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竜のお世話係10

訓練から数日後リズは泣きたい気持ちをグッとこらえながら歩いていた。


「本当に今日はついてないわ!」


リズは痛む右足を引きずりながらため息がちに呟いた。


「そういう日もあるわよ」


慰めようとするマーシャルだがリズはますます落ち込む。


「朝から寝坊するし、朝ご飯も食べそこなうし、昼ご飯も全部落としちゃって食堂に行ったらもう何にもなくて食べられないし。コゼット爺さんには怒られるし、その上さっき階段から落ちて足を痛めるとか・・・」

「これ以上何もないことを祈るわ」


苦笑しているマーシャルにリズは唇を尖らせる。


「本当よ。これ以上何かあったら私、死んじゃうわ」


幸いリズが階段から落ちたといっても一段あることを忘れてしまっただけなのだ。

それでも着地に失敗して少しだけ足首が痛い。

マーシャルがお世話している竜の小屋のそばに行くと、青ざめているウォルフが言ってきた。


「ちょっと聞いてよ。この前の竜が盗まれた事件何て呼ばれているか知っている?」

「竜が盗まれそうになった事件って呼ばれてんじゃないの?」


リズが言うとウォルフは顔を歪ませた。


「違うのよぉ。野太い声とおねぇ騎士の蛇事件」

「え?」

「野太い声とかおねぇ騎士とか酷いと思わない?全部私の悪口じゃない」


確かに団長が蛇を弄んだりしなければウォルフもあそこまで取り乱さなかっただろうが、もとはと言えばウォルフが悲鳴を上げたのが原因じゃないかと思ったがそれを言うほどリズもバカではない。


「でも団長が言ってたじゃないウォルフさんの蛇事件のおかげで竜を盗むのを事前に防げたって」

「そうよ。もっと褒めてくれていいのに!あたし、始末書書かされたのよ」


プリプリと怒りながら言うウォルフ。

ウォルフの怒りは収まりそうもないのでリズは早々に立ち去ろうと頭を少し下げた。


「大変ね。じゃ、私竜のお世話しに行くんで」

「あら、つれないわねぇ~。セドリスによろしく。あとその足お大事にね」

「はーい」


少し歩いて振り返るとマーシャルとウォルフは仲良く話しているようだ。

きっとリズの今日あった不幸なことを話しているに違いない。

ウォルフがあらやだぁ!と叫んだあと、歩き出していたリズに「後であたしのお菓子あげるから!」と言われ軽く手を振った。


「うらやましいなぁ」


リズはため息を吐いた。セドリスは相変わらず必要最低限しか話さない。

一緒にいる空間が苦痛だ。

竜は可愛い。 竜のお世話だけでいいのに。

下を向きながら重い足取りで歩いていると走ってきた人とぶつかり尻もちをついた。


「いたたたっ」


ぶつかった人が慌てたように手で口元を覆いながらリズに声をかける。


「大丈夫かい?急いでいたもので」


ぶつかってきた人は騎士の制服からして城の若い騎士のようだ。

くすんだ茶色の髪の毛にセドリスと同じ青い瞳の色。

それでもこの人のほうが濁っているような色だとリズは思いながら頷く。


「私も前を見ていなかったもので。すいませんでした」

「急いでいるのでこれで」


そう言って速足で去っていく。


「ますますセドリスさんのところに行くのが億劫になってきたわ」


リズはお尻についた土を手で払いながら立ち上がってため息を吐いた。


ルーメロスの小屋に着くとセドリスがすでに世話をしていた。

「お疲れ様です」

「お疲れ」

いつもこれ以上の会話はほとんどない。

今日はなぜかルーメロスもセドリスに夢中でリズには目もくれない。


「ルーメロスもお疲れ様」


声をかけてもリズに反応すらしないルーメロスはセドリスの胸に顔を擦り付けて甘えている。

誰よりもルーメロスの世話をしているはずなのに、セドリスよりも竜のことが好きなのになぜそんな愛想のない男がいいのか。

リズは唇を嚙んだ。

セドリスはルーメロスに懐かれててずるいと思う。

顔がちょっとばかしいいからって女性に優しくされているし、なんでもそつなくこなすらしい。

セドリスはずるい。

リズはむっとしながら箒を手にとった。

相変わらず竜とセドリスはリズには目もくれない。


今日は朝から何も食べていないし、足は痛いし、その上ルーメロスはセドリスに夢中。

リズの中で何かが切れた。


「なによ!ルーメロス!そんなに私よりそっちのほうがいいの?」


急に大きな声を出したリズにようやく二人は視線を向けた。

セドリスは驚いたようにリズを振り返った。


「私のほうがルーメロスの世話をしていると思うのに!なんでそっちのほうがいいのよ!」


こんなに竜が好きなのに!

リズの不満は爆発した。


「私のほうが竜のこと好きなのに!」


いつもと違うリズにセドリスは驚きつつも落ち着かせようと手を伸ばす。


「急になに?ちょっと冷静になれば?」

「触らないで! ルーメロスに気に入られているくせに!それに私のことが嫌いなんでしょあなた!」


セドリスの手を払いながら言うリズにセドリスは目を丸くする。


「何を言ってるんだ?」

「私とは話さないじゃない。いっつも無視してるくせに!」

「・・・・別に無視しているわけではない」


気まずそうに言うセドリスにやっぱり私のことが嫌いだって思い当たる節があるんだとなおさら怒りが爆発する。


「いっつも挨拶か必要最低限のことしか話さないじゃない。ルーメロスもあなたも私のことが嫌いなのね!」


興奮したリズが手をバタバタと動かすためにセドリスは落ち着かせようと彼女の手を掴もうとするが暴れているためうまく掴めない。

二人でもみ合っているうちにリズの手がセドリスの頬を引っ搔き赤い線がついた。

痛みに顔をしかめるセドリスに興奮状態のリズはなおも手をバタバタと動かす。

どうにかしてリズの手を掴むとリズはぼろぼろと涙を流した。


「二人とも私のことが嫌いならそう言って!私ばかり竜のことが好きすぎて辛いわ!せっかく仕事しててもあなたは全然、協力的ではないし!もう私嫌になるわ!」


何と子供っぽいと思うが、リズはまだ13歳だ。

子供じみた言葉にセドリスはリズの手を掴んでどうしたらいいか解らず少し考える。

涙を流すリズと彼女の手を掴んで考えているセドリス、無音の時が流れた。

とすぐに小屋の入口から団長とカジミールが走って入ってきた。


「何やっている!」


団長の少し怒ったような声にセドリスはほっとしたように息を吐いた。


「団長。僕にもなにがなんだか・・・」


困惑したように言うセドリスにリズはまだ掴まれたままの手を動かそうと暴れながら声を上げた。


「だって、ルーメロスもこの人も私のことが嫌いなのよ!ルーメロスは私よりこの人のことが好きみたいだし。懐いているし。この人は私のことが嫌いだから挨拶以外話さないし!」


泣きながら言うリズに団長は困ったように後ろにいるカジミールを見た。

子供同士の喧嘩、それも女の子。 

自分の部下の隊士ならぶん殴って反省文で終わりだがそうもいかない。

カジミールはため息を吐いてリズとセドリスの間に立った。


「よくわかった。リズお前が悪い」


父親の言葉にリズはほほを膨らませる。

「どうしてよ!」


「全部わがままだから!自分が世話したからと言って相手がそれ相応の対応を返してくれると思うな!セドリスに暴力をふるうなんてお前は!」

「手が当たっただけだもん!」


言い訳をする娘の頬をカジミールは軽く叩く。

それでも乾いた音が響いた。

何が起こったのかわからず一瞬目を丸くしたリズは父親にほほを叩かれたことを認識すると大きな声で泣き出した。


「ひどいよ! みんな大嫌いよぉ!」


大声をあげて泣いているリズの力が抜けたのを確認してセドリスは彼女の手を離した。

見守っていた団長はセドリスに声をかける。

「お前もさ、相手は子供の女の子なんだからちょっとは気にかけてあげろよ。口下手でもよ」


セドリスは下を向いてぽつりとつぶやいた。


「僕も悪かったと思う。リズの家族が仲がよさそうだから気に入らないのはあったのは確かだし」


セドリスの告白に団長とカジミールは一瞬言葉に詰まった。


「セドリス。そんな思いを抱えていたなんて・・・俺に甘えていいからな」


そういってカジミールはセドリスの頭を抱きしめ、その後ろでは団長が涙を溜めながら

「俺はお前のお父さんだと思ってもらって構わないからな」


「いや、そういうのはいらないし。父さんじゃないし・・・」

冷めた目をしていうセドリスに団長たちは

「強がるなよお前はまだ子供なんだからなぁ~」

そう言ってセドリスを抱きしめる父親にリズは大声でまた泣き出した。

「お父さんも私よりセドリスがいいの~?ひどいよぉぉ」

「いや違う、お前の我儘が悪いだけで俺はお前も可愛いからなぁ」

慌てて娘を抱きしめてあやしはじめた。

「でも、お前の我儘だというのはわかってもらわないと困るんだよなぁ」

子育ては難しいなぁと呟くカジミールに団長はもっともだと頷いた。






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