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竜のお世話係16

マリアが竜のお世話係から降りるかもしれないという話を聞いてから一か月が過ぎた。

それでも彼女は竜のお世話係としてまだ仕事している。

リズはなるべく彼女と関わらないように過ごしていたが、彼女のほうから話しかけられてしまうため仕方なく当たり障りない話をするようにしていた。

今日も竜のお世話係を終えて帰ろうとすると、マリアに話しかけられてしまった。


「お疲れ様、リズさん。竜の調子はどうかしら?」

「いつも通り元気だし、可愛いわよ」


これもいつもの会話だ。

ここにいる竜の体調が悪くなったのであればすぐに話題に上がるため、竜のお世話係同士はこのような会話はあまりしない。

自分の竜がどれぐらい可愛いかの話はよくするが。


「リズさんがお世話しているルーメロスは確か、すごい体力があるのよね。どこまでも飛べるとか?」

「竜はみんなそうよ?」


首をかしげると、マリアはにっこりと笑った。


「そうだったわね、ルーメロスの好物はなんなのかしら?私のところ竜は好き嫌いが激しくて」

「あぁ、そういえばそうだったわね。フルーツが好きで野菜が苦手で食べさせるの大変だって前の竜のお世話係の人も言ってたわ」


リズは思いだしながら言うと、マリアは頷いた。


「大変なのよ。ルーメロスはそんなことはないのかしら」

「そうねぇ、なんでも食べるわよ」


リズがそういうとマリアは満足そうにうなずいた。


「リズちょうどよかった。ちょっといいか」


セドリスがリズに手を挙げながら近づいてきた。

いつも通り無表情だがリズには少しだけ機嫌が悪そうななのが分かる。


「セドリスさん。こんにちわ」


少し顔を赤くして言うマリアにセドリスはそっけなく軽く頭をさげた。


「リズ、団長のことについてちょっと聞きたいことがあったんだ」


そう言って、ジェスチャーであっちに行こと伝えてくるセドリスにリズは頷いてマリアに手を振った。


「じぁ、お仕事頑張ってね」


ついてこようとするマリアを何とか振り切って、遠く離れたところでセドリスが歩みを止めた。

マリアがついてこないのを確かめてセドリスはリズに向き合う。


「何を聞かれた?」

「え?ルーメロスの好物だけど」


リズが答えるとセドリスは少し考えるそぶりを見せる。

「なるほどな」


もしかして言ってはいけないことだったのかと不安になるリズに、セドリスは気にするなという風に手を軽く振る。


「団長のことなんだけど」


セドリスが思い出したように、言うのでリズは驚いてセドリスの青い目を見た。


「え?マリアさんから離すための嘘じゃないんだ」

「それもあるけど、もうすぐ団長の結婚記念日だから今年は何を送ろうかと思って。リズに相談したかったんだ」


少し恥ずかしそうに言うセドリスにリズは微笑む。

リズとセドリスが大喧嘩をした時から、団長はセドリスのことをより可愛がるようになった。

本当の息子と思って接するから俺を父親だと思えと二言目にはいってセドリスに嫌がられていたのを思いだす。

それから、団長はセドリスを自宅に招いてはご飯やらなにやらと世話を焼いていた。

最初は嫌がっていたセドリスも最近ではあきらめて団長のお節介を受け入れている。

そんなセドリスは団長夫婦の結婚記念日に贈り物をするようになったが、一人では選べないとリズも一緒に選ぶようになった。

セドリスに頼られているような気がしてリズは今年も安心する。

彼に特別な人ができたら、いっしょに選ぶこともできなくなるのかもしれないとたまに一人夜思って悲しくなるがまた、今年も一緒に選んでくれるのだとうれしくなる。


「もうそんな時期なのね。団長が崖から落ちた事件が昨日のように思い出すわ」


リズがそういうとセドリスが複雑そうな顔をした。


「せっかく忘れていたのに。団長の顔をまともに見れなくなる」

「私は一生忘れられないわよ」


ザールおじさんが崖から落ちて死んでしまったかと思った出来事はリズにとって衝撃的だったのだ。


「そうだろうな。で、一緒に選んでほしんだけど」


セドリスにそう言われて断れるはずもない。

リズは頷いた。



セドリスと約束した休日の日、リズは朝から浮かれていた。

セドリスとは仕事では年中一緒にいるが、休日には会うことはないからだ。

今日は、プライベートの彼に会えると思うだけで顔がにやけてしまう。


「リズはご機嫌だなぁ。今日はお出かけか?」

父であるカジミールも公休日だったらしく、機嫌のよい娘を見みながらコーヒーを口に含む。

妻のハンナが焼けたばかりのパンを置きながら言った。


「今日はセドリス君とお出かけだものねぇ」

何か含んだ言い方に、カジミールが勢いよくコーヒーを噴出しリズは慌てて飛沫をよけた。

ギリギリ洋服にかかることはなくホッとする。


「きたないなぁー。お父さん何?」

「何じゃない。まさか、デートか?」


大きな声で聞いてくる父に、リズは嫌そうに顔をしかめた。


「そんなわけないでしょ。団長のプレゼント買いに行くの」


そういうと納得したようにカジミールは頷いた。


「もうそんな時期か。はぁ・・・」


カジミールは昔を思い出しため息を吐いた。


「昔はリズと一緒に、ザール団長のプレゼント買いに行ってたのになぁ。いつからか俺とは行かなくなったよな・・寂しいなぁ」


呟いたカジミールに、ハンナがコーヒーをつぎ足しながら頷く。


「そりゃそうよ。うるさいお父さんと行くより、イケメンのセドリス君と行った方が楽しいわよね」


「そんなことないよ!ただ、どうしても一緒に選んでほしいっていうから」


赤い顔をして必死に言うリズに母はあらぁとニコニコ笑い、カジミールは複雑な気持ちになる。

両親に自分の想いがばれているとも知らず、リズはウキウキしながら朝ごはんを食べた。


「じゃ、いってきまーす」


両親の生暖かい視線に見送られてセドリスとの待ち合わせ場所へと向かう。

雲一つない晴天に、家の前の崖からは城がよく見えた。


「いやーいい天気だなぁ」


ひとり呟いて坂を下りる。


待ち合わせ場所に行くとすでにセドリスは来ていた。

黒い騎士服とは違い、白いシャツに黒いズボンの彼はとても素敵だったが平常心を装ってセドリスに挨拶をする。


「ごめん、待たせた?」

「いやそうでもない」


相変わらずニコリともしないが、機嫌がよさそうなセドリスにリズもうれしくなる。


「今年は何にする予定?」


町のどの店に入ろうかと歩きながら尋ねるリズにセドリスは首を振る。


「何も思い浮かばないんだ」

「そうねぇ、去年はワインでしょ、その前は旅行をプレゼントしたっけ。今年はどうしようか」


セドリス的には本当の息子でもないのだから残らない物を選びたいとのことで、だいたい思い出作りか消えもの系と決まっていた。


「ずっと考えているが何も思い浮かばないんだ」


少し困ったように言うセドリスにリズもうなずく。


「私もよ。残らない物っていうのが意外と問題なのよね。物ならアクセサリーとか、いろいろ考えられるじゃない。うーん」


おしゃれな店が立ち並ぶ中歩きながら何かいいものはないかと思案しているとセドリスが急に立ち止まった。

どうしたのかと視線を向けるリズに静かにするようにジェスチャーで伝えてくる。

セドリスが静かに指さした方を見るとマリアが見知らぬ男と腕を組んで歩いている姿。

驚いて二度見するリズにセドリスが静かにするようにまた伝えて、リズを物陰へと引っ張っていく。

完全に姿を隠しながらマリアを眺められる位置へと移動する。


「・・・なんかいつもよりお洒落してるわね。マリアさん」

「そういうのは良くわからないけど、一緒にいる男は誰だ?見たことないな」

「すごいおしゃれしているのに・・・判らないのってどうかと思うんだけど」


派手な化粧をし髪の毛もきれいにまとめ、赤い口紅をしているマリアの姿を、いつもと違うことがわからないというセドリスを驚きの目で見るリズ。


「リズがなんかいつもと違うなというのはわかる。もしかして、今日はおしゃれしてる?」


じっと青い瞳に見られてリズは顔を赤くする。


「そりゃ、町に出るんだから少しはおしゃれしてるわよ」


セドリスに会うんだし。と心の中で付け加える。


「ところで私、あの男、どこかで見たことがあるんだけど・・・・」


どこで会ったか思い出せず記憶を探るが出てこない。

マリアは顔を赤くして男と話しながら店の前で何か話している。

すると、男が身を屈ませてマリアにそっと口づけした。

口づけにマリアは顔を赤くして、男の腕に抱き着いた。

茶色い髪の毛の男はセドリスと同じような青い瞳がマリアを見つめているが、その見つめた瞳には愛情は感じられなかった。


「恋人同士には見えないわね。一方的にマリアが好きなのかしらね」


何気なく呟いたリズの言葉にセドリスは首を傾げた。

「さぁ」












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