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竜のお世話係12 あれから8年

竜騎士とお世話係が大喧嘩をした事件から8年が経過した。

14歳だったリズも21歳になり、竜のお世話係としても一人前として働いている。

そんなリズは今日は休暇で一日家にいる。


「はぁ、ルーメロスは元気かしら」


ため息を吐きながらつぶやくリズに母親は呆れ顔だ。


「休日ぐらい仕事のことは忘れたら?」

「お母さんだって自分の子供のことを心配するでしょ?今どうしているかしらって一日中。それと一緒よ」

「全然、心配したことないわよ。竜への愛情はわが子以上よね。はい、これ持って行って」


焼けたばかりのパンを何個か袋に入れたものを持たされてリズは不服そうに声をあげる。


「えーめんどくさいよ。お父さんまたザールおじさんの所で飲んでいるんでしょ」

「そうよ。そのパンをおすそ分けして、お父さんに夕食は戻るのか聞いてきて。

あと、ご迷惑だから早めに帰りなさいって言っておいてよ」

「はぁい」


リズは仕方なく袋に入ったパンを持って家を出る。

父親とザール団長はここ数年は月に2・3回はお互いの家でお酒を飲むことがあった。

昼過ぎぐらいから飲み始めて夜遅くに帰ることもあったが、いつ帰るのかリズが見に行くのもいつものことだ。

一度、酔いすぎて帰宅できなくなりザール団長の家に泊まって以来、リズが催促しに行くのが日課になった。


家の外に出ると夏の暑い日差しが少し和らいでおりだいぶ過ごしやすくなっていた。

まだ温かいパンを袋の上から抱えなおし、崖の上に建っている家の横から町を見下ろす。

見下ろした小高い丘の上に建っている白い城を見て、その中に居るであろう竜のルーメロスがどうしているのかと心配になる。

基本的に担当の竜のお世話係が休みの日は違うお世話係が世話をする。

しかし、竜が嫌がるため、餌やりなど必要最低限に限られるのだ。

早く明日になってルーメロスと戯れたいと思うが、今はパンを届けるのが先だ。

坂道を下り、城まで続く道へ入り一つ小道に入る。

ザール団長の家に着くと扉をノックした。


「こんにちはー!リズでーす」


大きな声で呼ぶとすぐにドアが開いた。

未だに少女のように小柄でかわいらしい団長の奥様がリズの顔を見て微笑む。


「毎回、悪いわね」

「いいえー!父がいつもお世話になってて。これ、パン。お母さんがどうぞって」


まだ温かいパンの入った袋を渡す。


「まぁ、ありがとう。お母さまのパンおいしいからうれしいわ。うちの人たちもう飲んだくれているから。お父さん、連れて帰る?」


そう言って中に迎え入れてもらう。

玄関からリビングに行くとカジミールとザール団長が顔を赤くして大きな声で笑っていたが、リズの姿を見ると陽気に手を上げる。


「おぉーよく来たなぁ。リズちゃーん」

「リズーお迎えご苦労。でも父さんもう少しだけここにいるから」


空いたグラスに酒を注ぎ足して二人で乾杯をしている。

その奥にはセドリスの姿もあった。


「あら、セドリスも居たの?」

「無理やり参加させられた」


22歳になったセドリスは、相変わらず表情がなく愛想もないがリズとの仲は悪くはない。

あの大喧嘩した日から8年。

それなりに歩み寄りお互いわだかまりなく働いている。

竜騎士の中でもとび抜けた美貌で愛想がないため、笑わない美貌の漆黒騎士とまで言われ遠巻きに女性方の人気だ。

竜騎士とその竜のお世話係は結ばれるらしいと巷での噂だが、リズとセドリスはそんな雰囲気はなさそうだとセドリスに憧れている乙女たちは思っているらしいが、リズと親友のマーシャルは早くくっつきなさいよぉ!と言われているためリズとしては少し居心地が悪い時もある。


何を隠そう、いつからかセドリスが成長するにしたがってリズには恋心が芽生えてしまったのだ。

何がというわけではないが、日々を共にする異性として意識してしまうのは仕方ないだろう。

顔がよくて、それなりに自分には優しい気がする、常にともにいるセドリスのことが好きだということはマーシャルにらしか打ち明けていないのだ。

ずっと秘密にしてほしいと思うし、もし告白でもしてフラれたら竜のお世話係を続けていく自信がなくなってしまう。

竜のお世話係の仕事は一生続けていきたいと思っているがセドリスともどうにかなりたいとも思っている。

難しい問題だ。


父やザール団長もそのことには気付かれていないはずだ。

セドリスが今ここに居るというトキメキを押さえつつ、父親に顔を向ける。


「ほどほどにしてね。明日も仕事なんだから」


リズはそう言ってため息を吐いた。

父親は思ったより飲みすぎているようで顔が赤い。


「ほら、お父さん一人で帰れる?夕食には帰ってきてよね。ご迷惑なんだから」

「少ししたら帰るよ。ごはんは家で食べます。はっはっはっ」


何がおかしいのか、並々注がれた酒の入ったグラスを見つめて笑っている父にリズはまたため息を吐いた。

「お父さん飲みすぎじゃない?」

「大丈夫だって。いうほど飲んでねぇっていうの」


結構飲んでいそうだが、一人で歩けないほどではなさそうだ。

リズが一度迎えに来ればちゃんと少しして家には帰ってくる。


「わかったわ、じゃあたし帰るからね。おばさん、お父さんよろしくお願いします」

「はーい」


おつまみを出しながらニコニコ笑うザール団長の妻にリズは軽く頭を下げた。

「俺も帰るよ。途中まで送っていく」

立ち上がったセドリスと一緒に外へと出る。


つい最近までは背も同じぐらいだと思っていたが気づけば頭二つ分は大きいセドリスを見上げた。

下から見上げても、整った顔立ちにリズは羨ましいなと思う。

少し長めの黒い髪の毛に、青い瞳。 

物語に出てくるような騎士のような顔。

思わずため息を吐くと、青い瞳がリズを見た。


「なに?」

「別にー。完璧なまでに漆黒の騎士様の顔だなと思ってさ」


リズの言葉にセドリスはわずかに顔をしかめる。

長年一緒にいるからそこわかる微妙な表情の変化にリズは肩をすくめた。


「漆黒の騎士様って呼ばれているの知らないの?」

「知ってる」

「みんな、セドリスに憧れているらしいよ」

「くだらない」


両親のいないセドリスはリズと出会った頃は親戚の家から城へ通っていたが、18歳頃から城の中にある騎士寮へと住まいを移した。

そんなセドリスを心配して団長は年中家に食事に呼んでおり、不機嫌そうに家に行くセドリスもまんざら嫌ではなさそうなのだ。


こんな風に何気ない会話ができるのもリズは気に入っている。

昔は口を利くのも大変だったなと思い、セドリスを見上げた


「さっきから何?人の顔じろじろ見て」


青い目がリズを見下ろして不機嫌そうに言う。

普通の女子なら不機嫌そうなセドリスに怖気づいてしまいそうになるだろうが、長年付き合っているリズはいつものことだ。


「出会った頃を思い出して。あの頃は、セドリスとこんな風に話ができるようになるとは思わなかったなと」

「・・・・あの頃は、俺も両親を亡くして心閉ざしてたからな」

「今も閉ざしているんじゃないの?」


仲間以外とは積極的に話さないセドリス。


「めんどくさい」


そう言ってリズの家に続く坂道までついてくるセドリスを見上げてリズは慌てて手を振った。


「ここまででいいよ。セドリスの寮は逆でしょ。あとは一本道だし。明るいし」

「家まで送るよ。なんかあったら困るし」

「そう?ありがとう」


少しでも長くセドリスと居られるとリズは思わず笑みを浮かべる。

坂道を登りきると一番上にポツンと建っている家にたどり着く。

リズの好きな色に塗り替えた青い家が見えてきたぐらいで、セドリスが足を止めた。


「しかしここは、眺めがいいな」


セドリスが見下ろす町はポツポツと明かりがともり始め、城も眺めることができる。

「そうでしょー、そしてここがザールおじさんがプロポーズして喜んで落ちたところよ」


そう言って、崖を指さしたリズ。

かなり急な崖をセドリスは見下ろした。

よくここから落ちて足の骨折だけですんだものだと団長の体のつくりはどうなっているのだろうか。


「もう100万回聞いたよその話」

「何回でもいいたいのよ。でもマーシャル達には内緒よ」


人差し指を口元に立てるリズにセドリスが呆れたように肩をすくめる。


「それも100万回聞いた」


そう言って、家の前まで来るとセドリスは軽く手を振って背を向けて歩き出した。

「じゃ、また明日」

「送ってくれてありがとう。また明日ね!」


坂を下りていくセドリスの背中に声をかけてリズは大きく息を吸って吐いた。

こうして何気ない会話がなんて幸せなんだろうとドキドキする胸を落ち着かせる。

こういう毎日が続くといいのに。

そう思いながら、家のドアを開けた。

「ただいまー」




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