踏み込む勇気
~踏み込む勇気~
まず、俺は赤川にお願いをした。
(やっぱり、頼るなら赤川きゅんだよね)
いや、真面目な話しをするのに天使ちゃんそれはないよね。でも、天使ちゃんにもお願いをしたいんだ。いいなか?
(そりゃ、私のお願いを聞いてくれたらいいわよ。ってか、多分考えていることはわかるけれど、それってあんまり進めたくないんだけれど)
でも、俺にはこれくらいしか思いつかなかったんだ。
(わかったわ。でも、覚えておいてね。あっきーと私はリンクしているの。考え方もお互いわかるけれど、感覚もリンクしているの)
そっか。天使ちゃん。ごめんな。でも、俺も耐えるから天使ちゃんも耐えてほしいんだ。だって、これは俺たち全員の問題だからだ。
「これでいいのかな?」
赤川が差し出したものを見て確認をする。
「問題ない。大変だと思うけれど、お願いする」
(そう、そこでハグよ。私のお願いをきいて)
やれやれ。でも、天使ちゃんにも迷惑をいっぱいかける。それにお願いをいっぱいする。赤川ならしゃれだってわかってくれるだろう。
俺は赤川を抱きしめた。なんだ。赤川もいい匂いがするじゃないか。一体どうなっているんだ。俺だけなのか。
(ううん、二人が特別なんだよ)
そうだよな。特別だよな。俺も気をつけなきゃいけないのかと思った。
(でも、気を付けると変わると思うよ)
そっか。今度聞いてみるよ。今度があるのなら。
(ちゃんと、考えているんでしょ)
まあな。でも、こんなふざけたことしてうまく行くのかなんてわからない。俺は赤川を抱きしめながらこう言った。
「後でまた会おう。俺は赤川を信じている」
そう言って、俺は次に岡島の方を向いた。いけすかないやつだけれど、こいつの頭脳は半端ない。行動力も半端ない。だからこそ、信じられるんだ。
「まあ、君が言い出したことだ。だが、こんな事うまく行くと本気で思っているのか?まるでこれは本気じゃなく狂気だ」
「じゃあ、これ以上いい案があるか?誰も危険にしない方法が」
俺は吐き出した。
「君の表現は間違っているな。誰もに君が入っていないからだ。だが、この行動は解決という面だけを見ればいいことだとも思う。検討を祈る。こちらも生徒会メンバーにはすでに連続済みだ」
「ありがとう」
俺はそう言って、コンビニを出た。目の前に車が止まっている。そう、俺はこれから一人で誘拐をされるのだ。
それを動画撮ってもらいネットにあげてもらう。少し行っても行動されなかったら俺から声をかける。
そう、俺が行方不明になるのならばこの車が証拠だ。
「おそらく、その車はお前を乗せた瞬間に盗難届が出るだろうな。つまり持ち主は罪に問われない。僕ならそうするね」
岡島にそう言われた。その可能性あるだろう。けれど、犯人にたどりつけるきっかけにはなる。
名探偵ですら何度か犯人が行動しないと解決に結びつかないんだ。だったら、そのきっかけになってやる。
(戦うのを怖がっていたあのあっきーが成長したよね。お母さんうれしいわ)
いや、天使ちゃん。いつから俺のお母さんになったのよ。
たまに、そのテンションが良くわからないんだけれどね。でも、俺が頑張れるのは天使ちゃんのおかげでもあるんだ。だって、一人だったらこんなことできないから。
僕はゆっくりと信号を渡る。もう少しすると電燈もまばらで暗い道が続く。ゆっくり歩くのには理由がある。
後ろから撮影をしてもらっているからだ。カバンに携帯を忍ばせて見えないように。そして、もう一つ。俺は後ろを確認しなくても後ろがわかる。
天使ちゃん。どう?後ろの車は着いてきてる?
(ばっちりよ。ちゃんと車の後ろに赤川きゅんがいるよ)
そう、赤川の安全を図るためだ。そして、もう一つ。岡島には別のお願いをしている。赤川に危険な役回りをお願いしないといけなかった。
(だからこそのハグなのよ。あれで絶対頑張るよ)
そうか?でも、天使ちゃんが言ったからハグしたけれど、なんか変な気持ちになったよ。
(ドキッとしてたものね)
はいはい。もう、そのドキっとしたのも自分なのか天使ちゃんの思いなのかわからないからね。
歩き続ける。道路側を歩いているが何も起きない。
(もう少ししたらガードレールがなくなるから。気を付けてね)
そう言われた後に車が一旦止まった。後部座席から人が降りたらしい。さすが天使ちゃん。見ている映像を俺に送りつけてくれる。
でも、やっぱり後ろにも人が居たか。俺は立ち止まり顔を見る。天使ちゃん。後ろの赤川はどうしている?
(ちゃんと隠れているわよ。鞄を地面に置いて)
そう、赤川には絶対に安全な場所に居てもらう。赤川がつかまったらおしまいだからだ。
撮影された映像はライブでネットにあがっている。そして、ずれているのかどうか連絡が入る。そう、赤川に俺の携帯を渡したのだ。
今、撮影しているのは俺の携帯。赤川は携帯で岡島からイヤフォンで角度の調整だけを聞いている。声を出して赤川が見つかると俺の行動に意味がないからだ。
岡島には警察に行って俺がリアルタイムで誘拐されるところを見てもらう。だから目の前にいる男性がサングラスをしていてニット帽をかぶりマスクをしていても関係ない。
俺が殴られて連れ去られるところが映っていればいい。
(後ろに人が周りこんできたよ)
そう、俺は自分の立ち位置を考える。ちゃんと殴られるところが映らないといけない。赤川と俺をつなぐ線を天使ちゃんに確認をしてもらう。
(う~ん、もうちょっと右かな?)
なんでそこ疑問形なの?立ち位置はかなり重要なんだからね。でも、天使ちゃんのその一言で安心できた。
俺はゆっくり、自然に体をひねって動かした。後頭部に鈍い痛みが走る。わかっているとはいえ痛かった。そして、俺は意識を失った。
どれだけ時間が経ったのかわからない。けれど、俺は鈍痛がする頭に注意をしながら目を開けた。だが、真っ暗だ。目隠しをされているのか。
(うん、目隠しもされているよ。そうね、今のあっきーは目隠し、猿轡をされ、手足を縛られて麻袋に入っているわよ)
結構ガチじゃん。だからか。体のあちこちが痛いのは。んで、天使ちゃん。何か見える?
(う~ん、倉庫みたいな所。結構大きいの。だからあっきーが動いてくれないと倉庫の外が見えない感じかな)
おいおい。それ、想定外だよ。まあ、後は助けが来るのをひたすら待つだけなんだけれどね。それと、近くにむつきんいるカンジかな?
(う~ん、いないね。ってか、むつきんってつぶれたパチンコホールにいるんだよね。だとしたらここは違うと思うよ。コンテナとか、よくわからない袋が山積みだし)
それも、また想定と違ったか。俺は連れ去られた場所でむつきんと合流できると思っていた。そう、拉致されることを想定していたから俺の携帯は赤川に預けた。
おそらく持っていたら壊されたかどこかで捨てられたかの2択だろうし。はじめプリペイドカード式の携帯を手に入れようかと考えたけれど、コンビニですぐに手に入るのかわからなかったから諦めたのだ。
だから赤川と岡島の携帯に入れたのだGPS機能の追跡アプリを。両親が保険として俺と妹に買ってくれたGPS付の腕時計が最後の鍵だ。本当に両親に感謝したい。
耳を澄ます。何も聞こえない。
(ここ倉庫の奥だから無理だと思うよ。でも、倉庫の入り口付近にいったら人がいるのはわかるよ)
その奥にはいけないのね。でも、今回わかったのは俺を襲った相手は運転手に俺の前で威嚇したやつ、そして俺を殴ったヤツの3人だ。
ということは、結構大人数ということだ。むつきんだって違う場所で監禁されている。赤川たちにはまずむつきんを助けてやってほしいと伝えたのだ。
まあ、同じ場所に連れて行かれると思っていたから今の状況は想定外なんだけれどね。
(まあ、そういうものだよね。思い通りに行かないのが世の中なんて思いたくないだよね)
いや、それ結構前にゲームに出てくるやつだよね。
やったことないけれど、天使ちゃんが知っていることにびっくりだよ。ひょっとしたら天使ちゃんって結構年上だったりするのかな?
いや、でも菅田ユリは若かった。同じ高校生だ。謎が深まる。
(まあ、あっきーがそう考えることで楽になるのならそれでもいいけれど、今はこの状況を考えることが大事だと思うぞ)
何キャラ?まあ、でも、確かに天使ちゃんの言うとおりなんだよな。まず、確認なんだけれど俺が意識を失った後天使ちゃんは意識があったの?
(うん、ないよ。そこはリンクしているみたい。でも、ちょっとでも朦朧としている状態なら私は大丈夫みたいよ。何度かあっきー車の中で朦朧としていたみたいだよ)
その時何が見えた?
(そうだね。ここ結構離れた場所だと思う。山の方を走って、その後に変なさびれた工場に入っていったから。その奥の倉庫がここ)
近くで何か見えた?
(ううん。さびれた場所だった。でも、ちょっと開けていたかも。でも、見たことない場所だからどこかわからなかった。信号もなかったし)
それで大体の場所がわかってきた。多分あの国道の更に奥だ。山に登ったということはどこかで山側に入ったことがわかる。
しかもそこまで奥でもない。多分車で2時間圏内の場所だろう。奥の山道は県道だ。そこには展望台があり、目印になるものがある。天使ちゃんにもわかるはずだ。
(確かに、コンビニで地図をずっと見ていたものね。そっか、展望台か。赤川きゅんといつか行って夜景見てね)
ああ、ここを無事に出られたら行くよ。夜景でも天体観測でもしてやるよ。それと、俺の腕時計知らないか?捨てられた?
(ううん、なんだか変わったタイプだから捨てても目立つからそのままにしておこうって話しになったよ。なんだかもう少ししたら、少し行った山の中で地面掘ってあっきーのこと埋めるとか言っていたから)
ってか、そういう情報って早めに教えてもらえない?
でも、後は赤川たちを待つばかりだ。大丈夫。信じればいつか助けにきてくれる。そう祈っていた。
だが、それから天使ちゃんと語らい続けた。どれくらい話したかわからないけれど倉庫と扉が開く金属音がした。
天使ちゃん。赤川たちかな?
(残念だけれど、違う感じだね)
って、ことは、俺って生き埋めになるのかな。
(かもね。私も苦しいからイヤなんだけれど、ちゃんと回避してよね)
いや、俺縛られて麻袋に入っているんですけれど。この状況を自分で回避できたら脱出王になれるよ。もう引田天功も真っ青だね。
そう言っても居られない。本当に持ち上げられて運ばれていく。
(今あっきー台車で運ばれているよ)
そういう実況いらないから。
(そして、男性二人に抱えられて車に押し入れられるのであった)
たまになるナレーション風って何なの?ってか、痛みしかないよ。まあ、声出したら更に攻撃されそうだから黙っているけれど。
(それは助かる。だって、痛いのイヤだし。あっきー意識失うと私も意識失うから困るの)
理由そこ?でも、天使ちゃんが居てくれるおかげで助かることは多い。
見えるものを出来るだけ覚えておいてほしい。最後まであきらめたくないから。それに俺は赤川たちを信じている。
(車が走るよ。山道を♪)
確かに今車が走っているけれど、どうしてそれを歌うのかな?ってか、黙らないで。ものすっごく不安になるから。
そう、天使ちゃんは黙り、車が止まった。転がされ落ちていく。体中が痛い。結構な段差を落ちたのがわかった。
「この辺りでいいっすかね?」
「じゃあ、俺は先に移動しているから後はよろしく」
そう言って車が走って行くのがわかる。しばらくして俺の上に何かが乗っかってくるのがわかる。土なんだろうな。
俺は体に重みを感じながら祈っていた。そう、もう今の俺に出来ることは祈ることしかないのだから。




