竜のお世話係27
星空の下をルーメロスは二人を乗せて飛んでいる。
かなりのスピードを出して飛んでいるようで、あっという間に町を離れて眼下には森が広がっている。
「どこに行くの?」
「海」
簡潔に答えるセドリス。
後ろから手綱を握るセドリスとの距離が近すぎてドキドキするリズと対照的にセドリスは無表情だ。
どこか緊張感を含んだセドリスの雰囲気にリズもやっぱりただの散歩というものではないのではと思う。
遠くに海が見え始めたころ、遠くの空が白み始めた。
「竜に乗るのは私の夢だったの。攫われたときに乗ったけどあれは違うじゃない。乗っていることを楽しむって感じじゃなかったし・・・」
リズがそういうと、セドリスは軽く頷く。
「だから今すごくうれしいわ。大好きなルーメロスと空を飛んでいるんだもの」
これはもしかしたらご褒美なのかもしれないとリズは思った。
ルーメロスに乗りたいと長年言っていたので、優しい団長が特別に許可してくれたのだと。
「間に合った」
海の上へと出るとルーメロスはゆっくりとスピードを落としてその場にとどまった。
羽は動いているが、前には進まない。
「竜ってこういうこともできるんだものねすごいわよね」
羽を動かして前に進むだけだと思っていたためその場に居ることができるとは。
感動しているリズにルーメロスが誇らしげに鳴いた。
「すごいわ。ルーメロス。それに海に来たのは昔お父さんとこうやって竜に乗ってきたときぶりだわ」
内緒だぞと父親に言われたのを思い出し、リズは慌てて口に手を当てた。
セドリスと一緒にこの場に居られることがうれしくてつい、言ってしまった。
恐る恐る後ろを見ると、セドリスは普通だ。
「あれ、驚かないの?」
「知っているし。その話は100万回聞いた」
「え?」
竜騎士以外は竜に乗ってはいけない。もし乗ったら罰せられるという規則があるのだ。
だから幼い日に父親に乗せてもらったことは誰にも言ってはいけないと口酸っぱく言われていた。
父はセドリスに100万回も言っているとはどういうことだろうか。
「あの時のリズは可愛かったとずーっと言っている」
「え・・。私、マーシャルにも言っていないのよ」
驚くリズにセドリスは頷く。
「賢明だな。竜騎士には暗黙の了解みたいなのがあって。大切なイベントなんかは団長の許可があれば竜に乗せることができるんだ。でもそれが、竜騎士以外の人に知られると自分も乗りたいといわれるだろ、だから秘密にしておくに越したことはない。隊長もリズが可愛くて乗せたかったんだろうな」
「今日乗せてくれたのは、落ち込んでいる私を元気づけるためとか?」
「・・・・いや・・・」
珍しく言いよどむセドリスは少し悩んで、隊服のポケットから取り出したものをリズの前に出した。
銀色のネックレスに大きな花びらのような形をした透明な薄ピンク色のペンダントトップがぶら下がっていた。
水平線から太陽が昇りはじめ、ペンダントトップがキラキラと光に反射して輝いている。
「綺麗・・。宝石みたいね」
不思議な光の輝きにリズは思わずつぶやいた。
宝石など母親が付けている指輪ぐらいでしか見たことがなかったが、きっとどの宝石よりも綺麗だと断言できるぐらい美しいと思えた。
「気に入ってよかった。ルーメロスの鱗を加工したんだ」
そう言ってリズの手にネックレスを置いた。
「え?これってあの、幻の鱗なの?」
「そう。リズにあげようと思って昨日加工してもらった」
なんてことないように言うセドリスにリズは驚いて手の上にあるネックレスとセドリスの顔を交互に見る。
キラキラ光に反射して輝く鱗はとても綺麗で、大好きなルーメロスの幻の鱗は喉から手が出るほど欲しい。
でも、これはセドリスが持っていた方がいいだろうと思いリズはネックレスをセドリスに押し付けた。
「こんな大切なもの貰えないよ・・・」
そういうリズにセドリスはなぜか長いため息を吐いて力なく肩を落とした。
「・・・どうしたの?」
どこか落ち込んだ様子のセドリスにルーメロスは面白そうにクゥーと鳴いた。
「もしかして知らないのか?」
「なにを?」
首をかしげるリズにセドリスは緊張したように息を大きく吸い込んでまた吐いた。
「竜の鱗は、竜騎士が結婚を申し込む相手に渡すものなんだけど」
「えぇぇ?」
セドリスが言い終わる前に悲鳴を上げ、手のひらにあるキラキラと光り輝くルーメロスの鱗を見る。
「それって・・・まるでセドリスが私に結婚を申し込んでいるように思えるんだけど」
「そのつもりなんだけど」
平然と言うセドリスにリズは目を丸くして絶句する。
「嘘?なんで?」
セドリスは自分に好意があるようなことがあっただろうか。
思い返すが全く思い当たる節がなさ過ぎてリズは記憶をさかのぼって思い出そうとするが、悲しいほどに思い当たらない。
「そんなに悩まれるとは思わなかったんだけど。リズは喜んで受け取ると思ってたけど俺の思い違いだった?」
珍しく少し悲しそうなセドリスにリズは首をかしげる。
「ちょっと待って、まさかと思うんだけど・・セドリスは私のことが好きなの?」
恐る恐る聞くリズにセドリスも首をかしげる。
「・・・・・・気づかなかったの?」
「えぇぇぇ?知らなかった!うそでしょ!」
まさかの告白にリズは大きな声を出してのけぞった。
ルーメロスの上に居ることをすっかり忘れて危うく落ちそうになったリズをセドリスは慌てて抱き寄せた。
あまりにも近くなったセドリスにリズがどきどきしていると、セドリスは顔を近づけてくる。
「リズは俺のこと好きだとの確信をかなり前から持ってたんだけど違った?」
「違くない!」
思わず答えてしまいリズは顔を赤くする。
こんな風に告白をすることになるとは思わなかった。
リズの答えに満足そうにセドリスは笑みを浮かべた。
「リズはわかりやすいからな」
「そんなに私わかりやすいの?」
頷くセドリスに、そんなにわかりやすかったのかと恥ずかしさで俯いた。
「で、貰ってくれるんでしょ」
リズは自分の手のひらにあるピンク色の鱗を眺めてうなずいた。
セドリスは安心したように息を吐いた。
彼も緊張していたようだど気づきリズはちょっと安心する。
「竜騎士と竜は結構強い絆で結ばれていると言われているんだ。
なぜか竜騎士が結婚をする時期になると竜の鱗が出てくるらしい。だからってわけじゃないけど、今がその時期なのかなって思って」
「そうなんだ・・・」
「隊長も団長もそれで結婚を申し込んだって聞いたけど、本当に知らなかったの?」
「知らない・・・」
そんなロマンチックなことがあったなんてそれもずっとそれを知らないで過ごしていたなんてとショックを受けるリズにお構いなしにセドリスはネックレスをリズの首につけた。
水平線から登った太陽が海面をキラキラと照らし、竜の鱗も光の反射で輝いている。
「綺麗・・・」
宝石よりも輝いて見える大好きな竜の鱗をうっとりと眺めて呟く。
「ありがとうセドリス。すごくうれしいわ」
「よかった。受け取ってもらって」
セドリスは酷く安心したように呟いて嬉しそうに微笑んだ。
あまりにも綺麗なセドリスの顔が近づいてきてリズの唇に触れた。
一瞬の出来事に驚いてチューされたと目を見開いているリズにセドリスは余裕の顔で微笑んでいる。
大好きな竜の上でプロポーズされ、それも大好きな人と思いが通じるなんてなんと幸せなことなんだろう。
「セドリス、私すごく幸せだわ」
心からそう言うリズにセドリスも嬉しそうに笑ってもう一度リズに口付けた。
先ほどよりも長い口づけに、ルーメロスがクゥと嬉しそうに鳴いた。
二人は微笑んでルーメロスを見た。
「ルーメロス、これからもよろしくね」
ルーメロスはクゥーと鳴いて羽を大きく羽ばたかせて空へと高く飛び上がった。




