月からのメールと離れ
化け物に喰われそうだった僕を止めたのは、スマホのバイブだった。
「見ていいよ。もうすぐご飯もくるだろうから」
氷雨は、そう言って僕から離れた。
メッセージをみると月からだった。
やっぱり、月は僕を止めてくれるんだ。
メッセージを読んで、固まった。
(星、俺は今日化け物に喰われる覚悟を決めて流星に会う。一ヶ月前、華君に話を聞きに行ったんだ。自分の中の化け物に喰われたなら、別れを惜しまずにすぐに帰る事だ。それが、華君に教えてもらった事だ。真っ直ぐ帰ってきて、俺と一緒にまた化け物を大人しくさせよう。)
そうはいっていた。
喰われる覚悟を決めていいのだ。
あの日から、確かに消化不良な想いを抱えていた。
月とは、時々お互いの寂しさを埋め合ったりもするけど、どちらかというとプラトニックに近い気がする。
キスは、するから違うかな?
月が、覚悟を決めるのなら僕も化け物を解放してあげよう。
コン、コン
「はい、どうぞ」
氷雨の声に、食事がはいってきた。
「こちらを、置いておきます。では、失礼します。」
食事と共に置かれたのは、鍵だった。
「これは、セットなんだね?」
氷雨が、僕に聞いてきた。
「さあ?初めてだから、わからないよ。見て、懐石料理豪華だよ。」
「本当だね。」
話をそらした。
さっき触れられただけで、身体中が熱をもっているのがわかる。
「いただきます。」
僕は、だされた料理を口に運ぶ。
氷雨も、食べ始める。
ダメだ。
意識するな。
ご飯を食べているだけなのに、氷雨を想像してしまうのだ。
「離れには、興味あるの?」
「えっ?ないよ。全然」
「最近、星は色々満たされているんだね」
氷雨は、ニコニコ笑いながら料理を食べる。
箸を持ってる指先を見つめてしまう。
僕は、ドキドキを抑えるようにお酒を飲んだ。
「日本酒美味しいよ。」
氷雨が笑ってくれる。
「美味しいね」
日本酒なんで、手をつけた。
僕は、日本酒には弱いのに…。
置かれてるから、呑んでしまった。
氷雨は、楽しそうにしている。
ここで、化け物に喰われたら真っ直ぐ帰らなければならない。
飲みすぎたら、食べられてしまっても気づかないのではないか。
それでも、食べられてしまいたいのはあの日の消化不良が原因だ。
僕と氷雨は、二人きりで会ってはいけないのだ。
会うと引き寄せられるのだ。
肉体が、お互いを忘れないのだ。
食事を食べ終わった。
ブザーを鳴らすとお店の人が、やってきた。
「30分後、離れの方へ。ご案内致します。こちらを召し上がってお待ちください。失礼します。」
テーブルのお皿が、下げられて、鮮やかな和菓子が置かれた。
「素敵だね。」
僕は、和菓子を見つめる。
「日本酒に合うんだって、この紙に書いてる。」
だから、熱燗がまた置かれていったのだ。
「はい、どうぞ」
氷雨に渡された。
僕は、日本酒を飲んではいけないのだ。
「ありがとう」
これだけにしよう。これ以上飲むとコントロール出来なくなる。
日本酒を飲んで、自分をコントロール出来なくなったのは時雨と再会してしばらくたった時だった。
時雨も豹変した僕に驚いて、次の日にその話をされた。そして、二度と飲むべきではないと怒られたのだった。
僕は、その事を思い出した。
でも、そんな話を氷雨にしたらもっと飲まそうとするのがわかる。
それでは、僕はすぐに帰る事は出来なくなってしまう。
それは、困る。
ずっと、大人しくしている化け物が、どれだけの狂暴性をもっているのかが全然わからないのだ。
日本酒を少しずつ飲みながら、和菓子を食べ終わった。
「おいしかった。まだ、飲む?」
「ううん、大丈夫」
僕は、日本酒を断った。
暫く他愛もない話をしていると
「失礼します。」とお店の方が現れた。
氷雨が、鍵を持った。
「お迎えにあがりました。」
そう言われて、僕と氷雨は離れへと連れて行かれた。




