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竜のお世話係17

昨日は、セドリスと出かけたもののこれと言った団長のプレゼントを選ぶことはできず帰宅したがリズの機嫌は良かった。

セドリスとまた出かける約束をしたからだ。

マリアと一緒にいた男のことは気になるが、あまり関わらなければいいのだ。


「ルーメロス、おはよ」


朝いつものようにルーメロスの小屋に行くと、リズに甘えるように可愛く鳴き声を出して頭を差し出す。

優しく撫でて、餌を容器に入れた。

いつもより早く来てしまい、ほとんど竜の世話をしている者は居なかった。

竜騎士もまだ朝練の時間ではないらしくほとんどいない。

竜の鳴き声が所々で聞こえる静かな朝にリズは大きく息を吸い込んだ。


「あぁ、なんて幸せなのかしら」


昨日はセドリスと出かけることができたし、毎日充実しているような気がする。

大好きな竜のお世話もできるしなんて幸せなのだろうと感じながらルーメロスの頭を撫でる。


「おはようございます。リズさん」


後ろから声をかけられて振り向くとマリアが立っていた。

作業服を着て、昨日とは違い少し薄めの化粧だが相変わらず美しい。

恋する乙女は綺麗なのねと思いながらリズもマリアに挨拶をする。


「おはよう、マリアさん」

「早いのね。リズさんはお一人?」

「そうだけど?」


見ればわかるだろうと頷くとマリアはにっこりと笑った。


「それは良かったわ」


突然右腕を後ろから掴まれて締め上げられる。

痛みに声を出すリズの左手もつかまれ両手を後ろ手に縛られた。

素早い動きに抵抗する間もなく拘束され視線だけで背後を見ると昨日マリアと一緒にいた男がリズの腕を縛っている。

男の青い瞳を見て、8年前セドリスと喧嘩した日にぶつかった男だと思い出した。


「あなた!あの時ぶつかった人!ここで働いている人だったの?」


城の騎士の制服を着ている男はあの日以来で見かけたことがなかった。

驚くリズに男は笑った。


「まさか、ここで働く人間が女を縛り上げると思うか?」


髪の毛を掴まれてそのまま引っ張られた。

痛みに顔をしかめるリズにマリアが嬉しそうに笑みを浮かべている。

「やっと結婚できるのよ私。長かったわ」

「何を言っているの?」

マリアの結婚と、締め上げられているこの状況に意味が解らず混乱する。


男はマリアを気にするでもなくルーメロスに素早くロープを括り付けた。

ルーメロスも嫌そうに声をあげるが暴れたりはせずにおとなしく従っている。


「マリア、早くしろ」


男がそういうと、マリアは自分が世話をしている竜を素早く連れてきた。

すでに鞍もつけてある竜にリズが驚くと、男は不敵に笑う。

「ご苦労だったな」


そう言って男はリズを引っ張りながらルーメロスも一緒に引っ張っていく。


「リズ!」

騒ぎを聞きつけたであろう人が走ってきた。

カジミールや団長、セドリスの姿もあったが、男はリズを引っ張りながら素早くマリアが世話をしていた竜に飛び乗った。

リズも男の後ろに無理やり乗せられる。


「来るのが遅かったな」


男はそういうと竜を操ってふわりと浮かび上がった。


「竜と、竜のお世話係はもらっていく」


そういうと、竜を操りはるか上空へと舞い上がる。


「ちょっと、私も連れて行ってくれるはずでしょ。結婚してくれるって言ったじゃない!」

「竜にも好かれていない人間は、邪魔なだけだ。じゃぁな」


男の言葉に青ざめたマリアの顔と叫び声が聞こえたが、どんどんと空へと浮かんでいく、

浮遊感に体がついていかず目をつぶっていたが髪の毛を引っ張られリズは薄く目を開ける。

はるか下に城が見え、後ろにいる男は声を出して笑いだした


「やっとだ、8年間長かった。竜を盗んでやっと国に帰れる。それも二匹だ」

「あなた何者なの?」


ふらふらと飛ぶ竜に酔いそうになりながら、リズは尋ねる。

「隣国のスパイだな。竜とお世話係を盗む役割を今果たすことができて帰還するところだ」


ルーメロスもロープで引っ張られて無理やり飛ばされている状態で、リズは竜が可哀想で見ていられない。


コゼット爺さんの授業でも竜は貴重なため盗まれるのを防いでいると習ったのを思い出した。

竜の世話をする知識も我が国が一番だと言っていたのを思い出す。

今乗っているマリアが世話をしていた竜はふらふらしており、まともではないのはわかった。

手が縛られているため落ちないように気を付けながら、乗っている竜の顔を見る。

目がトロンとしており口からはだらしなく涎が垂れ、まともな状態ではないことはわかった。


「竜になにか変なもの与えたの?まともじゃないわ」

「さすが、竜のお世話係。催眠作用のある薬をちょっと食事に盛っているだけだ。1日もすれば元に戻るだろう」

「酷いわ竜にそんなことをするなんて・・・」


竜を心配するリズに男は鼻で笑った。


遥か下に見えていた城は見えなくなり、町も見えない。眼下に広がるのは森だ。

かなりのスピードを出して竜は飛行している。

かなり遠くまで来てしまった。



「まだ追跡はこないな。そろそろ国境だ。ここを越えれば勝ちだな」


男は振り返りながらにやりと笑った。

リズも後ろを振り返るが、確かに誰の姿もなかった。

竜の羽ばたきの音に交じって何かが風を切る音と同時にリズのすぐそばを何かが飛んで行った。


「なに?」


驚くリズに、前にいた男は舌打ちをして頭を低くしリズの体の陰に隠れた。

リズは何が起こったのかわからず、周りを見渡すと、音もなく竜が数匹後ろを飛んでいるのが見えた。

先ほどまでいなかったのだが、いつの間にと驚いているリズに父親のカジミールの声が聞こえる。


「リズー!無事か」


「お父さんー!」


リズが叫ぶとカジミールは剣を抜いて乗っている竜のスピードを上げた。

後ろから数名ついて来る。一人は弓を構えている。

先ほど勢いよく通り過ぎて行ったものは弓だったのだと認識しリズは顔を青くする。

下手したら刺さっていたではないか。

だから前の男は身を低くして自分を盾にしているのか。


男がリズの陰に隠れているからか、弓を打つ気配はない。

竜のスピードがますます上がるが、そろそろ国境なのだろう、追いかけていた竜騎士たちのスピードは落ちた。

縮まっていた距離がまた開き、スピードを落とさないカジミールだけが近くを飛んでいる。

必死に手を伸ばそうとするカジミールを見て男が短剣を抜いてリズのお腹に当てる。


「攫う前に刺し殺すぞ。お世話係が手に入らないのならこの女にあるのは死だ」


「くそっ」


カジミールは伸ばした手をひっこめ、そのまま少しスピードを落とした。


「リズ!生きろよ!必ず何とかするから」


お互い手を伸ばすが届かない距離に父親が言う言葉にリズは頷いた。

後ろ手で縛られている手でルーメロスに繋がれているロープを手に取りなんとか結び目をとった。

ロープが離れたのを見て男が舌打ちをする。


「大切な竜を逃がすなぁ!」


激高した男が突き付けていたナイフの柄でリズの顔を殴った。


痛みで一瞬意識が遠のくが、竜から落ちないように男がリズの服を掴む。

かろうじて意識を保つが頬が腫れたように痛みに顔をしかめるリズにカジミールが後方で叫んだ。


「てめぇ、俺の娘をこれ以上傷つけたらただじゃおかねぇからな!」


国境を超えたのだろう、カジミールは追ってくることはなくその場で旋回をしている。

心配そうに並走しているルーメロスにリズは手であっちに行くように手を振る。


「いいから行って。帰りなさい!」

「くぅー」


リズの指示に困ったように泣きながらもついてくるルーメロスにリズはまたあっちに行くように指示をする。


「セドリスのもとに帰るのよ!私のことはいいから!命令よ!ルーメロス」


きつい口調で言うとルーメロスは諦めたように鳴き速度を落とした。


「だめだ、ルーメロス一緒に来い」


男が離れていくルーメロスを呼び止めるがルーメロスは追いついてくることはなかった。

遠くで鳴くルーメロスの悲しげな声にリズは胸が張り裂ける思いだった。






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