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竜のお世話係13

「おはよー!」

朝、竜の小屋へ朝の餌を運ぶべく台車を押していると、マーシャルが声をかけてきた。

作業着姿のマーシャルもリズと同じ21歳。

最初に出会った頃と友情は変わらず何でも話せる親友だ。

赤茶色の髪の毛をお団子にしているマーシャルは大きな目をクリクリさせながらリズに微笑んだ。


「昨日見たわよ。セドリスさんと歩いてたでしょ」

「団長の家飲み会をお父さん達がまたやってて、お父さんまだ帰らないっていうから送ってくれたのよ」


ゴロゴロと二人で台車を押しながらリズが説明をするとマーシャルは声を小さくして言ってきた。

「よかったじゃない。送ってもらうとかもう特別な何かあるんじゃないの?さっさと告白すればいいじゃない」


唯一、リズの恋心を知っているマーシャルは事ある毎に告白しろと言ってくるが、リズにそんな勇気はない。


「いやよ。フラれたら私どうやって仕事するのよ。落ち込んじゃって無理よ」

「でも、セドリスさんに恋人ができても落ち込むでしょ。あんた」

「確かに・・・でも、ルーメロスには会えるし。セドリスとの関係も変わらないししばらくはこのままでいいわ」

「リズがうらやましいわぁー。お世話係とその騎士は運命の相手になる確率が高いんだからさ告白すればきっとうまくいくかもしれないじゃない。もったいないわ。あぁ・・・私も恋がしたいわ」


マーシャルは相変わらず恋に憧れているが竜騎士はあきらめて、城で働く人達にターゲットを変えて仕事の合間に恋を探しに行っているが居ないらしい。


「おはよー。マーシャル。リズ!」


小屋の近くに行くと、ウォルフがかわいらしく手を振っているのが見えて、リズも手を振る。

ウォルフも出会った頃よりますます大きくなり、今は筋肉なら団長にも負けないぐらいのたくましい男性になっている。

見た目だけは。

言葉遣いと、態度はますます女らしくなり、マーシャルとは姉妹のような関係になっているようだった。


「あらぁ、リズ。あんた、髪の毛少し傷んでなぁい?オイルつけてる?」


ウォルフがかわいらしく首をかしげてまじまじとリズの茶色い髪の毛を見てつぶやいた。

「オイルつけてるよ。たまにだけど。ウォルフが勧めてくれたやつ」


そんなに傷んでいるわけではないと思うが、リズが髪の毛に手を置いて言うと、信じられないという顔をするウォルフ。


「たまにってなに?髪の毛とお肌は毎日お手入れしないとだめよ。女がダメになるわよ。

竜だって毎日ブラッシングするでしょ。それと一緒。私たち女もお手入れを怠ったらだめよ」


私たち女とひと括りにされてもウォルフは男じゃないかという言葉は飲み込んでリズは頷く。

「そうね。ウォルフの言うとおりだわ」


リズからしたらお肌も髪のお手入れも、どうでもいいものだがウォルフが煩いので彼に勧められているオイルをたまに塗っているのだ。

ここでめんどくさいなどいうものなら、一時間は女の肌質についてや、それがゆくゆくはいい男を捕まえるために必要なことなのだと説教をされることを知っているので、真面目にうなずく。

するとウォルフは満足したように頷いて、黒い騎士服のポケットから小さなビンを取り出した。


「これ、試してみて。今私が押している、オイルよ。バラの香りがするのよ。素敵でしょ」

「へぇ、ありがとう」


リズとマーシャルの二人の分があり、それぞれ受けとった。

「竜が嫌がらない自然な香りだから気にしないでつけて頂戴」


小さなかわいらしいビンは薄いピンク色のオイルが入っていた。


「サボってないで、ささっさと仕事しなよ。そこの3人」


冷めた声に振り返ると、いつもと変わらない無表情のセドリスが立っていた。

黒い騎士服を着ているセドリスにリズは悟られない様にときめきを押さえるのに必死だ。

昨日の私服も素敵だったけど、今日の騎士服も素敵だわ。

二人でいるときはなるべく彼を直視しないようにしていたが、じっくり見るとやはりかなりの美貌に胸がときめく。

美形好きではなかったはずなのにと思うが、一緒に数年過ごすうちにセドリスの顔も性格も好きになってしまったのだから仕方ない。

マーシャルからしたら顔だけいいけど性格が好みではないらしく、どこがいいのかわからないわと言われているが、冷たそうに見えてもたまに優しいセドリスに惹かれているのだ。


「あらぁ、おはよう。セドリス。今日もいい男ねぇ」

毎日会うたびに言うウォルフにセドリスはため息を吐いた。


「毎回毎回、第一声のその言葉変えてくれない?ウォルフに褒められてもうれしくない」

「仕方ないじゃない。私の好みではないけど、いい男だもの。女にもてるより私は男にもてたいけど」


うふっと、かわいらしく顔を傾けるウォルフに一同はため息を吐く。


「さっ、仕事しよー。ウォルフありがとう」

「どういたしまして。お仕事がんばって。さ、私たちも仕事しましょ。マーシャル」


去っていく二人を見送ってゴロゴロと台車を押すリズ。

すでに、セドリスの姿はない。 

さっさと去ってしまうセドリスのこういう性格は変わらないがもう、リズは怒ったりはしない。

セドリスに近づく乙女たちはそっけない態度に傷ついて去る人が多いがそういう性格なのだ。


ルーメロスの小屋に行くと、セドリスはすでに竜のブラッシングをしていた。


「ルーメロス、おはよー」


リズが声をかけると、ルーメロスは一瞬リズに向かってクゥと鳴くがすぐにセドリスをうっとりと眺める。

これもいつものことだ。

ルーメロスの一番はセドリスで、2番目がリズ。

2番目でもルーメロスに好かれていればいいとリズは思っている。

台車から竜の餌を餌箱へと移していくリズにセドリスが思い出したように言った。


「そういえば、コゼット爺さん引退するらしいよ」

「えぇぇ?そうなの?でもコゼット爺さん100歳を過ぎているんでしょ。仙人だと思ってたけど引退だなんて・・・どこか悪いのかしら」


リズがここで働き始めたころ、竜の生態を教える先生として教えてくれていたコゼット爺さん。

100歳を過ぎても、現役で竜の簡単な世話と新人の教育をしていた。

新人と言っても三年ほどまえに男性の竜のお世話係が入ったぐらいなのだが。

困ったことがあると相談をしていただけに居なくなるのはかなり寂しい。


「お元気そうだったけど」

リズは、いつもと変わらないコゼット爺さんの姿を思い出していうと、セドリスは頷く。


「元気だけど、そろそろ年だしってことでさすがに竜の世話をするのはどうかということになって、引退を勧めたらしいよ」


竜の世話といってもサポート程度で、リズ達みたいに常に世話をしている状態ではないが竜のお世話の師匠としてアドバイスをもらっていたため居なくなるのは寂しい気持ちになる。


「そうなんだ・・。でも、今病欠で抜けている竜のお世話係やってなかったっけ?」


リズが言うとセドリスは頷いた。

「急遽、募集をかけて一人決まったらしい。確かリズと同じ年の女の子」

「へぇ・・仲良くなれるといいな」


マーシャルと同じように親友になれればいいと思っていたリズだったがセドリスは肩をすくめた。


「たぶん気が合わないと思う」

「・・・えっ?会ったことあるの?」

驚くリズにセドリスはルーメロスの口に餌を放り込みながら頷いた。

「会ったというか、一方的に話しかけられた」

「へ、へぇ・・・・」


一方的にという言い方にリズは顔が引きつった。

セドリスは珍しいぐらいの美形のため、女性から話しかけられることが多い。

たぶん今回もそのパターンなのだろう。

たしかに、そういう女性とはうまくいかないだろう。

相手がリズに一方的に敵意を向けてくることが多いからだ。

もし、セドリスに気があるのなら、なおさらだ。

めんどくさいことになりそうだとリズは思いながらデッキブラシを手に持った。







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