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ようやくつかめたもの

~ようやくつかめたもの~


 暗い世界。何か聞こえる。でも、音をうまく認識できない。なんだこれ?


 体が重い。


 そうだ、意識を失いそうになっているのだ。なんだ、何か聞こえる。何も見えない。そりゃそうだ。目隠しに猿轡をされていたんだっけ。


 でも、おかしい。天使ちゃんの声すら聞こえない。耳をすます。何かが聞こえる。音が大きくなってくる。


「大丈夫?」


 世界が変わった。だが、限界だった。目の前に見えたのは赤川の顔だった。だが、そこで世界は終了した。



 目を醒ますと知らない天井だった。だが、体がだるい。


(大丈夫?)


 天使ちゃんの声がする。俺は死んだのか?


(大丈夫。助けが間に合ったの)


 そうか。どうなったのかわかる?


(さあ?とりあえず、あっきーがベッドに寝ていて点滴が刺さっていることくらいしかわからないよ。後、外には警備している人が立っている。助かったくらいしかわからない)


 そうだよな。天使ちゃんは俺が意識を失うと、同じく意識を失う。って、ことは俺が死んだら天使ちゃんはどうなるんだ?


(そのまま一緒に死ぬか、あっきーと同じように誰かの意識に入るのか。私にはわからないわ。でも、無理しないで欲しい。心配したんだからね)


 あれ?鼻歌歌っていなかった?


(そりゃ、助けの車が来てくれているからうれしくって)


 そういうのはちゃんと教えてよね。もうこの世の終わりかと思ったんだから。


(最後の記憶は赤川きゅんが助けてくれたんだよね)


 それはなんとなく覚えている。


 天使ちゃんと話していたら、扉が開いた。白衣の男性が歩いてくる。その横には看護師もいる。


「気が付いたかね。まず、自分の名前は言えるかな?」


 優しい声だ。俺はそんなに重症だったのだろうか。


(いや、普通に生き埋めにされていたのだから重症でしょう。私も苦しかったし。大変だったんだよん)


 いや、ノリノリで話す内容じゃないでしょ。


「はい、関原あきらです」


「意識もしっかりしているようだね。でも、もう少し様子を見る必要があるね。しばらくゆっくりやすみなさい」


「待ってください。どうなったのか教えてください」


「そうかい。ならばこの後に来る人に聞けばいいよ」


 そう言って入れ替わりで入って来たのは狭山刑事だ。相変わらず表情が読めない。


(あっきーこの人苦手だよね)


 そうだね。協力してくれるのかどうかも良くわからないからな。実際助けてほしいときには助けてくれていない。何を考えているのかわからないのだ。


「関原くん。今回は災難だったね」


 そう言われた。災難だっただと。俺は捜査の手掛かりになるために動いたのだ。それにずっと連絡をしていた。それを取りあげなかった。ふざけるなよ。こっちは死にかけたんだぞ。


(怒っちゃダメ。話しを聞きだすんでしょ)


 そうだったな。天使ちゃん。ありがとう。もうちょっとで情報源を失う所だった。


「そうだね。それで俺をさらった相手は捕まりました?それとむつきんは?」


 言いながらテンションが上がっていく。手を思いっきり握りしめる。


(ちょっと痛いよ。落ち着きたいならもうちょっと平和的なのでお願い)


 ごめん。ちょっと感情を制御するのに必死だった。狭山刑事が言う。


「助かっただけでも奇跡だ。だが、関原くんをあんな目に合わせた犯人は捕まっていない。それと杉山むつきさんも無事だ。


 心配しなくていい。どちらかというと君の方が重傷だ。それと関原くんに聞きたいことがあるんだ。君はひょっとしたら見えないものが見えたり、聞こえないものが聞こえたりしないかい?」


 そう言って真剣な表情で狭山刑事が俺を見る。なんだこれ。ひょっとしてこの人は天使ちゃんのことを知っているのか?この状況のことを何か知っているのか?


「ど、どうしてそんなことを聞くんですか?」


 どうしてか俺は狭山刑事をうまく見ることができない。変な汗が出る。


「いや、君の行動がおかしすぎるからだ。君は後頭部をふいに殴られたはずなのだ。


 だが、まるで後ろから殴られることをわかっていたかのように身構えていた。そういう傷跡が君には残っている。


 だが、動画を見せてもらったが、君は後ろを振り返ることなどなかった。君は知っていたはずだ。自分が殴られるということを。君は何が見えて、何が聞こえているんだ」


 いつもの感じの声じゃない。問い詰めるような声だ。低い声。追い詰められている。なんて答えるのがいいのだ。


 天使ちゃんのことを話しても信じてもらえるとは思えない。それにどうしてか狭山刑事には天使ちゃんのことは話しちゃいけない気がした。


「たまたまです。すみません。体調が悪いので」


 俺はそう言って目を閉じた。沈黙が痛い。なんだよ。俺が望んでいたのは事件の解決であってこんな展開じゃない。


「そうかい。まあ、そういうことにしておいてあげるよ。とりあえず、今日は休みなさい。先生からも無理に聞きださないようにと言われているからね」


 そう言って狭山刑事は出て行った。プレッシャーから解放された。力が抜けた。体は正直だった。そう、狭山刑事が出て行ってすぐに世界が暗転したんだ。無理をしていたのがわかった。


 しばらくして、また目が醒めた。さっきと同じ天井。点滴がささっている。


「大丈夫なのかい?」


 目の前に長髪の美人がいる。美人だがこいつは女じゃない。生徒会長の岡島聖だ。だが、どうしてこいつがここにいる?こういう時はヒロインが立っているものなんじゃないのか?


(ちゃんといるよ)


「心配したんだからね」


 そう言って反対方向を見ると赤川が立っていた。なんで涙目なんだよ。そして、なんでそんなにかわいい。


(そりゃ、あっきーのヒロインだからでしょ)


 いや、違うでしょ。多分むつきんなんじゃないのかな?いや、違うか。そういう意味では天使ちゃんの声でいつも目が醒めるし、助けられている。天使ちゃんが俺のヒロインなんだね。ありがとう。


(はいはい。褒めたって何も出ませんよ)


「で、どうなったのか教えてほしいんだ。犯人につながる何かは得られたのか?」


 狭山刑事が来た。けれど、あの人が情報をくれるとは思えない。それに、違う事を追求されるのもわかる。


(まあ、捜査情報を外部に出さないのはある意味仕方がないのよ。それにあっきーの行動は普通に考えたらおかしいことだらけだものね)


 言われてそう思った。殴られる時に身構えたことがひっかかるなんて焦った。


 あの時はどうやってうまく相手を映すことしか考えていなかった。だから自分の行動が自然かどうかなんて考えていなかった。いつも天使ちゃんに助けられている。本当にありがとう。


(感謝は萌えを私に。まずは助けてくれた赤川きゅんにお礼でしょ)


 そうだな。赤川が来てくれなかったら俺は死んでいただろう。


「それよりまず、ありがとう。赤川のおかげで俺は生きている」


 そう言って俺は赤川を見た。


(そこでそっと手を握るのよ)


 まだ体そこまで動かせないからね。しかも赤川がいる方の腕は点滴ささっているし。俺の右に岡島、左に赤川がいる。二人ともぱっとみたらかわいい女の子に見えるのだが残念なことに二人とも男だ。


(それは些細なことよ)


 重大なことだよ。ってか、ここに絡んでこない。ってか、いつの間にか俺の左手が握られている。赤川。どうしたというんだ。


(大胆な行動に出たね。新のヒロインが本気をだしたら他のキャラは太刀打ちできないんだからね。メインヒロインは奥手じゃないと話しが成立しないのよ)


 いや、勝手に恋愛ものに例えないで。それに赤川は男だから。


「本当に心配したんだからね」


 なんで涙ぐみながら赤川はそう言う。しかも、そのセリフさっきも聞いたぞ。だが、手に涙が落ちてくる。


「わるかった。それで、この身を差し出した甲斐はあったのかな?」


 狭山刑事が犯人は捕まっていないと言っていた。つまり失敗をしたということだ。だが、岡島が言う。


「確かに犯人は捕まっていない。だが、関原くんの行動は相手にも想定外だったらしい。それは、杉山むつきくんからの証言で確認できている。


 そう、関原くんが車で運ばれた時間あたりに杉山くんは一人になった。まず杉山さんの安全確保を優先した。それは杉山さんが女性だからだ。この判断は間違っていないと思っている」


 相変わらず落ち着いている。こいつは一体何を目指しているのだ。


(アイドルじゃないの?クールビューティーの)


 天使ちゃんには岡島はそう見えるのね。俺には得体のしれないヤツにしか見えない。いや、すべての状況を楽しんでいるようにしか見えない。


(それは合っているわよ。それと、早くおかじまんに返事してあげなよ)


 おかじまんってなんだよ。岡島に自慢を足したのかい?まあ、自信満々だから間違っていないあだ名かもしれないけれど。


「いや、俺もその選択は間違えていないと思う。それで、むつきんは大丈夫なのか?」


「ああ、携帯はモニターが割れていたが問題はない。交換に今出しているが中身は確認済みだ。


 どうやら保存ファイルが削除されていた。画像、動画が一式だ。それと、もう一つ。Youtubeの動画も削除されている。


 これは推測だがあの動画の中に犯人に見られたくないものがあったのだろう。そのために杉山むつきは襲われたみたいだ」


 動画。俺が映っているものばかりだ。だが、一体あの動画に何が映っていたんだ。


「でも、大丈夫だよ。あの動画全部僕の携帯に保存しているから」


 赤川がそう言ってきた。なんであんな動画を。ひょっとして赤川はエスパーか何かなのか。


(多分、あっきーの動画を保存したかったのよ。そういう乙女心を理解しなきゃだ)


 それはないな。だって、毎日赤川は俺と会っているんだぞ。今さら動画を保存してどうするよ。それなら赤川自身が俺を撮ればいいじゃないか。


(わかってないな。それができないから動画をゲットしたんでしょ)


 まあ、わからないからいいや。それよりもその動画の方が大切だ。


「でも、その動画って俺がメインで写っているよな。どうして消したかったのだろう」


「見る?」


 そう言ってまだ自力で起きられない俺に赤川が顔を近づけてきた。


(そこでキスをするのよ。ほら、ほんのり赤い頬を見てよ。あのぷるんとした唇を。待っているから)


 そんな風に言うと意識しちゃうでしょ。


(してよ)


 しないから。絶対にキスなんて。


(キスなんて私言ってないわよ。あっきーのほうこそ意識しすぎじゃないの?私は赤川きゅんを意識してって言う意味で言ったのよ)


 まぎらわしいわ。


「ああ、見るよ」


 だが、何度も見た動画だ。一体なんでこの動画を消さないと行けなかったのだ。何が映っているんだ。俺が車に跳ねられて、車が動いて、そして助けられる。それだけの動画だ。


(そう言えば、この男性も結構かっこよかったよね。この人が病院まで付き添ってくれたんだよね。どこの人なんだろ)


 確かに言われたらこの人のおかげで助かったんだ。だが、この人とはこの日以外出会えていない。一体どこの人なんだろう?


「どうしたのかい。何か気になることでもあったかい?」


 岡島が覗き込んでくる。なんでこいつはこんなにいい匂いがするんだ。どきっとしてしまう。赤川と違って服装から女子なのだ。つい間違えてしまいそうになる。


(間違えたらいいと思うよ。それがきっかけになって二人の仲が進展するから)


 進展しないから。


「いや、この俺を助けてくれた人って名前も告げずに去って行ったんだよな。


 でも、この日しか見かけることがないから。この朝の時間にこんな場所に居たんだ。私服だが、学生という感じじゃないし、それにジャケットを着ていて、カバンを持っている。


 それに年齢から考えると社会人だと思うんだ。まあ、年齢は20代なのか30代なのかはわからないけれど。


 でも多分、会社かどこかに行くのだと思う。なら、どこかで会えるかなって。お礼も言いたかったし」


 だが、俺の言葉を聞いて岡島の反応は違った。


「おかしいと思わないか。早朝。学生だとしても遅刻になるし、社会人だとすれば収入に直結する。


 周りの社会人は関原くんの事を見て見ぬふりをして避けて歩いている。皆朝の貴重な時間だからだ。だが、この人は迷わず助けに来ている」


「いい人なんだろうな」


 俺はだからお礼を言いたいと思っていた。だが岡島が言う。


「いい人ならちゃんと名乗るだろう。それに勤め人なら会社に遅れた理由を言うために名乗っている方が自然だし、学生でも同じだ。欠席の理由になる。この人には何かある。そう思わないか?」


 言われてそう思った。俺は手当を受けて目を醒ますまでこの人は付き添ってくれていた。普通の社会人ならそれはありえない。


 加害者でもない、家族でもない人だ。そして俺が目覚めるまでこの人はそばにいてくれた。どうしてだ。目覚めた時のことを思い出していた。なんて言われたんだ。



「いや、僕は礼を言われるような立場じゃないよ。あの場所に居たのに僕は足がすくんで動けなかった。君はすごいよ」


「ああ、僕はあの場所に居合わせただけなんだ。ただ、君を介抱していたらそのまま救急車に乗ることになってね。君の高校には連絡しておいたから。後でご両親も来てくれるみたいだよ」



 頭の中でそのセリフが出てきた。ここまで俺は覚えていたのだろうか。


(私が覚えていたのよ。感謝してよね)


 そう言われてまず、動画を見直す。道路の向こう側にこの男性が立っていた。足がすくんでいたのかはわからない。けれど、俺がはねられた後誰よりも早くやってきている。


 そこに嘘はないと思う。だが、この人は俺の学校も、家族も調べている。それは親切心からかと思っていた。


 何かあるのだろうか。ただ、調べるだけなら連絡をした後に立ち去ればいい。俺の意識が戻るのを待つ必要なんてない。この人は一体俺が意識を失っている間に何をしていたんだ。


「何か思い出したのか?」


「ああ、事故が合って目覚めた時この人は待っていてくれていた。そして、学校と両親に連絡をしてくれている。


 そして、そのまま立ち去っている。連絡先を調べるだけなら俺の意識が戻るのを待つ必要なんてない」


「何かをしていたのかもしれない。何かをするとすれば携帯に細工だな。携帯を少し借りてもいいか?」


 岡島がそう言うが俺の携帯は赤川が持っている。赤川は鞄から取り出して岡島に渡す。俺の携帯はむつきんが変わったアプリを入れていた。


「変なアプリが入っている。このアプリに見覚えは?」


 そう言われてモニターを見たがそんな画面を見たことがなかった。


「なんだこれ?」


「まあ、今オフにした。これは簡単に言うと盗聴だな。音声を拾っている。そして、飛ばしている場所もある程度わかる。受信先を調べることができそうだ。とりあえず、これからその先に行ってくる。まあ、待っているがいいよ」


 そう言って岡島は出て行った。だが、俺が退院するまで知らなかった。そう、岡島はこの日から学校に来なくなったのだ。



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