竜のお世話係22
「はぁー疲れた」
会議室から解放されて、大きく息を吐いた。
数日続いた隣国での出来事の報告がやっと終わったのだ。
事細かに聞かれて、これ以上思い出せないぐらい答えた。
やっと今日の午後からルーメロスのお世話係に戻れるのだ。
自然とルーメロスの小屋へと向かう足が軽くなる。
「リズー!」
名を呼ぶ声に振り向くと、マーシャルが笑顔で手を振っていた。
「マーシャル、久しぶりね」
「本当よ。元気そうで良かったわ」
リズが帰ってきてからすぐに会ったが、あまり会話らしい会話はできなかった。
再度お互い会えたことを抱きあって喜び合った。
「帰ってこれないかと思ったわ」
リズがそういうとマーシャルも神妙な顔をして頷いた。
「本当よ。マリアなんて、嫌な感じだったじゃない。それも、結婚詐欺みたいな男と付き合って騙されて、置いて行かれてさ。私が現場に走ってきたときはリズはもうすでに居ないし、マリアは号泣したまま騎士たちに連行されていくし。大変だったのよ」
「私も憧れの竜に乗って飛ぶっていう経験をしたのに感動も何もなく、本当につらかったわ」
「そりゃーそうよ。私でも泣くわ。リズが結婚詐欺男と居なくなってすぐに団長達が竜で追ったのよ。そりゃーすごかったわよ。あっという間。さすが竜騎士団よ」
「結婚詐欺男って・・私が騙されたみたいじゃない」
リズがそういうと、マーシャルはそうねと頷いて、言い直した。
「竜泥棒にするわね。で、結局リズ達が国境を越えてしまったってルーメロスと団長達が帰ってきたじゃない。それからもう、大騒ぎよ。みんな空飛んでなんだかんだーと捜索して、城に居る騎士たちもなんかわっさわっさしてて私はお世話係だからよくわからないけど、とにかく大騒ぎだったわ。
しかもマリアが変な男と付き合ってたじゃない、城に居る人全員、付き合っている人がいるかどうかとか調査されたのよ」
「えーそうなの。凄いわねぇ」
付き合っていた人が隣国のスパイでしたということがあっため、家族や親しい人までいないかと調査が入ったらしい。
二人は歩きながら竜達がいる小屋へと向かった。
お互い離れていた間の出来事を話しているうちにルーメロスの小屋にたどり着き、いつものようにリズはルーメロスを撫でまわす。
「ルーメロスもずーっとしょんぼりしてて、餌もあまり食べないし。っていうか、セドリスさんが手で与えないと餌食べなくて大変だったのよ」
マーシャルの言葉にリズはにんまり笑う。
「そーだったの?ごめんねぇー心配したのねぇ」
わしゃわしゃと撫でまわすリズにマーシャルはわかるわーと頷く。
「竜に心配されるなんて竜のお世話係冥利に尽きるわよね」
「そうよね。セドリスは違うみたいなのよ」
リズがそういうとマーシャルは驚いた顔をする。
「えー信じられないわね。そういえばセドリスさんも元気なかったわよ。リズが心配だったんじゃない」
声を落として言うマーシャルにリズは頷いた。
「そりゃ・・・いつも一緒にお世話している私が敵国に連れていかれたら心配するでしょ・・。
しなかったら逆に嫌だわ」
「違うわよ。そういう感じじゃなくて・・・なんていうのかしら。言葉では言い表せないけど、ぜったいにあんたに惚れているわよ。セドリスさん」
気を遣って小声で話しているが、リズは胡散臭そうにマーシャルを眺めた。
「何言ってんの?どうしてそんな話になるのよ・・・あっ、そういえば、あっちでもう一匹竜が居たって言ったじゃない。その竜、セドリスのお父さんが乗ってた竜なんだって」
リズがそういうと、マーシャルは感動したように顔を赤らめて手を口に当てた。
「なんて素敵なの!そんな運命的なことが起こるなんて。やっぱり、リズとセドリスは運命で結ばれた相手なのよ!」
感動しきったマーシャルの声が思いのほか大きく、リズは慌ててマーシャルの口をふさぐ。
「ちょっと、シーっ!しーっ!静かにしてよ。誰かに聞こえるでしょぉ」
「聞こえているわよ」
後ろから低い声がして、ビックリして振り返ると、ニンマリと笑っているウォルフが立っていた。
大きな体をくねらせて両手をほほに当てている。
「聞こえてきたわよぉ!もう運命ね!素敵だわぁー。あんたたちもう、付き合っちゃいなさいよ」
「えー何言ってんの・・・」
ウォルフにまでリズがセドリスのことが好きだと伝わっているのか。
マーシャルが言ったに違いないとリズが睨むと、マーシャルは慌ててもげそうな勢いで首を振った。
「わ、わたし。何も言ってないわよ!親友でしょ私たち。あんたが秘密っていうのはいわない約束でしょ」
そんな二人をウォルフは眺めて、ウフッと可愛く微笑んだ。
「あらぁ、そんなの見てればわかるわよ。私、愛の伝道師ですもの。愛に生き、愛のために存在しているようなもの。そして、私も愛するものを見つける旅をしている、旅人だもの」
「何言ってんの・・・・」
ウォルフにも自分の気持ちが知られていると思うと恥ずかしいが、あえて平静をよそおって言うがウォルフは手を頬に当てて体をくねらせた。
「んっもう!私、こういう話大好きなの。物語みたいじゃない。すてきねぇー」
「本当素敵ねー」
ウォルフとマーシャルは二人して顔を赤らめて、意気投合している。
呆れて二人を眺めていると、つかつかとヒールの音を鳴らしてエレノアが妖美に微笑みながら速足に歩いてくるのが見えた。
「盛り上がっているわねぇ。仲がいいとこ悪いけど、緊急訓練が今夜あるのよ。もうすぐ集合よ」
ウォルフが背筋を伸ばして敬礼をする。
「了解しました」
男風ウォルフが敬礼をするのを満足そうに眺めて、エレノアはリズとマーシャルを見た。
「あなた達も訓練だから参加よ」
「はい。でも、もうすぐ日が暮れますが」
後2時間ほどで日暮れだ。
夜間訓練は竜騎士は行っていることもあったが、お世話係が参加することは今までほとんどなかった。
それも急遽など初めてで驚くリズ達にエレノアは妖美に微笑む。
「ふふっ、居たのよ。私好みの坊やが。ちょっと可愛がってたらね、いい情報手に入れちゃったの。ちょっと早めにやらないとだめなのよねぇ」
「はぁ?」
意味の分からないことを言うエレノアにリズとマーシャルが目を丸くしているがウォルフは何かを納得したように頷いた。
「じゃ、早めに集合して頂戴ね」
そう言って去っていくエレノアを見てウォルフが小声で言う。
「あの人、可愛いらしい子が好みなんですって。男でも女でも。でもね、そういう子が泣き叫んでいるのを見るのが好きなんですって。だから、ちょっとでも怪しい人を見るとすぐにヤッちゃうのよ」
「えー・・・何を?」
嫌な予感がするがリズがチラリとウォルフを見上げると、彼はひきつった顔をしている。
「スパイかなーみたいな人を痛めつけるのが好きなんですって。彼女以外にうまく痛めつけて情報を引き出す人はいないって、よく駆り出されているのよね。きっと今回も何か情報を掴んだのね」
「・・・人は見かけによらないというか、見かけ通りというか・・・」
リズがつぶやくと、マーシャルもうなずいた。
「道理で、ここにいる男たちがエレノアさんだけはあり得ないというわけね」
「そういう性癖を持っている人ならいいんじゃない?」
リズが言うと、ウォルフはひきつった笑みを浮かべた。
「無理よぉ。いじめ方が尋常じゃないらしいわよ。でも、そのエレノアさんもリズを攫った男がスパイだったって見抜けなかったことをかなり悔しがっていたわよ。エレノアさんの趣味じゃないのもあったと思うんだけどねぇ」




