竜のお世話係11
リズが泣き止み落ち着いたのを見て二人には罰としてこの竜の小屋の掃除1時間を言い渡された。
「その・・・ごめんなさい」
リズは箒を手に頭をさげた。
父親に言われた通り、自分が世話しただけ同じ愛情が返ってくるはずだと思っていたのは確かだ。
それにセドリスが自分に対してもっと協力してくれてもいいのではないかと思ったのも事実。
それは自分勝手な思いだったのだ。
父親に説教をされて少しは自分の思い通りにならなかったことで怒ることは良くないことだと認識できた。
それにセドリスはきちんと自分の仕事はやっていた。
セドリスも箒を持っていた手を止めてリズを見る。
海のように青いセドリスの瞳はとても綺麗だなぁとぼんやりとリズが眺めているとためらいがちにセドリスが口を開いた。
「・・・僕の両親は5年前、隣の国の国境付近で起きた小競り合いで死んだんだ」
「えっ?」
急に語りだしたセドリスにリズは驚いて彼を見た。
すでに外は薄暗く竜の小屋の明かりを灯すがさほど明るくはない。
それでも彼の整った顔がよく見えた。
「父は竜騎士で、母はその竜のお世話係だった。隣国では竜を狙っていて父はその戦闘で亡くなり母も巻き込まれて死んだ。だから、リズやカジミールさんを見ているとちょっと羨ましかったんだ」
5年前、ちょっとした戦闘があったことは覚えている。
隣国が竜を盗もうと遠征に出ていた竜騎士たちと戦闘になったとの情報が入った日、外は雨が降り続いていた。
母親は心配そうにしており一晩中起きていたようだった。
次の日も雨が降り続いており、父親は帰ってはこなかった。
一度だけ城の騎士が伝令でやってきて顔色を悪くした母親の様子に父に何かあったのだろうか心配したのを思いだす。
3日目の昼過ぎ。雨がやみそれに空を覆っていた灰色の雲がなくなり青空が見え始めたころ父が帰宅した。
その時に安堵したのを覚えている。父親が言った言葉は今も強烈に覚えている。
「仲間が3人死んだ」
そうか父親の仕事は死んでしまうこともあるのか。
そう思った。あの日死んだうちの二人がセドリスの両親なのだろう。
何て言っていいのかわからず、リズは口を開いたり閉じたりしているのを見てセドリスはうっすらと笑った。
「別に何か言ってほしいわけじゃないから。ただ、あんたが父親と仲良くしているの見て羨ましかったからすこし避けていたのは認めるよ。僕の態度も大人げなかったと思うし」
そう言われて、父親と自分が仲良く話している光景は、リズからしてみればルーメロスとセドリスが仲良くしているのと同じなのだろうと思って頷いた。
二人が仲良くしていると、とても寂しかったのだ。
「そうよね。あなたとルーメロスの関係を見ている私の気持ちと同じよね」
「全然違う。と思うけど、あんたにとっては竜はそれぐらい大切ってことなんだろうね」
「そうよ」
「まぁお互い嫉妬してただけだからもうこの話はやめよう」
セドリスの提案にリズは頷いた。
両親が一度に居なくなったセドリス。
何となく気分が重くなり、リズは何か面白い話はないかと考えた。
「そういえば、団長のあの顔の傷ができた時私そばで遊んでいたんだけど、団長今の奥さんにプロポーズをして承諾してもらってうれしくて飛び上がったら崖から落ちたのよ。その時にできた傷があの顔の傷なの」
「えっ?戦いとかでできたんじゃないのか?」
戦闘か訓練中にできた傷だと思っていたセドリスの驚いた顔を見てリズは笑った。
「もう驚いちゃって泣きながら落ちたおじさんのところに行ったら、血を流しながら立ち上がって笑ったのよ。血まみれの顔で奥さんの手をとって飛び上がって喜んだのよ」
「あの顔が血まみれで笑うとか恐怖だな」
呟いたセドリスにリズは頷いた。
「本当に恐ろしかったわ。おじさんあのまま死んじゃうかと思ったもの、奥さんの手を引いて家まで送るよと言って帰ろうとしたら足の骨も折れて歩けなくなっちゃって。大騒ぎだったのよ。でもこれは秘密だって言われているから、セドリスも言わないでね」
「なるほど。それは面白い話だな」
セドリスは納得したようにうなずいて微笑んだ。
その微笑みが男なのにとてもきれいに見えてずっと笑っていればいいのにとリズは思いながらリズも笑った。
「そうなの、だから団長に怒られたときはその話をするといいと思うよ」
「そんな怒られることないだろ」
セドリスとリズは二人で笑った。




