黒騎士か!
そして夜の帳が下りる。
月や星が輝き辺りが静寂に包まれる。
気が付けば音を発しているのは焚火の木がはぜる音だけの様だ。
不思議なことに夜行性の動物の鳴き声も聞こえない。
それだけでも勘の鋭い者なら、異常なことが起こっているのが判るだろう。
ほとんど先の見えない暗がりの中、
奴がやって来た。
黒い全身鎧に身を包み武器を体の後ろに隠しゆっくりと接近する。
人の姿に似たそれは黒い騎士の様だが音も無く動き近づく。
僕が奴の接近を知ったのはジュリアが攻撃された後だった。
奴は暗闇の中を音も無く接近し、後ろからジュリアの首を狙った。
ガギィン!!
黒い鎧が大きな音をたて弾かれた。
ジュリアが無事だったのは右手で“サーベル”を弾くように設定していた為ではない。
もう一方の左手で弾く対象を全身鎧にしていたおかげだ。
黒い鎧が大きく踏み込み接近した時の速度そのまま相手に返す。
当然の事ながら、右手で相手の武器を弾くことは出来なかった。
黒い全身鎧の魔物Xは確かに少し反った剣を持っている。
その形は明らかに“サーベル”では無かった。
大きな音がしたおかげで全員が音の方向へ向き武器を構える。
ミハイルとシオリ、ゼフィール素早く前に出た。
囮になったジュリアは後ろに下がりつつ全員に指示を出す。
「マロリオン、光源の呪文、
カエデは全員に防御の呪文、
キョウカは弓で牽制、ミハイル、シオリ、ゼフィールは三方向より攻撃。
ニコラは相手の攻撃を防ぎなさい。」
その場に居合わせた全員がジュリアの指示のもと動き出す。
「光の精霊よ。照らしたまえ。光源!」
マロリオンの光源の呪文によって辺りが明るくなる。
光源の光で照らし出された魔物Xは黒い騎士の姿をしていた。
その手に持つ武器はサーベルではない、
サーベルより細い、長く鋭くやや湾曲した剣を持っている。
「黒い騎士?黒騎士か!
それに何だ?あの武器は?
見たことが無いぞ!」
ミハイルは自分の知らない武器に驚きを隠せない様だ。
黒い全身鎧には不似合いな武器だ。
「あれは“刀”その中でも“太刀”という武器どす。
うちら獣人族でも狼族がよう使う武器どす。」
シオリの話によると、あの黒騎士が持つ武器は“太刀”と言う物らしい。
頭の中で黒騎士の持つ剣を太刀として記憶する。
そして、僕は右手の弾く対象を“太刀”に替えた。
黒騎士がミハイルに急接近する。
僕はミハイルと黒騎士の間に銀の盾を割り込ませた。
キキキキキキィン!
黒騎士の攻撃で銀の盾が鋭い音を上げる。
僕は攻撃の反動で大きく後ろに押された。
黒騎士の膂力は人外の物である様だ。
銀の盾を“オートリバース”として反撃することも考える。
”オートリバース”として使う場合、相手の攻撃を完全に収納するので、盾の前で太刀が止まる。
相手に返す場合は収納した方の手とは違う手を使わなくてはならない。
いま左手に設定している全身鎧の収納設定を取り消す必要があるのだ。
黒騎士の技量を考えると、止まった位置からでも致命傷を負わせることは可能だろう。
僕はパーティの盾として防御を担っている。
博打で仲間を危険な目に会わせることは出来ない。
“太刀”の収納で、
斬撃の効果だけ収納し“太刀”本体を止めることが出来ればよいのだが、
“太刀”そのものを弾き斬撃は収納できない。
斬撃の効果の収納(収納)と太刀の収納を別々に行う必要がある様だ。
「おりゃ!いっけ~っ!!」
僕が黒騎士の攻撃を弾いたことでミハイルは攻撃を試みた。
黒騎士は少し体勢を崩していたからだ。
シャリン!
黒騎士は太刀の側面でミハイルの攻撃を受け流した。
僕はすかさずミハイルと黒騎士の間に両手の銀の盾を割り込ませる。
ガィィィィン!
黒騎士は受け流すと同時に太刀を切り返しミハイルの首を狙っていた。
恐るべき技量である。
剣術の技量はスカディ先生並みと思っていい様だ。




