カフェ
流星は、納得できない表情を浮かべながらもカフェについてきてくれた。
今、流星を食べます。と言ったらどうぞと言われてしまうだけだ。
そんなのは、楽しくなかった。
高校生の頃、同じ美術部だった。同級生の安西美矢が、この場所の話をした。
学年の半分の人間が、美矢君に抱かれる事を望んだ。
美矢君は、男も女もいけるタイプだった。
絵画から飛び出てきたのではないかと思う程の顔やスタイルで、俺も抱かれていいかもしれないと一瞬思ったぐらいだった。
美矢君が、話した言葉が今でも忘れられなかった。
(最初から、うまくいくとわかっていても、その事だけを考えてあの場所に行くことはとてもつまらないと思わない?それは、まるで獣。それならば、人間である理由などどこにある?人間である以上、僕は美味しいものを食べながら笑って、言葉でうまく引き寄せながら先に進みたい。その為の場所が、天の川カフェなんだよ。)
あの日、美矢君にそう言われた言葉が今の俺にもやっとわかるよ。
流星とそうなれるのが、わかっていても、例え化け物に喰われようとしていても、俺は人間でありたいのだ。
欲望をコントロールできずに生きていた俺にとって、この場所はずっとくるに値しない場所だった。
「あんみつを頼めばいいの?」
流星が、俺を見ながら話しかけた。
「ああ、すごく有名。甘いの食べれる?」
「うん、大丈夫」
「じゃあ、そうしようか」
俺は、店員さんを呼んであんみつを2つと抹茶を頼んだ。
「あの、ここはいったいどういう意味で連れてこられたの?」
流星は、ずっと納得できなかったようだ。
「そうだな。ずっと来たい場所だったから連れてきた。」
「いつでも、来れたでしょ?」
「来れなかったよ。俺が、来ていい場所ではなかったから」
流星は、その言葉に不思議そうな顔を浮かべた。
美矢君は、どんな風に引き寄せたのだろうか?美矢君と天の川カフェにやってきた人達は、何度も何度も美術部に現れては、また行きたいと誘っていた。
でも、美矢君は一度しか行かなかった。二度目に行くと、もう人間ではないからと笑って断っていた。
卒業してから一度も会う事はなかったけれど、美矢君は俺のように欲望にまみれた事はあるのだろうか?
「さっきから、何を考えてる?」
流星に言われて、顔をあげた。
「いや、別に」
「そっか…。もっと、月は俺に会うのを喜んでくれてると思っていた。」
流星は、寂しそうな顔をして笑っている。
「あんみつと抹茶になります。」
店員さんが、持ってきてくれた。
天の川をイメージしたあんみつは、星の形をしたキラキラのゼリーがのっている。
「いただきます。」
流星と一緒に食べる。
「本当に、美味しい。あんこがすごく美味しい」
流星が、喜んでくれた。
「本当だね。」
そう言って、笑った。
「さっきの話だけど、俺は流星と会えた事を喜んでいるよ。それと、こんな風にデートしたかった。」
「デートは、したことなかったね。」
あんみつを食べながら、流星が笑ってる。
「兄弟である以上、こんな風にデートは出来ないから…。」
「そうだね。」
流星も、寂しそうに笑ってる。
「飢えた獣みたいに、ただそれだけを欲しがるのは、もう嫌だったんだ。」
俺の目から、涙が流れてきた。
「月、ごめん。そんな気持ちに気づかなくて」
流星は、俺の手を握ってくれた。
「わかってるんだよ。流星に触れれば、肉体が喜ぶって。でも、それだけに支配されてしまうのは、もう嫌なんだよ。」
「そうだよな。」
流星は、そう言うとまたあんみつを食べている。
じゃあ、これで帰るって言われたって俺は向こう側に行くんだろ?
なんで、今さら綺麗事を並べてるのだろうか?
俺も、あんみつを食べる。
俺は、言葉の選び方がうまくない。
上手に出来ない。




