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竜のお世話係25

日が昇り空が明るくなっても、セドリス達は戻らなかった。


先に戻った竜達の世話の手伝いも終わり、城の中も落ち着きを取り戻していた。

未だ待機中であるリズ達は竜のお世話係の待機部屋で報告書を作成しながら窓から空を見上げる。

セドリス達が帰ってくる姿が見えるわけではないが心配で何度も空を見てしまう。

さすがに隣に居たマーシャルが呆れたような視線を向けてくる。


「心配なのはわかるけど、ちょっと落ち着いたら?」

「うーん。ちゃんとあの竜を連れてきてくれるか心配で・・・。凄い弱っていたから休みながらもどってきているのかしら・・・。途中まで、迎えに行きたいぐらいよ」


「行っても邪魔になるだけよ。帰ってきたらお世話しましょう」

「そうね・・・。でも心配だわ・・・・」


リズはため息を吐いて、捗らない報告書を書き始めた。


昼も過ぎ、夕方に差し掛かったころ竜騎士が走って知らせが入った。


「残りの部隊が戻ってきました。すぐに集合してください」


「帰ってきた!」


リズが席から立ち上がって走り出すとかなり遅れてマーシャル達も走り出した。


「待ってーリズ、早いわよ」

「竜が心配だし、マロンさんたちも早く!」


走りながらせかすリズにマロンたちも急いで立ち上がる。


外に出ると太陽が沈みかけており、空は茜色だ。


広場に行くとすでに竜達が降り立っており走っていくと、セドリス、カジミール、ウォルフなどみんな帰還していた。

見た感じ怪我がなさそうで一安心しつつ、簡単な報告をし終わったのかセドリスがリズの前に歩いてきた。

カジミールはまだ団長と話をしており、駆け付けたリズをちらりと見て手を挙げた。


「よかった元気そうで」


目の前に歩いてきたセドリスを注意深く眺めて言うと、セドリスは珍しく悲しそうな顔をする。

「ごめん」

「なにが?」


謝られることなどあっただろうかと首をかしげると、セドリスが目を伏せた。

「マリアが世話していた竜は連れてくることができたんだけど、ガットは・・連れてこられなかったんだ」


小さく言う、セドリスにリズは息を大きく吸った。


「まだあそこに居るってこと?」


あの冷たい地下に閉じ込められているのだろうか。

不安げなリズにセドリスは首を振った。


「地下から連れ出すことはできたんだ。でも、かなり弱っていて・・・・途中で死んでしまったんだ・・、連れてくるって言ったのにごめん」


セドリスの言葉が理解できずリズは目を見開いてゆっくりと言葉を頭の中で繰り返す。


「死んじゃった・・?」

「助けに行ったときはかなり弱っていた。でも、カジミール隊長が外に連れて行こうと言ってくれて・・・朝日を見ながら死んでいったんだ・・・空の下で看取ることができて俺は良かったと思う・・・。ただ、リズには悪いことをしたと思って。

もう一度会いたかったと思うけどごめん」


目を見開いたままのリズの両目から涙が落ちる。


「私が、ちゃんとあの時お世話しなかったからだ」


リズが一緒に居た時に少しでもお世話を頑張っていればセドリスが連れ出した時には元気に帰ってくることができたかもしれない。

自分が残って世話を続けていたらもしかしたら元気になったかもしれない。

後悔が押し寄せてきてボロボロと涙を流すリズにセドリスは困ったような顔をしてポケットから取り出したものをリズの前に出した。

銀色のプレートが夕日に当たって光っている。


「これ、ガットの足についていたやつ・・・」

「そう、たぶん父さんが付けたんだと思うんだ。これを回収できたことも良かったと思ってる」


そう言って、名前入りのプレートを握りこんだ。

「でも、私が・・・」


ボロボロと涙を流すリズに後ろから近付いてきたカジミールがポンと頭に手を置いた。

「最善を尽くした結果だ。辛いだろうが受け入れろ。リズ」

「無理だよ・・・お父さん」


リズは泣きながら父親に抱き着く。

カジミールは娘を力いっぱい抱きしめ返す。


「辛いのはみんな一緒だ。今は仕事中だ。ちゃんと仕事しろ。リズ」


そうだ、仕事中だ。

リズはうなずいて袖口で涙を拭いてぐっと涙を堪える。

辛いのは自分だけではないんだ。そう言い聞かせてセドリスを見上げた。

心配そうなセドリスの瞳とぶつかり、リズは一つ頷いた。


「ごめん、セドリス。セドリスが一番つらいのに。ありがとう」


涙を堪えながら言うリズにセドリスは何とも言えない顔をしながら首を振った。


「いや・・・」

「ルーメロスのお世話してくるね」


涙を堪えながら言って、リズは竜小屋へと向かって歩き出した。

後ろから、マーシャルが近づいてきて肩を叩いてくれた。


「私もつらいけど・・・リズも頑張ったわ。リズのパパが言うように最善を尽くした結果よ」

「そうね」


マーシャルが一生懸命励まそうとしてくれているのがうれしくて、リズはまた泣きそうになったがぐっと堪えて笑みを作った。


ルーメロスの小屋に着くといつもと変りないルーメロスが出迎えてくれる。

「ルーメロスお帰り」


リズが声をかけると、くぅーと鳴いてすり寄ってくる。

一通りルーメロスの体を観察するが特に怪我をしているわけでもなく一安心をする。

丁寧にブラッシングをしながらルーメロスの頭を撫でる。


「ねぇ、ルーメロス。仲間が居なくなって辛くない?」


涙を堪えながら言うリズを心配しているかのようにルーメロスはペロリとリズの顔を舐めた。

ベトベトの唾液に顔をしかめ、ルーメロスの舌が届かない位置まで後ずさる。


「ちょっと、最近そういうことしないと思ってたのに・・・今日はハンカチを持っていないのよ・・

やめてよね・・・」


ベトベトの獣臭い唾液が顔全体についていて不愉快だったが周りに拭けるような布はない。

いっそ、今着ている作業着の上着で拭こうかと思っていると後ろからハンカチが差し出された。

振り返ると、いつの間にかセドリスが立っていてハンカチを差し出している。


「ハンカチぐらい持ち歩きなよ」

「昨日から泊まり込みだったし、昨日つい忘れてしまったの」


女としてどうなんだと思いつつ、ありがたくハンカチを受け取って顔をぬぐう。

セドリスはどこか納得したように頷いた。


「なるほどな。だからさっき泣いていた時もそのままだったのか」

「・・・・泣いたときに貸してくれても良かったじゃない」


リズが少しむくれて言うと、珍しくセドリスは笑みを浮かべた。


「少しは、元気になったようだな」

「・・そうでもないけど。最善を尽くした結果だって言われたから。できることは全部やったものね」


セドリスは頷いた。


「できることはやった。俺だって後悔することはたくさんある。それこそ、父さんが死んだ日に俺が行くのを止めていればとか、まぁ仕事だから無理だけど。そんなことはいまさら言っても仕方ないことだし・・・」


セドリスが何を言いたいのか分かったリズはもう大丈夫というように笑みを浮かべた。

「まだ心の整理はつかないけど、セドリスのほうが一番つらいだろうから」


「言っておくけど、俺はガットとはそんなに会ってないから、リズが思うほど悲しくないんだけど。

リズのほうがお世話したぶん思い入れがあるんじやない?」


「思い入れはあるよ。竜が亡くなることも初めてで・・・でもセドリスは全部やってきたんでしょ」


コゼット爺さんの授業でも竜の死について触れたことがあったのをリズは思い出す。

自然の掟に従い、山の頂上で空に近い場所で荼毘に付す。灰は土に埋める。

自然に返すのだ。


セドリスは最後まで行ってきたのだろう。

それを思うと、セドリスのほうが辛かったに違いないのに彼はちっとも悲しい顔をしない。

だからリズもこれ以上は悲しまないと決めた。


「カジミール隊長がいろいろ教えてくれて助けてくれたから。ガットを送ってあげることができたんだ。最後を見送ることができてよかったと本当に思っている」


「お父さんがそんなことをしてあげてたとはね・・・。でもセドリスがそう思うことができてよかったわ」


リズがなんとか涙を堪えながら言うとセドリスは意味ありげに笑みを浮かべる。

「それに、ちょうどルーメロスが大人になったんだ」

「え?」


竜が大人になるには顎の下に鱗が出てくるという・・。


「それって授業で習ったことあるけど、竜が成長しきると顎の下に出てくる鱗みたいなものでしょ。

力を入れれば取れるんでしょ?取ったの?」


竜は長生きであり、成人すると鱗ができるが、それからは数十年に一度の割合で出てくるらしい。

竜と信頼関係ができていれば竜の顎の下の鱗を取ることができるらしい。

ただ、竜のお世話係はそれを見つけても取ってはいけないとだけ教えられた。

なぜかはわからないが・・・・。

それを教わった時、お世話係の先輩に見たことがあるかと聞いたことがあったが誰も見たことはなかったためどういうものかは不明だったのをリズは思い出した。

父親に聞いても知らないといわれるためかなり珍しいものなのだろう。

だからリズは幻の竜の鱗なのだと思ったし、一度本物を見てみたいと思っていた。


「まぁ、取ったというかルーメロスがくれたというか・・・」


あいまいな言い方をするセドリスにリズは首をかしげる。

それでも、幻の竜の鱗を見てみたいとウズウズしながらセドリスの隊服のポケットを見た。

絶対にあそこに入っているはず。


「えー・・見たいんだけど?」

「今は見せられない・・・かな・・。もう少ししたら見せられるからそれまで待っててよ」

「えー・・・」


がっかりするリズにセドリスは微かに笑って手を伸ばしてルーメロスの頭を撫でた。


「いつか、生きるものは死を迎える。それが早いこともあるってことだって痛感したよ。

だから俺も今できることをして、後悔しないように生きようと思うんだ」


決意したように言うセドリスにリズもうなずいた。

確かにセドリスの言うとおりだと妙に納得した。


「私も、もう落ち込まない!できることはちゃんとやったし、ガットも最後はきっと幸せだったと思う!そう思うようにがんばるわ」


そう宣言したリズにセドリスは満足そうにうなずいて微笑んだ。

貴重なセドリスの微笑みにリズは顔を赤らめる。


今日のセドリスは雰囲気が違うような気がしてリズは胸がいっぱいになり息を大きく吸って吐いた。

息が荒くなっているリズにセドリスは心配になり声をかけた。


「体調悪いのか?」

「大丈夫、ちょっと興奮しちゃって」

「は?」

目を丸くするセドリスにリズは心配しないでと手を軽く上げた。




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