竜のお世話係23
「19時に訓練開始だって。食事とかは騎士優先だって」
マーシャルが小走りに駆けてきてリズに言っくる。
「知っているわよ、さっき、お世話係の隊長が言っていたじゃない」
リズとマーシャルは竜の鞍を持ちながら、竜小屋へと向かっている。
竜騎士がすぐに飛び立てるために鞍をつけて準備をしておくのだ。
「なんかさ、変じゃない?これ訓練じゃない気がする」
マーシャルがこっそりいうと、リズもうなずいた。
城の様子がピリピリしており、いつもと違う雰囲気なのだ。
訓練と言っているが、たぶん違う。
「私もそう思うわ、それに今城から外に出てはいけないんですって。出入口は全部ふさがれてるらしいわよ」
リズの言葉にマーシャルが頷いた。
「知ってる。さっき門のところもすごい騎士たちが居たし、周りも結構固められているらしいわよ。
それともあれかしら、マリアが竜泥棒と通じてたからスパイ訓練みたいな感じかしらね」
「確かに、それならば訓練の意味が解るわ。スパイ対策訓練ね」
急いで竜の小屋に行き、リズはルーメロスを撫でまわし、騎士が乗るように鞍を付ける。
「ルーメロス、今日は夜に飛び立つんですって。気を付けてね」
一通り撫でまわしながら、ルーメロスに餌を上げ、水もたらふく飲ます。
夜通しの訓練になるかもしれないと、竜のお世話係の隊長から言われた通りの準備を行っていく。
「お疲れ」
振り向くと銀の剣を下げ黒い騎士服のセドリス。
「お疲れ様、ルーメロスの準備はできているわよ。セドリスも食事は済んだの?」
「食べた、・・・・父さんの竜を取り戻しに行く」
「えっ?」
声を潜めて言うセドリスにリズは驚いてセドリスの顔を見た。
いつもと同じ、無表情だ。
そんなことを言っていいのかと思うリズにセドリスは気づいたのかかすかに微笑んだ。
「訓練じゃないからな。あえて訓練って言っておかないと」
リズは昔父と団長が言っていたことを思い出し、頷いた。
「なるほど、攻めますよってことにすると戦争になるけど、訓練だけど間違ってやっちゃいましたってことにするとなんとかなるって・・・・これはそういうこと?」
「そいうこと。訓練中に奪われた竜を見つけて保護しましたって感じかな」
「そう、気を付けてね。絶対にガットを連れてきてね。私、精いっぱいお世話するわ」
「そうだな、その時はリズがお世話ができるように俺からも頼んでみるよ」
そう言ってほほ笑むセドリスがあまりに綺麗でリズは言葉を失う。
なんて、素敵なのぉーと脳内で叫んでいると、ウォルフがキラキラと目を輝かせて近づいているのがセドリスの肩越しに見え、リズは長いため息を吐いた。
いい場面だった気がするのにウォルフのせいで台無しだ。
すこしムッとしているリズに気づかずウォルフがセドリスとリズの間に立って両方の顔を見ながら微笑む。
「どう?お別れは済んだかしら。感動的な場面は済んだの?」
「何を言っているんだ・・・」
さすがのセドリスも眉間に皺を寄せてウォルフを見ている。
ウォルフはお構いなしにセドリスの肩に手をまわして何度か叩いた。
「いやだぁ。感動的な場面は終わったみたいねぇ。見られなくて残念ー。そろそろ、訓練開始時間よ」
セドリスはため息をついて頷く。
ルーメロスを何度か撫でてぐっと頭を抱き込んだ。
「ルーメロス。今日はよろしくな」
「クゥ」
二人の絆がうらやましく思えて複雑な心境になる。
ウォルフも微笑んで見守っていたがすぐに背を見せて歩き出した。
「私も竜と挨拶して連れていくわ。あとでねー」
「はい、ウォルフも気を付けてね」
「わかっているわよ。ありがとね」
リズに投げキッスをして手を振って小走りに走っていくウォルフ。
「ルーメロスもセドリスも気を付けて行ってきてね」
ルーメロスを撫でているセドリスはかすかに笑って頷いた。
「まさか父さんの竜が生きているとは思わなかったからな。ちょっと、前に進んだ気分だ」
「そう・・・ね」
昔大喧嘩したことを思い出してリズは頷く。
セドリスは父と母を同時に亡くしてきっとまだどこかで気持ちに折り合いがついていないのだろう。
彼は親のことはほとんど話すことはなかったが、リズもどことなく父親や母親のことを進んで話すのを控えていた部分もある。
「大丈夫俺はそんなに弱くないと思う。昔とは違うからな」
セドリスも大喧嘩した日を思い出したのだろう。
少し笑ってリズの頭を撫でた。
頭を撫でられることなど初めてでドキドキする胸を悟られないように平静を装いながら微笑んだ。
「そうね。私たちも大人になったわね。行ってらっしゃいセドリス」
「うん。行ってくる」
夜七時 城の中庭に竜騎士と竜が整列をする。
その様子を今回も城の騎士やコックの服を着たままの料理担当の者など城にいるほとんどの者が見守っていた。
どの窓にも人影が見え、かなり注目をされており、竜の遥か後ろに並んだ竜のお世話係達の中で混じっていたリズは少し居心地が悪かった。
隣国へ攫われた事件以来少し注目されているような気がするのだ。
「よっし、訓練開始時間だ。打合せ通り訓練を開始する。怪我がないように!以上」
団長が大きな声を出して挨拶を終えると、一斉に竜騎士たちは敬礼をして竜に騎乗した。
順番に飛び立つ竜に、見守っていた城の人たちが手を叩いたり、声を出したりしながら送り出している。
竜のお世話係も大きく手を振って見送った。
父のカジミールとセドリスも並んで飛び立ったのを見てリズは大きく手を振る。
二人はリズに気づいたようで振り向いて軽く手を挙げてすぐにスピードを上げて飛び立っていく。
空は月もなく、星が輝いている。
「無事に帰ってくるよう祈りましょ」
隣に居たマーシャルがリズの手を握った。
リズも空に輝く星を見ながらマーシャルの手を握る。
「そうね」




