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帰宅と月に触れたい気持ち

どれくらい動けなかったかな。


氷雨が、マンションに消えてからも暫くその場所を離れられなかった。


好きなのに一緒には、いれない。


仕方のない事なのに、それでも悲しいのはなぜ?


歩きながら、タクシーが通ると手を上げた。


何台か見送った後に、停まってくれた。


僕は、タクシーに乗って月と住む家に帰ってきた。


まだ、帰ってきてないようだった。


「ただいま。」


氷雨に()れられ過ぎた体。


自分の手を唇に当てるだけでも、氷雨を思い出す。


「辛いな」


その声に振り返ると月が立っていた。


「いつ、帰ってきたの?」


「今」


そう言って僕を後ろから、抱き締めてくる。


「流星に(さわ)られ過ぎて辛い」


そう言って、さらに強く抱き締めた。


「僕もだよ。」


僕は、月に向き合った。


おでことおでこをくっつけた。


「星に()れたかった。」


そう言って、頬を撫でてキスをしてきた。


月は、立ち上がってビールを取りに行って戻ってきて僕にも渡した。


「ごめん、なんか」


そう言って、月はソファーに座った。


僕は、月を後ろから抱き締めた。


「嫌じゃないよ。僕も、ごめん。氷雨を忘れられない」


「流星を忘れられない。」


僕の最後の言葉に重ねるように月が言った。


「この先もずっと心の中にいる」


「ハモったな、星」


そう言って、月が笑った。


「それで、いいよ。」


僕は、月から離れて横に並んだ。


向き合った。


「月、泣いてるよ」


僕は、月の頬に手を当てる。


月は、その手を握りしめた。


「流星の手や唇を覚えている。だから、星に()れられてるのに涙が出る。同じなんだね」


月に頬を(さわ)られて、自分(ぼく)は泣いてるのに気づいた。


「ごめんね。僕も、氷雨を思い出してる。感じてる。」


「辛いな、苦しいな。」


そう言って、月が僕の唇を(さわ)ってくる。


僕も月の唇を(さわ)る。


「化け物に食べてもらおうと思ったの、そしたら月から電話がきた。氷雨も、元に戻ってちゃんとお別れが出来た。ありがとう」


「魔法切れたのか?俺もそうだったから心配だった。星がいるから、俺もここに帰ってこれたありがとう。」


二人とも涙がすごく流れてる。


「あんなに、愛してるのにいれないの…。心が引きちぎられるぐらい痛いのにいれないの。氷雨といると、氷雨を食べてしまいたくなる。でもね、食べた後を考えたら足りないのが想像できた。だったら、生きててって思った。僕の見えない所で生きていてって思った。」


「わかるよ。俺もそう思ったから。一緒にいると過ちを犯してしまうのがハッキリわかる。だったら、正常な判断が出来るうちに離れたかった。」


「わかるよ。でも、一生会えないのは嫌だったんだ。だから、傷つけてって頼んだ。そしたら、僕の愛が氷雨に届くと思った。」


「わかるよ。俺も流星に同じ事を望んだから。だけど、そしたら星に()れる。星を利用する。そんなのよくないよな。」


そう言って、目を伏せる月の唇にキスをした。


「僕も月を利用してしまう。同じなら、罪の意識は感じないで欲しい。だから、お願い。ずっと、傍にいて…。月だけは、離れないで」


そう言って、また月にキスをした。


「俺も、星と離れたくないよ。だから、ずっと一緒に生きていこう。愛さなくていいから。」


僕は、月をジッと見つめた。


「僕は、月を愛してるよ。氷雨とは、違う感情(きもち)で愛してるよ。月だって、同じでしょ?」


「そうだね。愛してるよ。」


「月といると化け物を飼っているのを忘れられるんだよ。」


「俺も同じだよ。」


そう言って、笑ってくれる。


月がくれる慈悲深い(あめ)が、僕の中に降り注ぐ。


化け物もそれを浴びると影を潜める。


痛みも苦しみも悲しみも寂しさもない。


ただ、ただ、穏やかで暖かくて優しい。


僕の中の、燃え盛る炎が、消えるのを感じる。


僕は、また、月の唇に唇を重ねた。




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