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何かを見たのは一体誰なのか?

~何かを見たのは一体誰なのか?~


 中央病院と言いながら街の中央にはないのが不思議である。


 そして、この中央病院に行くにはバスに乗る必要がある。駅からは遠いため、この病院に行くならばバスになるのだ。まあ、少し前に俺が入院していた所でもあるけれどね。この街で入院となるとこの病院になる。設備はかなり整っている。数ある病院が合併して総合病院になったんだ。


 バスに乗り、移動する。バスの中はそこそこに混んでいて、俺たちは全員立っていた。俺のすぐ横に菅田ユリのお母さんが立ち、反対側は岡島がいる。


 どうも、岡島は俺の護衛役という形でずっと横にいるのだ。そして、岡島の近くでものすごい目つきで睨んでいるのがむつきんだ。


 むつきんの横には赤川がいる。赤川はなぜか心配そうに俺をみている。暴漢に襲われると心配しているのだろう。


(多分違うよ)


 まあ、天使ちゃんのつっこみはスルーをするのが一番だ。そう、向かっている中央病院に菅田ユリは入院しているのだ。


 道中、菅田ユリのお母さんに色んなことを聞かれた。両親は共働きか、家はマンションか戸建か。なんでそんな事を聞くのだろと思っていた。


(やっぱり請求が来るんじゃない?生活も厳しそうだったし)


 天使ちゃんに言われて思う事もある。けれど、高校生の自分に出来ることなんて何もない。バイトをしたとしても微々たるお金しか稼げない。でも、その微々たるお金でも大事なのかもしれないと思った。バイトでもするか。そう思っていたら岡島が耳元でこう言ってきた。


「バイトは校則で禁止はしていない。だが、するのならば少し離れた場所でしてもらいたいな。本業をおろそかにする生徒が増えるのは好ましくない」


 岡島は読心術でもあるのか?


「バイトするなら教えてね。同じバイトするから。肉体労働とか選んだらわかっているわよね」


 後ろからむつきんも言ってくる。ってか、むつきんも一緒のバイトするつもりなんだ。


「僕も一緒がいいな」


 赤川、お前もか。


(流石だね。あっきーモテモテだ。なんだかラブコメみたいな展開。こういうの好きなんでしょ)


 ちょっと待て。このラブコメは誰得なんだ。よく見ろ。俺の周りにいるのは男子、男子、女子だ。ラブコメではない。それに男子二人からそういう意味で好かれているわけじゃないからね。


(まだ、気が付いていないの。あっきー。ラブコメの主人公って鈍感なのが定番だけれどここまで鈍感だとひどいよ)


 ひどいのは天使ちゃんだよ。言われ続けたらそう思って来ちゃうでしょ。意識しちゃうでしょ。


「着いたよ。あっきー」


 そう言って俺の制服の袖口を赤川がつかんでくる。上目使いでちょっと頬が赤く見える。もう、絶対こういう風に見えるのは天使ちゃんの罠だ。


(罠って何?孔明の罠的なやつ?)


 ってか、天使ちゃん。予想外の返しでびっくりだよ。


 空城の計とかじゃないからね。とりあえず天使ちゃんの罠はスルーして病院で受付を済ませる。ちゃんと見てよね。天使ちゃんが菅田ユリかもしれないんだからさ。


(まあ、実感は全然ないんだけれどね)


 記憶失くしているから仕方ないのはわかるけれど、頑張っている俺らの身にもなってよ。


(わかったよ。確かにあっきーは頑張ってラブコメしてくれているものね)


 違うから。頑張って天使ちゃんが誰なのか調べているんだからね。病棟に上がり、ナースステーションでまた受付をする。


 病院に当たり前だけれどそう来ることがないから斬新だ。そういえば、俺は赤川については知っているけれど、岡島についても、むつきんについても何も知らない。


 むつきんは俺に質問はいっぱいしてくるけれど俺からの質問にあまり答えてくれないんだよな。


(え?知りたいの?)


 まあ、教えてくれないと知りたくなるのが心情かな。隠されているものを見たいみたいな。


(かっこいいこと言っても頭の中で思っていることは別のことなのがわかるのよ。もう変態)


 いや、健全な男子高校生として普通のことだから。ってか、今頭の中に赤川のヌードを押しつけてこないで。しかもなんでこう艶めかしいの。


(知らない。赤川きゅんを見て欲情するといいのよ)


 歩いて行くと扉の前に着いた。扉には面会謝絶と書かれてある。


「ここにユリはいるわ。でも、入るのはあなただけで。ユリも大勢に今の状況を見られたいと思わないから」


 そう菅田ユリのお母さんに言われて俺は頷いた。横に当たり前のようにいる岡島も離れた。ってか、こいつ普通に俺の横にいるよな。


(でも、ちゃんとしているよ。バスから降りる時は先に降りて周りを見渡していたし。だから赤川きゅんに声かけられたでしょ)


 気が付かなかった。岡島は確かにすごいヤツだ。それはわかる。でも、なぜか受け入れたくない。何か違うのだ。


 俺は扉を開けて中に入る。目の前にベッドがある。入り口にある消毒液を手にこすり付けて中に入る。


 うっすらとレースがかかった奥にその女性はいた。細面のその白い顔は目を閉じているけれど目鼻立ちがしっかりしているのがわかる。


 言われたら横にいる母親に似ている。母親も確かに目鼻立ちははっきりしている。だが、ちょっときつそうに見えるのだ。


 ただ、いたるところにチューブがついている。寝たきりのためなのだろう。その姿を見て俺は胸が痛くなった。


「はじめまして、菅田ユリさん。俺は君に謝らないといけない。俺のせいで君は事故にあった。本当に申し訳ない」


 そう言って俺は頭を下げた。少し違えば俺がこうなっていたのかもしれない。


(そう思うならあっきーにしかできないことしよう)


 天使ちゃんの声がいつもと違って透き通るような声だった。びっくりした。本当に天使の声に聞こえたからだ。


「顔を上げてください。この子が目を醒まさない理由はわからないの。でも、私たちは信じています。だから、たまにでいいので顔を見に来てあげてください。この子を訪ねて来たのは警察や記者をのぞけばあなたたちだけです」


 俺は顔を上げた。もう一度菅田ユリの顔を見る。頬が痩せている。目の前の菅田ユリのお母さんもやつれている。


 いつまでも持たない。俺にできること。それは犯人を捕まえることだ。岡島も言っていた。俺が狙われるのならこの菅田ユリさんも狙われるはず。


 だとすれば俺がここに通えば相手も何らかの動きがあるはずだ。


 でも、俺は一体何を見たのだろう。それがわかれば楽なのに。動きがない状況。とりあえず、俺は「また来ます」と伝えて扉に向かった。


 扉を開ける前に天使ちゃんに確認する。顔を見てどうだった?何か感じた?


(何も感じない。でも、どうにか助けてあげたいね。あの二人を)


 それは俺も同じだ。扉を開ける。廊下の前には岡島と赤川がいる。


「あれ?むつきんは?」


「ああ、トイレだ。廊下をまっすぐ行って左に曲がったところにトイレがあるからそっちに行ったな」


 岡島がそう言う。だが、しばらくしてもむつきんは戻ってこない。携帯に連絡をするが留守電になる。トイレで倒れているんじゃないのか。


 そう思ってナースステーションに言って伝えた。だが、確認をしてもらったがトイレにむつきんはいなかった。どういうことだ。そう思っていたら岡島がこう言った。


「思ったより動きが早かったな。でも、意外だったのが狙われたのが関原くんじゃなくあのうるさい女の子だったとは。


 でも、これで助かったんじゃないか。ストーカーのように付け狙われていたのだろう。楽になったのではないか?」


 言われて意味が解らなかった。


「どういうことだ?」


「わからないのかね?敵が誰を狙っているのかわからない。だから関係者と思われる関原くん、そして菅田ユリ、そしてあのストーカー女である杉山むつき。3人を集めてみたのだよ。


 そして、敵がどう動くか確認する。周囲を観察していたら変な尾行をしているやつがいた。だから、まず杉山むつきをおとりにしてみた。


 彼女がターゲットじゃなかったら動かない。だとしたら次は関原くんだ。わかっていたらだろう。自ら撒き餌になるって決めたのだから。


 そして、見事捕まった。警察だってバカじゃない。次に犯罪が起きれば証拠だって残る。後は警察に任せればいいさ。ゆっくり家に帰って日常を続けるがいいよ」


 淡々と岡島は説明をする。もし、岡島の外見が美少女じゃなく普通の男子高校生だったら俺は殴っていただろう。


「ふざけるな。それでむつきんはどうなるっていうんだ」


「犠牲はつきものさ。だってそうだろう。推理小説を読んだことがないのかい。


 何人もの被害者が出て証拠がそろっていく。名探偵が解決にたどり着くためには犠牲が必要なんだよ。ま、そもそも事件が起きなければ名探偵の出番はないのだけれどね。


 まあ、これで警察が動き警備が強化されたら学園に火の粉は降りかかって来ないよ」


「そんなに学園が大事なのかよ。むつきんは犠牲になっていいというのか?」


「おや、不思議なことを言う。関原くんはあんなのがいいのかい?もっといい子がいるよ。周りを見ることを、人をもっと見ることをおすすめするね」


 ダメだ。許せない。こうまで価値観が違うと思わなかった。天使ちゃんはどうなんだ。天使ちゃんだってむつきんのことあまり良く思っていなかったけれど、これでいいと思っているのか?


(思うわけないじゃない。こんなのおかしいよ)


 だよな。決めたぜ。


「岡島。お前の言いたいことはわかった。だが、俺は目の前で困っている人間を見捨てるなんてことはできない。


 警察に任せておけ。それが一番かも知れない。けれど、そんなことを選んだら俺は俺じゃなくなってしまう。だから、俺は勝手をさせてもらうぜ」


 そう言って、俺は携帯を取り出した。そう、見慣れないアプリ。これでむつきんのこともわかる。今どこにいるのかをサーチする。


「なるほど。関原くんの意気込みがわかったよ。試さしてもらった。ならば手助けをしようじゃないか」


 岡島がそう言う。意味がわからない。だが、サーチが完了した。場所はここから少し離れた場所。


 国道沿いの場所だ。だが、こんな所に何かあっただろうか。しかも、動きがない。岡島が携帯を覗き込んでくる。


「その場所は確か古いパチンコホールがあったな。今はもう封鎖されているはずだ。相手は車で移動しているみたいだな。歩いていくには遠いがどうするのだ?まさか無策でつっこむとか考えているんじゃないだろうな」


 何も考えていなかった。思いだけじゃ何もできない。俺はすがる思いで狭山刑事に電話をした。だが、コールするだけで繋がらなかった。


「とりあえず、近くまで行こう。それから考える」


「ナンセンスだな。だが、現場を知ることは重要だ。策は歩きながら考えるとするか。警察に通報するのも歩きながらだ。どうせここからどう頑張ったって歩いたら30分以上かかるのだからな」


 歩きながら考える。だが、何も思いつかない。赤川が言う。


「でも、どうして杉山さんが連れ去られたんだろう」


 確かにそれは疑問だ。それにこっそりむつきんを連れ出せたとしても脅威が去るわけじゃない。根本的解決をしなきゃ意味がない。


「昨日言っていた動画が鍵じゃないか?もしくは杉山さんだけが見ていた、知っていた、行っていたことがあるはずだ。その動画はどういうものなんだ」


 岡島がそう言ったので動画を見せる。


「おい、これすでにyoutubeにアップされているな」


 そう言われて岡島が携帯で調べて画面を突き出してきた。登録名が「Mutsukin」になっている。おいおい、もうちょっとひねろうよ。


 ってか、気になって調べたら他の動画は俺が映っていた。隠し撮りされているのかよ。天使ちゃん、ひょっとして気が付いていた。


(うん、あっきー気が付かないものだなって思って見ていたよ)


 そういうの教えてよ。お願いします。他に何かないの?


(そうだね。色々ありすぎて良くわからないんだけれど、今言わないといけないのは大通りをゆっくり徐行している車がいるってことかな。定期的に進んでは止まっている車がいるの。まるで私たちを後ろから狙っているみたいな)


 ってか、それマジで危ない情報だよね。


(後ろ見ないで。気づかれる。多分、まだ病院出てすぐの大通りだから人も多いし、店もあるから大丈夫だと思う。でも、あの交差点を過ぎたらどんどん店がなくなっていくよ)


 仕方がない。俺は目の前にあったコンビニを指差す。


「ちょっとコンビニ寄りたいんだけれどいいかな?」


 そう言って俺はコンビニに入る。当たり前だが二人とも一緒に入ってくる。俺は道路に面している雑誌売り場の一つ奥の通路に入った。


 若干ラックの間から外が見える。天使ちゃん、その怪しい車はどれかわかる?


(うん、今ちょうどコンビニの近くで止まっている。誰も降りてこない。運転席にはマスクをした男性がいる。大きな色つきメガネをしている。顔がわからない)


ってか、明らかに怪しすぎるだろう。


「どうしたんだ?」


 岡島が話しかけてきた。


「ああ、ちょっと気になることがあってな」


 俺は天使ちゃんから聞いたことを岡島と赤川に話す。


「なるほど。敵は複数だからな。よく気が付いたな。だが、どうする?このままコンビニに籠城するわけにもいかない」


 当たり前だが、コンビニを出ても目の前で車が止まっている。逃げ場なんてどこにもない。けれど、こうしている間にむつきんが危険な状況にある。


「なあ、ふと思ったんだけれど、こういう方法はどうかな?」


 出来ることなんて限られている。でも、これくらいしか思いつかなかったんだ。それがどれだけバカげたことだとしても。



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