22話 閑話 混浴温泉は誰が為にー2
「それでアルマ、計画は上手くいったんですか〜?」
「あー、まあ多分ー?」
「はっきりしませんね」
温泉にあった気配を探ることをやめ、3人は岩の裏側に戻った。
ロビンはひとときの安穏を得たのだった。
「ロビンはどうも反応が悪いからなー」
「………!?」
ロビンがこのままさっさと上がってしまおうと思った矢先である。
3人の話に自分の名前が出てきたのだ。
それだけならまだしも「計画」という明らかに怪しいワード付きで。
ロビンは上がるに上がれなくなった。
アルマの自分に対する「計画」の全貌を明らかにしなければ、もしかすればロビンの明日はないかもしれないからだった。
「反応……まあ確かにロビンさんにはあんまり通用しなさそうですからね」
ユナの声がする。
ロビンにとって不思議なのは、ユナとリリーが手を貸していることだった。
リリーはなんだか不安なところがあるが、それでもユナがアルマの危険な実験に手を貸すなんてにわかには信じられない。
「でもあの本の指示通りやったんでしょう〜?」
「ああー、だがやはり机上の空論と実践とでは大きな違いがあるようだー。まあ僕にとってはいつものことなのだがなー」
「あれは成功率高いような……やっぱりロビンさんっていうのが成功率を下げてるんじゃないですか?」
(本? 指示? どういうことだ? つまりユナとリリーとアルマはなんらかの呪いの本か何かを見つけてその指示に従って俺で実験をしている………ということなのか?)
ロビン、想像の飛躍である。
常日頃から訳の分からないことを言って後先考えずに行動していると、想像においてもとんでもないことを考えだす。
それが時々危機の回避やら、ピンチからの逆転に繋がることもあるからタチが悪い。
ともかくロビンはそう考えた。
「じゃあもうちょっと(女性の魅力に)弱い方だったらあれでイチコロ、というわけですか〜?」
「まあそういうことですね」
「ふむー、適当な冒険者で改めて一度実験してみるというのもありかー?」
(なんだって!? 弱い奴ならイチコロ!? なんのことだ? こういう場合アルマが使ってくるのは毒だが……いやでもアルマはもう実験しないって、いやそれも俺を嵌める罠だったのか!?)
ロビンは考える。
しかもアルマに至っては明らかに実験、という言葉を使用した。
つまり自分も実験されたのであり、そしてこの後冒険者でも実験しようとしているというわけだ。
帰ったらすぐミシュレに報告せねば、とロビンは思った。
「だめですよアルマ! あんなことロビンさん以外の方にしたら! 1発で(恋に)落ちちゃいます!」
(1発で意識が落ちちゃう!? いやまて違うだろユナ! そこは止めろよ! 俺だけを犠牲にしようとかそうじゃないだろ!)
「そうですね〜、そういうのはロビンさんだけにするようにしないと(言い寄ってくる方々の)処理が面倒になりますよ〜?」
(死体の処理が面倒って………マジで俺はどんな実験に使用されているんだ!? 本格的にやばい! 早くなんの実験に使われたのかを確かめて抗体を……!)
「だがこのまま生殺しというのはなー」
(殺し!? 水音で微妙に聞きにくかったが、殺しって言ったよな!? 早く実験の内容の話になれ!)
焦るロビンの不安を加速させるかの如く女性たちの口から発せられる勘違いを生む言葉たち。
何も知らずに聞いたらいろいろ物騒に聞こえる会話を続けるユナたちは、ロビンを震撼させていることに気づかない。
アルマの独断というならまだしも、リリーやユナも加担したいたという、おっさんが人間不信になって引き籠るには丁度良いくらいの疑念が溜まりに溜まったそのとき、やっと実験の内容に入り始めた。
「それで? そろそろ詳細の報告に入ってください」
「そうだなー、とりあえず近づいてみたんだが警戒されててな、何もできなかった」
「まあそうでしょうね〜」
リリーの呆れた声が静かな温泉に響く。
「目を見つめたら魔眼の実験と勘違いされたし」
「あはははっ! ロビンさん、そんな勘違いしたんですか!? (アルマがやるには)魔眼の実験より難しいことをしてたんですけどね!」
「なんて勘違いされてるんですか〜!?」
絶妙に怖いことを言うユナ。
魔眼の実験より難しい実験って何かをロビンは真剣に考える。
「スキンシップを取ろうとしたら『体に何を仕込みたいんだ』っていわれたしなー」
「ふふっ……そんなにロビンさんに信用なかったんですね〜」
「まあアルマですから……」
「あれは流石に傷ついたなー」
スキンシップ。
そんな言葉にロビンは一抹の違和感を覚える。
実験の話にスキンシップという言葉は全く関係ないとロビンは思う。
「まあ流石にロビンさんでもアルマが自分に対する恐怖のイメージを改善する為にいろいろ頑張っているなんて気付かないんじゃないですか?」
「………!?」
ユナの言葉にロビンは実験自分の耳を疑った。
しかし確かにユナは言った。
アルマが自分に対するイメージを改善する為に頑張っていた……と。
なるほどいろいろ合点がいったと、ロビンは納得する。
そうであればアルマの不審な行動も、この一見不穏に聞こえる話も全て辻褄が合うのだ。
「そんなに実験を警戒されてたのに計画は多分成功したって、どういうことですか〜?」
「あーそれなんだが……」
ぱちゃっ、と誰かが温泉で軽く泳ぐ音が聞こえる。
そして何故かロビンのいる側にアルマが泳いで回ってきた。
そして温泉のへりにもたれかかる。
上気して少し赤く染まった頬が妙に色っぽい。
「最後かなー、僕がどうにかしなきゃと思って焦ったんだけどどうにもならなくてさー。それで自分の心のままに動いてみたら、なんか割と好印象だったような」
あれは確かにアルマのイメージを覆すものだったと、ロビンは思う。
実際自分の中にアルマに対する恐怖というものは、風呂に入ってからさっきまでを除いてだが、綺麗さっぱり消えていた。
(ふぅ。訳の分からない勘違いをしてたっぽいな。俺もそろそろアルマを信用することをしなきゃいけないようだし……)
「へぇ〜。それはそれはよかったですね〜」
「好印象……ですか」
「ん?」
なんだか雰囲気の変わった2人の声にアルマは首を傾げた。
(まあ大した問題もなさそうだし、バレる前にそろそろ上がるか………脱衣所に戻るのにアルマの目の前を通らなきゃいけないが、声を出さなきゃ隠密と気配遮断で大丈夫だろう)
そうしてロビンはゆっくりと、なるべく水音の少なくなるように歩きだした。
「好印象とはこのおっぱいか!」
「あんまり調子に乗らないでくださいよ〜!」
バシャバシャ、とユナとリリーがアルマに突撃し
「ここか! ここだなぁぁぁぁあ!」
「こっちもですね〜!」
「あっ……そこはっ………んっ! や、やめろ……ああっ………バカ!」
「ぶふっ!」
(何やってんだあいつら!)
「「「え?」」」
3人は吹き出す声のする方を見た。
真っ裸ーが、いた。
「あ。」
「「「…………」」」
「よ、よう。いい湯だな」
「〈フレイム〉」
「〈サンダー〉」
「〈掌底〉」
「ま、待て! 話を………っ!」
「へんたぁぁぁぁぁい!」
その日、迷宮泉は謎の崩壊を遂げた。
……………
「事情はわかりましたが……」
「もうお嫁に行けません〜……これはロビンさんに責任をとって―――」
「ま、まあ、しょうがないことはしょうがないー! それで……見たのか?」
「い、いや! 湯気すごかったし!」
バリバリの嘘だが、まさか本当のことを言うわけにもいかない。
若干納得してない感じは残したが、とりあえずユナは頷いた。
「ま、まあならいいです」
「それと、聞いたのか?」
アルマが不安そうに聞いてくる。
当然それは聞かれるだろうと、ロビンも予測はしていた。
「ああ、聞いたよ」
「………」
アルマが不安そうな顔をする。
「まあ、なんというか、アレだな! アルマ、計画が成功してよかってじゃねえか!」
「…………!」
アルマの顔の目がパッと輝いた。
「ああ!」
誰もが満面の笑みを浮かべたという。
後日。
迷宮泉から多額の請求が来たのは別の話。
これで完結。
次の閑話からは再び勇者が出てきます。
今度はもうちょっとまともな勇者の閑話になります。




