竜のお世話係15
「リズさんですよね。マーシャルさんと仲がいいって羨ましいわ。私、入ったばかりで何も知らないからいろいろ教えてくださいね」
ニコニコと美しい笑みを浮かべているマリアにリズはあいまいに笑って頷いた。
セドリス達に気をつけろと注意されてから一か月ぐらいはマリアを避けて過ごしていたが、今日は挨拶をしたついでにつかまってしまった。
「私もここでは若い方なのよ。もっと先輩にいろいろ聞いた方がいいわ」
リズがそういうとマリアは驚いた顔をする。
「聞いた話では8年ぐらい竜のお世話されているんでしょ。年も近いから仲良くしてくれるとうれしいわ」
確かに、リズ達のあと一人だけ後輩ができたが年上の男性だったためそんなに後輩という感じはしなかったし、むしろその後輩にいろいろと教えられることが多かった。
マリアが初めての後輩になるのだが、セドリス達に言われている手前親切にいろいろ教えてあげるわけにもいかない。
あいまいに笑ってやり過ごそうと軽く頷く。
「えぇ、まぁそうね。わからないことがあったら聞いてね」
思わず言ってしまい、心の中で頭を抱えた。
マリアはにっこりと笑っている。
「ありがとうございます。竜のお世話係になったんだけど、本当によくわからなくて。
竜ってたまに噛もうとしたりしません?私怖くて」
昔はルーメロスに頭を口の中に入れられていたこと思い出してリズは頷く。
「あったわね。愛情表現らしいわよ。頭をまるごと食われたわ」
「えぇぇ?」
顔を青くして悲鳴にも似た声をあげるマリア。
「・・・たぶん愛情表現よ。竜ってかわいいわよね。何をしても許せるもの」
「・・・そうかしら、いつか手をたべられちゃうんじゃないかしら。怖くなってきたわ」
そう言うマリアにリズは首をかしげる。
確かに、手を口の中に入れたり頭を口の中に入れられたりしたこともあったけど食べられてしまう恐怖など一度も感じたことがなかった。
竜が可愛すぎるのだ。
「見てくださいコレ」
マリアが作業着の長袖をめくると痛々しい歯型が腕についている。
青い痣になっているところも何か所かあり、リズは驚いて彼女の手を取った。
「どうしたのこれ? 誰にやられたの?」
「竜よ。竜の世話をしてたら噛んできたり、尻尾で叩かれてこのありさまよ。体中痣だらなのよ」
「えぇぇ?竜ってそんな酷いことはしないわよ」
リズがそういうとマリアのほうが驚いた顔をしているではないか。
「皆さん、そんな経験ないのかしら。私だけなのかな。・・・・向いてないのかしらこの仕事」
竜のお世話係が竜に攻撃されたことなど聞いたこともなく、リズが首をかしげていると遠くからセドリスに呼ばれた。
「じゃ、私は仕事に戻るわねマリアさん」
「えぇ、ありがとうございます。セドリスさんみたいな綺麗な方と仕事ができるなんて羨ましいわ」
リズはあいまいに笑ってマリアに手を振ってセドリスのもとに向かう。
「助かったわ。マリアさんに話しかけられちゃって」
「何か聞かれた?」
セドリスと並んでルーメロスの小屋へと向かいながら歩く。
セドリスに聞かれてリズは彼女が近くに居ないか確認しながら先ほど見た痣の話をする。
「変じゃない?竜がそんな酷い事するなんて聞いたことないわ」
「確かにな。あんた、昔ルーメロスに頭から食われてたけど怪我させられたりはしてないしな」
何か考えるように言うセドリスにリズもうなずく。
「いつもちゃんと力加減は考えてくれている気はするわ。ルーメロスもほかの竜も」
「俺も訓練の時、俺の体が危ない時なんかかばってくれたりするぐらい賢い竜が世話係の体に痣がつくまで力を加えるかと思うと疑問だな」
「そうね、噛んだ痕もすごかったわ」
「・・・・団長に報告してくる」
そう言って小走りに走っていくセドリスの背を見送ってリズはルーメロスの小屋へと向かった。
「ルーメロスー。あんたは私を噛んだりはしたことないもんね」
そう言って頭を撫でると、かわいらしく鳴いてリズの胸に顔をうずめたルーメロス。
「竜がそんな酷いことを人間にしないわよね」
「くー」
可愛らしく鳴く竜がますます愛おしくてわしゃわしゃと撫でまわした。
「リズ!聞いたわよ」
竜のお世話も終わり帰ろうとしていると、すでに帰り支度をしたマーシャルが声を潜めて近づいてきた。
女性の更衣室にはリズとマーシャルしかいない。
「何を?」
「あの女、ちょっと怪しいんじゃないかって。竜に嚙まれるなんてお世話係としてちょっとおかしいもの」
「・・そうよね。私も今まで竜が噛んだり、痣ができるまで叩いたりするなんて聞いたことないわよね」
リズがそういうと、マーシャルは力強く頷いた。
「そんなに凄いの?痣とか」
「腕しか見てないけど、噛み痕もすごかったわよ」
「信じられない。まさかと思うけど、竜に酷いことしているんじゃないの?あの女」
リズと同じく竜が大好きなマーシャルが少し怒りながら言う。
マリアがそんなことをする人とは思えずリズは首をかしげる。
「あらー、そういう話は更衣室でするものじゃないわよ」
「エレノアさん!」
突然後ろから現れたエレノアにリズとマーシャルが驚くと、彼女は色気を出しながら片目を瞑る。
「誰が聞いているかわからないから駄目よ。あなたたち単純バカだから言うけど、マリアちゃんとあまり話さない方がいいわよ。痛い目見るから」
エレノアはリズ達と出会った頃から変わらずの美貌と色気だ。
なぜか、入隊したころから竜騎士たちはエレノアを恐れており、彼女が来るとおびえている様子が未だに不思議であるがリズたちにはとても優しく接してくれている。
「あの、マリアさんってなんかあるんですか?」
あまりにもみんなが警戒しすぎているため、何かあるはずだとリズが聞くとエレノアは微笑んだ。
「さぁ? でも、竜のことを聞いて回るとか、竜に噛まれるとかおかしいじゃない。
竜のお世話係失格な人間なんて今までいなかったのよ。そろそろお世話係を降りてもらおうと話しているところなのよね。一か月様子見たけど竜と仲良くできないみたいなのよねぇ」
「そうなんですか」
確かに竜と仲良くできないのであれば仕方ないのかもしれない。
リズは頷くと、エレノアは微笑んだ。
「あなた達はいつまで経っても可愛いわねぇ。そのまま可愛いままでいてねぇ」
昔を懐かしむように微笑まれリズとマーシャルはあいまいにうなずいた。




