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女王蜂に育てられた俺~宇宙最難関資格に挑む  作者: 和子


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buzz.13 花咲き秋のハチ祭り


「晩秋といえばミゾソバね」

 ミゾソバは、金平糖のような淡いピンク色の花を10月末頃まで長く咲かせ、水辺を彩る。その後、寒さを浴びると葉が赤や黄色に色づき、美しい草紅葉(くさもみじ)の群落を見せてくれるのがこの時期の光景である。

挿絵(By みてみん)

「それともう一つ、忘れてならないのが『セイタカアワダチソウ』。これは越冬するための協力なレーション(戦闘糧食)なのよ」

 クロも目を輝かせる。

「私も、それ好き!花粉も蜜もたっぷりあるのよね」

挿絵(By みてみん)

 クロマルハナバチは、低い気温でも活動できる。セイタカアワダチソウは冬の準備として貴重である。スズメバチやアシナガバチと同様、働き蜂やオス蜂は冬に死んでしまい、新女王蜂だけが越冬するのだ。


 ツェンドリカも目を輝かせる「ぬふふふ…」


 ミェリナが冷ややかな視線をツェンドリカへ送り、さらりと恐ろしいことを口にした。


「……ちなみに、このセイタカアワダチソウ。私たちミツバチが必死に蜜を集めている横で、スズメバチさんが『ゲーム』感覚で私たちを狩りに来る、絶好のデス・スポットでもあるのよ」


 ユキオはヒッ、と喉を鳴らして固まった。

(え、いま何て? デス・スポット?)

目の前には、優雅にお茶を嗜むようなミェリナと、牙を剥いて笑うツェンドリカ。

「絶対に同時召喚しちゃいけない二人だったんじゃ……」と戦慄するユキオを余所に、ミェリナは平然と続けた。


「腹ペコな彼女たちに狩られるのも、まあ『秋の風物詩』みたいなものね。この時期はエサのイモムシも品薄だし、スズメバチの巣では女王様が『肉団子が足りないわよ!』っておかんむり。働き蜂たちもブラック企業並みのノルマで大変なのよ。たまに共食いまでするんだから。だから一応、私たちも『スズメバチ注意』の回覧板(フェロモンによるデータ連携)は回しているわ」


「え、そんな、ご近所トラブルみたいなノリでいいの……?」

震えるユキオに対し、ミェリナは「観測士」候補生を諭すような目をした。


「ユキオ、私たちの『感性』を理解しておいてね。ハチは社会性昆虫、いわば『群体』という一つの生命体なの。働き蜂が命を落とすのは、人間でいえば『髪が抜ける』とか『爪を切る』のと大差ないわ。だって、女王が卵を産めば『また生えてくる』もの。抜けた髪の毛に一喜一憂しないでしょ?」


「髪や爪……? 自分の命が、そんなスペアみたいな扱いなのかい?」


ユキオが絶句していると、ツェンドリカが「デュフフフ……」と、これ以上なく悪役らしい不敵な笑みを漏らした。


「その通りだ。仲間の死肉を食ってでも次世代を繋ぐ……これが自然界のガチンコ・フルコースなんだよ。冬直前のこの時期、セイタカアワダチソウという『無料バイキング』に集まるミツバチは、俺たちにとっては天からのボーナス! 恨みっこなしのデスマッチだぜ」


「……君たち、その会話ちょっと怖いんだけど!」


 ユキオが頭を抱えると、隣でミェリナの指先から蜜を舐め終え、満足げに口を拭ったクロが「ぷはぁ」と緊張感ゼロの声を出した。


「ユキオ、難しいこと考えすぎー。私たちマルハナバチなんて、もっとゆるいよ? 秋になれば女王以外みんなポックリ死んじゃうし、蜜はいつもその日暮らし。でもさ、だからこそ今日食べる蜜が『優勝!』ってくらい美味しいんだよねぇ」


 クロはそう言って、ぽんぽんと幸せそうに自分のお腹を叩いた。


 知性のミェリナ、武闘派のツェンドリカ、そして快楽主義のクロ。

(地球の生態系って……なんか、思ってたよりずっと『ハードボイルド』で、変なところで『超ドライ』なんだな……)


 ユキオは、窓の外を流れるのどかな景色が、急に「戦場に駆ける蜂」のワンシーンに見えてくるのを感じた。


 ユキオは窓際に置いてある銀の箱を見つめた。

恒星域観測士という仕事は、こうした無数の「死と生」の連鎖を、高い空から静かに見守り、バランスを測ることなのかもしれない。


 ガタタン、と電車が大きな音を立ててポイントを通過する。

車内アナウンスが「まもなく、米原~、米原です」と告げた。


 米原駅まであと数分。ガタゴトと気だるげに響いていた走行音が、減速のために一段と低く重くなる。それと同時に、車内にはそれまでなかった緊張感が漂い始めた。


「……まずいな」


 ユキオは、向かいと隣の席に座る三人の少女と、駅のホームで待機する乗客たちの姿を交互に見て、冷や汗をかいた。米原は交通の要衝だ。先ほどまでの貸し切り状態とはわけが違う。このまま彼女たちが実体化した状態で改札を通れば、翌日のSNSは「無賃乗車の謎の美少女三人衆」の話題で持ちきりになるだろう。


「どうしたユキオ、そんなにキョロキョロして。挙動不審な蜂はすぐに見つかって叩き落されるぞ?」

ツェンドリカが面白そうにニヤリと笑う。


「JRに乗り換えなくてはならないのに、このままじゃ改札を通れない……」


 ユキオは頭をフル回転させた。銀の箱の有効範囲、周囲の視線、そして車両の構造。ふと、車両の端にある「連結部分」への重いドアが目に留まった。


「……よし、作戦だ。みんな、あそこのドアを開けて入り、向こう側のドアを開けずに、その狭い空間でしゃがんでくれ!」


「しゃがむ? 女王であるこの私に、(かしず)けとな?」

ミェリナが不機嫌そうに眉をひそめる。


「頼むよ! ドアの下半分になら外から見えないんだ。一人ずつ行くよ。まずはミェリナ!」


 ユキオの必死な形相に押され、ミェリナがしぶしぶ立ち上がり、連結部の狭いデッキへと消えた。彼女が言われた通りその場に屈み込み、客室の窓から姿が消えたのを確認すると、ユキオは膝の上の銀の箱を操作し、分子共鳴転移装置を起動させた。


 カチッ、という小さな電子音。

デッキの隙間から淡いピンクの光が漏れ、次の瞬間、ミェリナの質量は光の粒子となってカプセルへと吸い込まれていった。


「次はツェンドリカ、行って!」

「ちっ、面倒な隠密行動だな。物陰に隠れてブスリと刺すのは得意だが……今はユキオの指示に従ってやるよ」


 ツェンドリカが野性的な動きでデッキへ滑り込む。同じ手順で装置を起動。二人目の回収も完了だ。


「最後、クロ!」

「はーい、お腹いっぱいで動くのしんどいけど、よいしょっと……」


 クロが最後の一人としてデッキへ向かい、その姿が隠れた瞬間に光が収束した。三つめのカプセルがカチリと銀色の箱に納まり、明滅が静かな待機状態へと変わる。


「……ふぅ、間に合った」


 ユキオが網棚からリュックを下ろし、銀色の箱を水平に滑り込ませたのと同時に、列車は静かにホームへと滑り込んだ。ドアが開くと、部活動帰りの中学生やサラリーマンが次々と乗り込んでくる。


(ふつうの高校生は、こんなスリル味わわなくて済むんだろうけどな……)


 ユキオは、わずかに重みを増した(ような気がする)リュックを背負い直し、何食わぬ顔でホームへと降りた。


『やったな、ユキオ。ナイス判断だったぜ!』

脳内に直接響いたツェンドリカの勝気な声に、ユキオは心の中で「もう勘弁してくれよ」と苦笑しながら、米原駅の喧騒の中へと踏み出した。

ユキオはJRの電車が到着する間に、スマホで【セイタカアワダチソウの蜂蜜】をググッていた。


◆黄金の報酬:ゴールデンロッドハニー

まず目に飛び込んできたのは、その蜂蜜の圧倒的な個性だ。

セイタカアワダチソウの蜂蜜は、北米では「ゴールデンロッドハニー」という格好いい名前で親しまれているらしい。


◆味とコク:

秋の強い陽光を閉じ込めたような、濃厚でコクのある強い甘みが特徴。そのパンチの効いた味わいは、ストレートな紅茶に入れたり、厚切りのトーストにたっぷり塗ったりすると、他の蜂蜜にはない満足感を与えてくれる。


◆香りの魔法:

面白いのはその「香り」の変化だ。柑橘系にも含まれる「リモネン」という成分を含んでいるため、最初はユーカリやティーツリーのような、鼻に抜けるスッキリとしたハーブのような香りがする。それが時間が経つにつれ、じわじわと深く甘い香りに変化していくのだという。


セイタカアワダチソウは繁殖力が非常に強く、秋の貴重な蜜源として、ハチたちは多くの蜂蜜を生産します。独特な風味があるため、人によっては「特有の臭み」と感じることもあります。

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