帝国貴族の行動は早かった。
皇帝崩御より半月も待たず帝国内は動乱の兆しを見せる。
「報告します!本日未明、帝都領内でゼラム伯爵とルジョン伯爵の戦が発生しました!」
「ラウド宰相!!これは我々セリアン独立の好機ですぞ!!」
「だがもし帝国の奴らが我らを粛正に向かってきたらどうする?奴らの半分でさえ我らでは対抗することは出来んぞ?」
「うむむむむ、だがこの様な好機、次はあるかどうか……。」
ラウドは目をつぶりじっと考えていた。
セリアンは帝国に対して小さい国である。
正面からぶつかっても対抗できないだろう。
だからこそ、帝国が荒れ始めているこの時にしか独立は出来ない。
だが、独立したとして内乱が沈静化した後、再びこの国が狙われるのは目に見えている。
暗黒大陸への入り口とも言えるこの国は帝国内に組み込まれるだろう。
そうならない為の抑止力は何か?
ラウドは“カッ”と目を見開く。
「オロール王国や周辺の国々を引き込むのだ。彼らは暗黒大陸の探索を熱望している。それを条件にセリアンの支援を求めるのだ。」
「ですが、代わりに……例えばオロールが我が国を支配するのでは?」
「案ずるな、オロールの場合、間に帝国がある為、飛び地を支配しようとしても上手く行かぬことは判っているだろう。それは他国にしても同じだ。帝国は我らと他国とに挟まれる。迂闊に手は出せまい。」
魔導皇帝崩御に伴う帝国の分裂に伴い、獣人の国セリアンは独立。
独立を維持するためには帝国以外の国の力を必要としていた。
その見返りとして各国に暗黒大陸への扉が開かれたのだ。




