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21話 閑話 混浴温泉は誰が為にー1

 

「いいお湯ですね〜」


「そうだなー」


「おっぱいなのかおっぱいなのかおっぱいなのかおっぱいなのかおっぱいなのかおっぱいなのかおっぱいおっぱいなのかおっぱいなのかおっぱいなのかおっぱいおっぱいなのかおっぱいなのかおっぱいなのか」


 ダンジョン。

 そんな危険とワクワクを孕んだ言葉には似ても似つかないほどの長閑(のどか)な―――若干1名狂気に満ちた声を出しているが―――長閑なひとときを過ごしている女性たち。

 温泉とはそう、こうした疲れを癒すべくあるのだ。


 そう、温泉に危険とワクワクとは無縁。

 無縁なのだ。


 そうであるならば。


「なぜ……」


 おっさんは疑問を呈する。


「どうして……」


 彼女たちが背を預けている岩。

 その後ろに彼はいた。


「どうしてこうなった………!」


 おっさんの声に出してはいけない心の悲鳴は誰にも届かない。



 ……………



「「アルマ!」」


「リリー、ユナー」


「あれ? 俺は?」


 ダンジョンのゴールにたどり着いたロビンたちは先に早々とゴールしていたリリーとユナのなんだか不安そうな顔に迎えられた。


 もちろん今の彼女たちにとってはロビンよりアルマの方が大事である。

 ここでロビンにも声をかけたらそれはそれでポイント高いかもしれないが、それ以上のアルマを心配する気持ちと、抜け駆け禁止(女の友情)の方が強くロビンは声をかけてもらえなかった。


 ロビンはちょっとハブられた感でガックリするが、それはそうとリリーとユナ、アルマの仲が良くなっているという証であると素直に喜んだ。


「それで、ここは当たりか? ハズレか?」


「ああ、それなら……」


 ユナがサッと指を差す。

 奥の方に「迷宮泉〜アタリ側〜」という名の温泉旅館みたいな建物があった。

 なおこの国では旅館と宿、ホテルには結構明確な違いがある。


 全て「和装(ワソウ)」のものが旅館と定義される。旅館では建物の材質は木材、「ナカイサン」や「イタチョウ」といった独自の接客員や料理人がおり、全て「ワフク」を着用している。

 宿は「ワヨウセッチュウ」と言われるすなわちなんでもアリの宿泊施設である。

 ホテルは完全「ヨウシキ」のものがそれにあたる。


 これらの明確な区別を作った男の話によるとその男の故郷の国では全く違う区分法があるそうだが、とりあえずわかりやすくするためこのようにしたらしい。


「わ、分かりやすくていいな……」


 若干呆れ気味にそう評するロビン。

 なんかもうちょっと別のがあっただろうと思わないでもないのだが、彼なりの優しさがそこにはあった。


「これを作った方のセンスが窺い知れますね〜」


「ずっと前から思っていたが、辛辣なのだなー」


 そんなロビンの優しさを知ってか知らずか、みんなが言いたいことを平然と言ってのけるリリー。

 そこに痺れるぅ、憧れるぅ、と勇者なら言っていたかもしれないがここでは誰もそんなことは言わない。

 かわりにアルマがリリーの辛辣さにツッコンだ。


「さて、まあ当たってたことだし。ここで話してるのもなんだから、とりあえず風呂入ろうぜ」


 そう言ってロビンは旅館に向かって歩いていく。


「そうですね」


 ユナがそれに続き、後の2人も同じく旅館に入っていった。



 ……………



「じゃあまた後でな」


「「「はーい」」」


 流石にモラルやらなんやらもあるし、みんなで一緒にというわけにはいかない。

 もちろんロビンはむっつりでもなんでもないので、そんなことはそもそも期待してはいなかったが。


「ふぅ……」


 このダンジョンの看板は古いキャッチコピーだったから、どれだけ古いかと思っていたが内装もわりとしっかりしているし、掃除も行き届いている。

 案外こまめな人が運営しているのだろうか。


 そんな風にロビンは思った。


 脱衣所に服を放り込み、さっさと風呂に入る。


「湯船に浸かる前に……」


 体を洗う。

 おっさんが体洗うシーンなんか誰得である。


 そうして体を洗い終えた後、振り返ってみると広い風呂が目の前にある。

 大浴場の真ん中には大きな岩があり、ロビンはそれにもたれかかった。


「はぁーーーーーーー。極楽極楽」


 極楽、というのがなんなのかロビンは知らないがこれも古くから伝わる風呂ワードの1つである。

 これを言わなければ風呂に入っとは言わないとかなんとか。


「しかしこの疲労回復感よ。まじで温泉最高」


 広い風呂に1人。満喫中である。

 そうしてグデーっとしていたそのときだった。


「うわ〜! 広いです〜!」


「すごい湯気だなー」


「なんで私のおっぱいは育たないの? お母さんだって別に貧乳じゃないし……って言うか私貧乳じゃないし? そう、別に28でもまだまだ育つし? ていうか結婚して子供生まれたらまだまだ育つし。結婚、そう結婚………結婚できるのかなぁ…………」


 女性たちのはしゃぐ声―――若干1名、自分の人生の先行きへの不安に満ちた声を上げているが―――が聞こえてきた。


「…………!?」


 驚くロビン。

 なぜ別れたはずの女性陣がここに現れるのか。

 そんなもの答えは1つしかない。

 ふと、ロビンは振り返って岩を見た。


「ドキドキッ! 迷宮探索のあとは、ドキドキッ! のサプライズ混浴! これであなたも意中のあの子とホール()イン!」


 迷惑千万とはまさにこのことである。

 怒りのあまりロビンはマジで岩ごとぶち壊してやろうかと思ったほどだ。

 ただまあ壊せばバレるのでやらなかったが。


「ん? なんか人の気配がします」


「そうなのかー?」


「はい、気配察知にその岩の裏側から反応が」


 そんなロビンの看板への怒りを感じとってか、ユナがロビンの気配に気付いた。


「先客がいらしたんでしょうか〜?」


 リリーの近づいてくる音がする。


(やばいやばいやばいやばいやばいやばい!)


 ロビンはパニックになる。

 だが慌てたところでリリーの近づいてくるのは止められない。


「〈隠密〉〈気配遮断〉」


「こんにちわ〜……ってあれ? 誰もいませんよ〜」


「…………っ!」


 たゆたゆっと揺れる双丘が、否、リリーがロビンの目の前に現れた。

 だが所詮一般人の枠にしか収まらないリリーに本気のロビンが見えるわけがない。


(くっ………!)


 だからこそ。

 だからこそロビンのライフは尽きようとしていた。


(耐えろ耐えろ耐えろ耐えろ耐えろ)


 バッチリ見える豊かな果実に吸い込まれそうな目線を無理やり切って、ロビンは耐える。


「どれー、僕も見てやろうー」


 そして現れたのはデカいメロンだった。

 いや「それ」をメロンと簡単に言ってしまうのはもはや「それ」への冒涜だろう。

 そう、言うなれば神。

 神はいたのだ。


(いや違うだろう!)


 バインバインの神はしかしてロビンを逃がさない。

 数々の恐ろしいモンスターから逃げおおせたロビンを捕らえてしまうとはもはや屈服するしかない。


 だがここで屈服してしまえば、すなわち待つのは死のみだ。


「ほんとですか? 私の方も気配が消えましたし」


(くそっ! ここでユナのものまで見て仕舞えば俺は……! 俺は……!)


 ユナの歩いてくる水音がする。


「ほんとだ、誰もいませんね」


「………」


 無だった。

 つまりそこには神と無がともにあった。


 そう、彼は至ったのだ。

 アルマという神と、ユナという無を経て。


 悟りへと。



(強く生きろよ! ユナ!)


 かくして生き残ったおっさんは心の中で涙を流した。


 だがまだ試練は終わってはいない。

 彼女たちが温泉から出るまではロビンへの神からの試練は終わりはしないのだ。



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