決戦
~決戦~
今日も一日が始まる。
もう、どれだけ朝が来るのを待ったことか。朝が待ち遠しい。外は晴れ。気持ちいい。もう完璧だ。
こう思ったのが何日前だったのかわからない。あの時の俺はむつきんに片思いをしていたし、世界が変わるなんて思ってもいなかった。今日ですべてを終わらせる。そして日常を取り戻す。そう決めたんだ。
(うん、そうだね)
そして、俺が変われたのは確実に天使ちゃんのおかげだ。本当にありがとう。
(それはいいけれど、あっきーあんまり眠れてないでしょ。大丈夫?)
そりゃ、緊張して眠れなかったよ。
(横に赤川きゅんがいるから?)
それ、関係ないよ。それに赤川だって疲れて眠っている。俺はこれから朝ご飯を作らないといけない。俺が学校を休んでも日常はかわらない。
それに、日常を守るのだから普段やっていることをやり続けるのは大切なことだ。
階段を降りて朝ご飯を作る。冷蔵庫の中にアスパラがあったのでアスパラとベーコンを炒める。こしょうを効かせてマヨネーズをかける。おいしそうだ。
白菜と玉ねぎのスープを温める。後はロールパンをつけて朝ご飯の完成だ。
「あ、おはよう。どうしたの今日すっきりした顔しているよ」
ちあきが降りてきた。相変わらず俺の妹とは思えないくらいかわいい。
「まあ、ちょっと朝ご飯が出来たところだからな。いいから食べろよ」
「朝ご飯ができたからいい顔って変だよ。まあ、家事ができる兄貴がいるのは助かるけれどね」
そう言ってちあきが笑っている。こういう日常が大切なんだ。テレビをつける。今日は天気がいいみたいだ。
もうニュースでは銀行強盗を取りあげなくなっている。変わりに政治家のなんだかしらない汚職事件がとりあげられている。
帳簿に乗っていないお金なんてどうやって作るのだろうと思っていたらものすごくわかりやすく書かれていた。
「こう言うのってどうやって解明するんだろうな」
ぼそっと言ったらちあきがこう言ってきた。
「こんなの誰かが言わなきゃわからない事でしょ。ということは、この政治家さんは誰かに裏切られたんだよ。
落ち目だからね。人気が落ちた政治家なんてどうなるんだろう。ニートなのかな?でも、あの歳でニートとかつらいだろうね。
でも、それまでにいい思いしていたんだろうね。あ、これおいしい。今度また作ってね」
そう言ってアスパラを頬張っている。ニュースを見ながら思っていた。
岡島が言ったこと。銀行強盗が銀行の自作自演だとしたら、何かを隠すために行ったことなのなら、一体何が出てくるのだろう。
(辞めるの?)
まさか。ここまで来たら戦うしかないっしょ。
「じゃあ、行ってくるね、お兄ちゃんはゆっくりしていて大丈夫なの?」
「ああ、問題ない」
今日は学校に行かないしね。すでに休むことを伝えてある。とりあえず、一番気を付けないといけないのは職務質問だ。
変な疑いだけはかけられないといけないからな。
(大丈夫だよ。制服じゃなきゃそんなに意識しなくても。平日なんて大学生だっているんだし)
そうか。でも、赤川は変なこと昨日言っていたからな。
(楽しみだよね)
そう、昨日赤川はちあきと話して服を借りると言っていたのだ。あんなに女装をしたがっていなかったのにだ。
「ほら、女性だと思われていた方が、相手が油断するかもだし」
まあ、ちょっとは見たいとは思う。でも、それで岡島みたいに女装にはまられても困る。
(困らないよね。それで毎日一緒に学校に行くとか幸せでしょ)
そういう思いを押し付けてこない。意識しちゃうでしょ。
「おはよう」
声がした方を振り向く。そこにいたのは可憐な少女だ。黒いシャツから両肩が見えている。
そしてその下には白とピンクのストライプのタンクトップの一部が見えている。そして、スカートはピンクのプリーツスカートに黒のニーソ。赤川のはずなのに可憐な少女にしか見えない。
「そんなじろじろ見ないでよ。恥ずかしいだろう」
そう言って顔を赤らめる赤川の破壊力はすごいと思った。なんだこれ。そこらのアイドルよりかわいいじゃないか。だが、男だ。間違えるな。
(間違えたっていいじゃない。誰も見てないわよ)
天使ちゃんがばっちり見ているでしょ。もう、怖いな。
「朝ご飯食べるだろう。赤川のも用意しているから」
そう言ってご飯を用意する。なんだこれ。おかしい。何度もしていることなのに緊張する。
(意識しちゃったのね。そうやって恋がはじまるのよ)
始まらないから。それに俺にはむつきんがいるし。
そう思っていたらピンポーンとインターフォンがなった。なんだ、ちあきが忘れ物でもしかのか。そう思って玄関を見たらそこにはむつきんが立っていた。
「来ちゃった。てへ」
むつきんはまた雰囲気と違う服を着ている。ダメージジーンズにピンクのサマーセータ。
その上から黒のレザージャケット。かわいい系で来るものだと思っていたら違った。むつきんが赤川を見て睨んでいる。そりゃそうだろう。赤川がかわいすぎるからだ。
「よかったらむつきんも朝ご飯食べる?多めに作ってあるから大丈夫だよ」
「うん」
即答で返って来た。
おかしい。
待ち合わせ場所は喫茶店だったはずなのに、ここに勢ぞろいしている。むつきんは料理が配膳されるまでテレビを見ながら携帯をいじっている。
でも、笑っているからいいか。というか、あの携帯でしていることは何だ。ひょっとしてこの距離だけれど俺にラインを送っているじゃないだろな。今俺は携帯を手にしていない。2階にある。
「はい、これむつきんの分ね」
俺は配膳をしてすぐに2階にかけあがる。携帯を見る。やっぱりむつきんからラインが来ている。
すぐに返事をする。危なかった。そう思っていたらまたインターフォンがなった。
下に降りて玄関を開けるとそこにリクルートスーツを着た岡島がいた。いやスーツと言っても女子が着るやつだ。岡島が言う。
「いや、ちょっと杉山さんに呼ばれてだね。やってきたのだよ。そうじろじろ見るな。こういうかっこは慣れていないんだ」
確かにいつもと違ってメイクも違う。おとなしく清楚なんだ。なんだこれ。反則だろう。
(あっきー浮気性だね)
そういうのじゃないからね。ほら、きれいな人を見て目を奪われるみたいなものだよ。
(奪われたのね)
まあ、そうだけれど。でもなんだ。この統一感のない3人のかっこは。
「まあ、とりあえず家に上がれば。朝ご飯はどうする?」
「では、いただくとするか」
気が付くとうちの食卓がおかしなことになっている。赤川は岡島を見てなぜか悔しそうだし、むつきんはその赤川を見て楽しそうだ。
(今見えない所ですごい攻防が繰り広げられていますね。ゲストのあっきーさんコメントをどうぞ)
天使ちゃん。何の解説をしているのよ。この空気はどうしたらいいのよ。もう、いっそ空気になりたいよ。
(空気が読めないのに、空気になりたいなんて面白いあっきーだこと)
何キャラ?もう、つっこみが追いつかないよ。
「まあ、こうやって話し合うのもいいかもしれないな。それで、今日行う事の確認だ」
そう言って岡島が話してくれた。まず、○▽銀行に行き、俺を助けてくれた人がいるのかを確認。また、その際に名前も確認する。お礼を言う時はできるだけ大きな声で周りに自分がいることをアピールする。
とりあえず、カメラでの撮影は3人が違う方向から行う事らしい。銀行には俺が最後に入ることにする。最初に岡島、赤川、むつきんの順だ。
まずお礼をしながら、どうしてあの日以来見かけないのか、どこに住んでいるのか世間話をする。名前がわからないので仮にAさんとするならば、このAさんの住んでいる銀行の寮はあの交差点から遠い。
つまり何か用事があったということになる。そもそもおかしいのである。どうして銀行強盗は銀行が開く前、早朝に行われたのか。
ニュースでは銀行員のフリをして中に入ったとあったが、そんな簡単なものなのだろうか。
そして、この犯人がいまだに捕まらない。あの狭山刑事しか俺は知らない。あの人から情報がもらえるとも思えないし、何を考えているのかわからない。
「もし、俺が話しかけてどこか別室に連れて行かれた場合はどうするのだった?」
確実に別室に連れて行かれるだろうと言われていた。そこで行うのは音声撮りだ。携帯だとかさばるので小さいICレコーダーを預かっている。
これを靴下の中に入れておくのだ。気絶させられたとしても音声データを頼りに解析するのだ。
「まあ、ある程度出てこなかった場合はこちらから行動するよ。とりあえず30分が目途かな」
「わかった。信じているよ」
「それに銀行と言う衆人環視の場所だ。奥に行ったとしてもそこまでの事はされないだろう。まあ、もしものための保険としてこれを渡しておくよ」
手に取ったのは小さい棒のようなものだ。
「これは?」
「護身用グッズの催涙スプレーだね。一回しか使えないから使い時を間違わないように。使うことなどないとおもうけれど」
「そうだな」
そう、俺たちは思っていなかったのだ。この行動がどれだけ危険なことだということについて。
そして、現在、危機的状況に陥っている。
振り返ってみる。何が問題だったのか。
まず、銀行に入る。これは問題なくスムーズだった。次に該当の人もすぐに見つかった。そして、大きな声をでお礼を伝えた。周りがびっくりしていたけれど、その人は出てきた。
「桜村直志」
という名前の人だった。俺を伝えたら奥に連れて行かれた。ここまでは想定内だった。3人が別場所で俺を見てくれている。だが、ここからが問題だった。
そう、奥に行ったと思ったらそのままどこかの部屋じゃなく駐車場にまで連れて行かれ今車の助手席に乗っている。
まず、俺は3人に自分の現状を伝えられていない。しかも無言なのだ。さて、この状況をどうすればいいのか。
(大丈夫よ。腕時計のGPSで場所わかるでしょ)
確かにそうだった。だが、すでに高速に乗っている。俺はどこに連れて行かれるのだろう。
そしてもう一つ。
当たり前だが3人に俺を追いかけるすべはない。警察に通報して追いかけてきてもらっても、用事があって移動しているだけと言われたら何も返せない。
そう、俺は拘束もされていないのだ。だが、暴れることもできない。こんな高速で降ろされる方が怖い。
そして、桜村直志はずっと電話をしている。耳にイヤフォンをつけてだ。これっていいんだっけ?
(さあ、道路交通法とか詳しくないからわからないけれど。でも、それより大事なことあると思うんだよね。どこに向かっているんだろう?)
まあ、確かに事故にならなければいい。というか、事故になったほうがいいのか?そしたら助かるかも。
(事故のレベルによるわよ。だって、後ろから来る車に跳ねられてそのまま終了になることだってあるし)
だよね。そうだとしたら、やはりおとなしくしておくか。しかもこの桜村直志ものすごく小声で話している。
(多分聞かれたくない内容なのよ。まあ、すでにまずい状況だけれどね。このままだと人気のないところに連れて行かれて終了だよ。どうするの?)
わかっている。けれど、この桜村直志の様子がおかしい。ものすごく焦っているのだ。
「いや、だから。私は、会社の事を思って」
叫びだした。何がだ。会社の事って。
「わかりました」
そう言うなりイヤフォンをはずし、窓を開け、携帯を投げ捨てた。目が血走っている。
(なんだか正気じゃない感じだね。どうする?)
なんで、この状況でのどかに話せるのよ。もうこっちは心臓ばくばくなんだからね。でも、高速に乗っている以上何もできない。
しかも速度も現在130キロくらいだ。窓を開けて飛び降りたら確実に死ねる。けれど、それは相手も同じ。
この速度で何かをしてくるとは思えない。そして、沈黙が怖い。周囲を見ても場所がいまいちわからない。ただ、わかるのは街からどんどん離れているということだけだ。
赤川たち追いついてくれるかな。
(こういう危機的な時に最初に思いついたのが好きな人らしいよ)
いや、天使ちゃん。この危機的な状況でその発想すごいよ。
「おい、お前はどこまで知っているんだ。なんで俺が働いている所がわかったんだ。お前の行動はおかしいんだ」
桜村直志が運転しながら話してくる。
「黙ってないでなんとか言えよ」
「前を見て運転してください。危ないです」
(あっきー落ち着いて言い切るなんてかっこいい)
そういうひやかしいらないから。でも、ここまで来られたんだ。絶対に終わらせて帰ってやる。
(うん、赤川きゅんの所にでしょ。戦い終えた戦士には褒美がつきものだものね)
この場面でもぶれない天使ちゃんがすごいよ。でも、一人じゃないから頑張れるんだ。
車が大きく揺れる。強引な車線変更。どうやら高速を降りるらしい。周りを見る。さびれた町なのか何もない。いや、山道だ。周囲に古い民家があるけれど、人が歩いていない。
「ここなら人もいない。さあ、どうして俺にまでたどり着いた」
車のスピードは緩まない。けれど、わかる。どんどん人気のないところに向かっている。
「君を監視していた。君の行動は意味不明だ。だが、俺の元に来るだけの情報はなかったはずだ。なのに君は来た。どういうことだ?」
「もう、わかっています。あなたたちが行おうとしたことは。
銀行強盗は自作自演。あなたのその隠ぺいに携わった一人だった。けれど、巻き込まれた人が二人いた。こっそりあなたは支援をしましたよね。
おかげでわかりました。すみません。折角の善意をこのような形にしてしまって。でも、だからこそです。自首してください」
話した。確証はない。けれど、岡島が言った話しを信じるならこう話すと相手が何らかの動きを取るはずだ。
「ふざけるな。俺が何をしたというんだ。心配をしただけだ。だったら、だまって見過ごせばいいだろう。お前のせいで俺は、俺は、俺は。切り捨てられたんだぞ」
車が山岳の近くにある潰れそうな建物の近くに止まった。
(あっきー。この人、手にハンマーを握っている。気を付けて)
俺は両手をクロスさせた。腕に衝撃が走る。危なかった。天使ちゃんの声がなかったら不意打ちで額が割れたかもしれない。
(そういうキャラいるよね。額に傷のあるキャラ。何だっけ?)
いや、今そういう質問投げかけないで。ってか、額に傷のあるキャラって結構いるよ。それだけじゃわからないけれど、それ後でもいい話しだよね。
(って、いいいながらちゃんとシートベルト外しているあっきー流石)
車が止まったら逃げようと思っていたからね。そして、扉を開けて転がるように外に出る。扉を閉める前にポケットから岡島が護身用にくれた催涙スプレーを吹きかける。
「うごぉ」
目を抑えて呻いている。
(辛そうだね)
いや、相手への同情もいいけれど、今は逃げることだね。でも、山道で一本道。とりあえず降りるか、登るか。
(いや、道路沿いだとすぐに車で追いつかれるよ。ここは男を見せてガードレールを跨いで降りてみよう)
簡単に言うよね。でも、それが一番の様な気がする。ガードレールを跨ぐ。なんかやたらゴミが落ちているな。マナーを考えてほしいものだ。
(早くした方がいいわよ。相手苦しんでいるけれど、動き出そうとしているから)
ありがとうね。とりあえず、俺はガードレールを跨いで勢いをつけて斜面を走った。
(そして、転びすべっていくあっきーなのでした。ってか、痛いよね)
痛いよ。ってか、感覚共有しているでしょ。滑り台のようにどんどん落ちて行っているよ。
(でも、車で先回りされたら大変だからちょっと考えないとね。あ、この先に何か石段があるわ。そこから上に行けるかも)
天使ちゃんが言うとおり石段が出てきた。苔と木の根でまるでラピュタに出てくる街並みみたいに見える。この上ってどうなっているの?
(う~んとね。なんか広い原っぱがある。後ね、古い鳥居も。何だろうここ。でも、誰もいないよ)
とりあえず、休憩のために上がるか。石段を上がっていく。急な段差なので手をつきながらじゃないと上がれない。
(遠くに車が見える。多分あの桜村が乗っていたやつだと思う。あの山道を下りながらあっきーのこと探しているみたい)
そりゃそうだろう。上がるより下る方が楽だ。こんなところに石段があるのが救いだった。登りきり、横になる。息があがっている。
(運動不足だね)
いや、全力で走ったり、登ったりしたからだよ。呼吸がつらい。だが、草を分ける音がして振り返る。
「なんだ、お前さんは」
そこにいたのは作務衣を着たお坊さんだった。
「助けてください。追われています。後、電話を貸してください。ここに電話をしたいんです。」
ポケットからメモを取り出し、立ち上がった。くらっとした。世界が黒くなっていく。俺は、そのまま意識を失った。でも、撮った音声が役に立つ。俺は勝ったんだ。




