お昼ご飯と沸き上がる感情
氷雨が連れてきたのは、月花星凛だった。
「ここを、時雨が用意したの?」
「そう書いてるけど、違う気がするよね」
氷雨も驚いてる。
ここの話しは、聞いた事がある。
全部屋個室で、食事をする。
偉い人達が、利用するためにつくられているから、プライベートを完全確保され、完全防音されている。
クリスマスシーズンには、カップルや人目を忍ぶ関係の人が、やってくるのだと有名な話だ。
一食5万以上もする食事代を払うかわりに、何時間でも居て構わないのだ。
食事を食べながら、イチャイチャできると有名で、離れに案内してもらうとそういう卑猥な事まで出来るという話だ。
食欲も性欲も満たされるから、高いお金を払ってでも皆やってくると有名だ。
特に、この小さな街での不倫にはうってつけの場所なのだ。
で、ここを誰がとったのかがなんとなくわかった。
月のお兄さんでは、ないだろうか?
病院関係者が、秘密の話をする時に利用すると有名だった。
「月さんのお兄さんじゃないかな?」
氷雨も気づいていたんだ。
「そうだよね」
「でも、ここなら誰にも見られないから大丈夫だよ。」
氷雨は、気にせず進んだ。
大丈夫なのは、人目だろうか?
僕が、気にしているのは化け物に喰われる事ではないのか?
止まらない衝動に突き動かされる事ではないのか?
「拝藤です。」
「お待ちしておりました。」
そう言われて、連れて行かれた。
「では、12時にご飯をお持ち致しますのでそれまでごゆっくりおくつろぎ下さい。お飲み物は、冷蔵庫にはいっています。」
ホテルのようなやり方なのだ。
「はい、わかりました。」
氷雨が、そう言うと扉が閉められた。
もっと禍々しいものを想像していた。
中にはいると、外が開けられないかわりにカラフルな色彩で彩られた空間が作られていた。
「お酒飲む?」
「飲んだら、怒られるよ。」
「大丈夫だよ。」
まだ、11時なのにお酒を飲むという氷雨。
氷雨も、緊張しているのがわかる。
コートをコートかけにかけた。
「結婚式にでも、行くつもりだった?」
僕の姿を見た氷雨が言った。
「そのつもりで、きた。氷雨もスーツでしょ」
「スーツで来いって兄さんに言われたから」
そう言って冷蔵庫からビールを取り出す。
「どうぞ」
氷雨は、僕にグラスを差しだした。
氷雨が、欲しい。
その指の動きを見るたびに思ってしまう。
「星も、手冷たい?」
そう言って、指を絡ませるように手を握られた。
ドクンドクンと心臓が波打つ。
指を離そうとしたら、氷雨の傍に意図も簡単に引き寄せられた。
胸に頭を引き寄せられた。
心臓が飛び出てしまうのではないかと思う程の音を立てている。
これは、氷雨?
それとも、僕?
氷雨は、僕を自分の顔に引き寄せた。
「こんな所に二人だと何をしてもいいと思うよね」
そう言って優しく笑う。
「そうは、いかないよ。」
氷雨から離れようとしても、氷雨はより強く僕を引き寄せる。
氷雨の声に、首筋に、目に、この手に触れると欲しいと心が叫ぶように痛みだす。
「氷雨、ダメだよ」
痛くて、苦しくて涙が溢れだす。
「その顔は、反則だよ。星」
そう言って、唇を重ねてきた。
「んんっ」
「だから、反則だって」
そう言って、氷雨はまた僕にキスをする。
何度も何度も、くり返す。
ダメなんて、言葉はもう浮かばなくなった。
罪悪感は、消えていた。
化け物に喰われたい
この心の炎に焼き付くされたい
月、いいのかな?
僕は、化け物に喰われていいのか?
どうか、僕が帰ったら月の愛で静めて欲しい。
「星、僕はね。こうやって過ごす事が出来て嬉しいよ。」
「僕もだよ。」
「よかった。嬉しいよ」
そう言って、氷雨は僕の髪を撫でてくれる。
ずっと、こうやってくっついていたいぐらいだよ。
氷雨が欲しい。
ほら、おいで
僕を食べていいよ




