逃げるか、戦うか
~逃げるか、戦うか~
授業をうけても上の空だった。というか、俺は昨日狭山刑事に話した。警察が何とかしてくれると信じている。
だが、本当に大丈夫なのか?さっき天使ちゃんに言われたあの男と俺は目があったのだろうか。わからない。
(大丈夫だよ。今それに学校の近くにいないし)
天使ちゃん。見てきてくれたの?ありがとう。
(っていっても、私基本あっきーのそばからそこまで離れられないから本当に学校のすぐ近くの通りしか確認できてないけれどね。あっきーが外に出てくれるのならもうちょっと広い範囲で確認できるけれどどうする?)
やめときます。とりあえず、俺に出来ることは今日のことを狭山刑事に伝えることだ。だが、何度か狭山刑事の携帯に電話を入れたがつながらなかった。
とりあえず、留守電には入れておいたけれど、俺はこれから先どうすればいいのだ。
(まあ、事故当時のあっきーと今のあっきーならかなり雰囲気変わっているから別人と思ってくれるかもしれないよ)
だと、いいんだけれど。でも、どうして銀行強盗犯がまだこの街にいるのだろう。
(さあ?でも、何か用事があるんじゃない?それか、仲間割れしたとか。ほら、こういうのってさお金を手にした瞬間から仲間割れしそうじゃない)
まあ、確かにそういうフラグは多いけれど、実際ゲームとか映画じゃないからリセットボタンないからね。俺死んでも生き返らないと思うし。
(じゃあ、どうするの?逃げ続けるの?生徒会長に言われた通り)
逃げ切れるのだろうか。すでに監視されているということは、俺はマークされているのだろうか。
それとも、俺は何か根本的にまずいものを見てしまったのだろうか。とりあえず、俺は携帯の電源を入れた。
普段は授業中に携帯をいじることはない。いや、周りを見渡すと結構授業中でも関係なく携帯をいじっている生徒は多い。
まず、気になったのはむつきんが撮った動画だ。もし、岡島の言う事が正しければ警察はこの動画が参考にならないはずだ。
だって、監視カメラで確認ができているからだ。しかもこのむつきんの動画はナンバーは写っていない。
何が写っているのだ。携帯を取り出して動画を再生する。もちろんサイレントモードだから音は出ない。
動画は短い。まず俺が飛び出して小学生の高梨こづえちゃんを抱え込み倒れるところあたりから映っている。
そして、俺が跳ねられる所。丁度側面からだからナンバーは見えない。しかも画素数がわるく運転席の顔も見えない。
そして、そのまま俺がはねられ車は直進。歩道に乗り上げた上そのまま奥の細道に入っていく。おそらくこの歩道に乗り上げたあたりか細道あたりで菅田ユリが巻き添えをくらったのだろう。
車は通り過ぎたけれど、車を追いかけていない。そのまま倒れ込んだ俺が映し出されている。そのまま俺を助けてくれた男性がやってくる。
その人が俺を抱きかかえて声をかけている。顔を近づけて息の有無の確認。この辺りは授業でもやったことがある。
そして、動画は終了する。でも、この男性ってどこからやってきたんだろう。
俺この一年以上この付近を歩いていたけれどこの男性を見たことがない。そして、それ以降も。まあ、偶然助けてくれた人が居てくれたから助かった。
動画を見る限り誰も俺に近づかないし、救急車を呼んだ気配すらない。お礼が言いたかったから偶然会えるかと思ってこの人も探していたけれど会えなかったからな。
(ねえ、この人の連絡先って聞いた?)
いいや。目を醒ました後すぐにいなくなった。警察も知らないらしい。まあ、善意の第三者だろう。
(まあ、ちょっとイケメンだったよね。顔を近づけた時とかそのまま人工呼吸するのかと思ったもの)
いや、息をしていたからしなくて大丈夫でしょう。ま、俺記憶ないけれど。とりあえず、俺は自分だけではまったくわからないので昼休みに赤川に相談してみようと決めた。
(ランチデートね)
ってか、俺基本昼は赤川と食べているんだけれどね。んで、相談してどうなるものでもないのだけれど。
屋上。
この場所は何かを話すにはいい場所なのかもしれない。あまり立ち入る学生が少ないのも魅力だ。
まあ、5月の連休明け。外でご飯を食べるのは気持ちがいい。中庭もあるがやはり空が近いからかこの屋上が好きだ。
「今日は晴れているから景色を見ながら食べられるね」
赤川がそう言ってきた。と言っても何か良くわからない段差があるのでそこに腰をかける。広い場所もあるけれど、やはり座って食べる方が食べやすい。
周りは住宅街だ。落ち着いた景色に自然が見える。のどかで平和そのものだ。だからこそ銀行強盗なんてニュースを聞いても実感がわかないのだ。異質なんだ。
「ああ、そうだな」
返事をしながら思った。やはり話すなら食事が終わってからがいいと。この話しは食事をしながら話し内容じゃない。
箸を伸ばし咀嚼をする。だが、味がわからない。しかも会話も盛り上がらない。気が付くといつもより早く食事を食べ終わった。
多分雰囲気で察したのだと思う。赤川だっていつもより早くご飯を食べ終わっている。
「あのな、話しがある」
話して巻き込むことが本当にいい事なのだろうか。
(話してくれなかったら赤川きゅんすねるかもよ。友達じゃないのかって)
天使ちゃんの言うとおりだな。話して赤川がどう判断するのか。それにゆだねよう。
「それって、あっきーの見間違いじゃないんだよね」
赤川に話した開口一番がこれだった。
「見間違いであってほしいと思ったよ。でも、俺の中でヤバいと感じたのは事実だ。それでどうするのがいいと思う?」
(一緒に愛の逃避行ね)
って、なんでそうなるのよ。天使ちゃんの発想にびっくりだよ。
「やっぱり警察に相談するのが一番だよね。あの刑事さんには話したの?」
「ああ、話した。でも、気にしすぎだろうと言われた。
確かに銀行強盗をした犯人だとしたらまだこの街にいること事態がおかしい。すでにどこか遠くに、それこそ海外に逃げているだろうと。
でも、もし本当だとしたら俺が狙われるわけだろう」
「そうだね。でも、他人の空似かもしれないよ。似た人だっているだろうし。それにスキンヘッドに入れ墨なんでしょう。目立ちすぎでしょう。まるでここに居ますってアピールしているみたい」
そう言われて俺は思い出した。今朝見たスキンヘッドには入れ墨はなかった。
「見間違いかもしれない。入れ墨がなかった」
そう言った時の赤川が脅えたような顔をしていた。どうしたんだ。
(多分後ろを見るとわかるわよ)
俺は振り返った。そこに岡島がいる。当たり前だが、ミニスカートだ。そして屋上は風がきつい。こいつは男だ。わかっているのについチラチラするスカートに目が行ってしまう。
「関原くん。僕は面倒事をこの学園に持ち込んでほしくないと言ったのを覚えているかい?」
そっと近づいてきて俺の顎に人差し指をあててくる。軽く上にあげられているだけなのに、どうしてか威圧感を感じる。こんなに細いのに。
(ね、抱きしめたらそのまま持ち上がりそうだよ。いっそ抱きついてみるとか?)
天使ちゃん。その空気の読めなさ感マジで助かった。おかげで緊張がほぐれたよ。一歩後ろに下がって指から逃げる。
「別に俺が持ち込んだわけじゃないです。それに、俺の勘違いだってわかりましたから」
俺はふと周りを見て気が付いた。岡島だけじゃない。生徒会のメンバーがいつの間にかこの屋上にいたのだ。岡島が言う。
「関原くんはわかっていない。自分が置かれている環境に。林書記。紙を用意して」
「はい」
この書記の人の名前がわかった。林さんなんだ。
(委員長の周りって本当にイケメンばっかりだよね。これって委員長の親衛隊なのかな)
平常運転だね。この状況でもそう思えるって天使ちゃんのハートはすごい頑丈だね。
(ありがとう)
いや、褒めてないからね。
「では、関原くん。君が見たという人相を教えてもらおうか。この林書記には絵を描くという技能があるのだよ。これは結構役立つものなのだ」
そう言われて俺はスキンヘッドでぎょろっとした目の男性の話しをする。なんどかやり取りをして出来上がった絵を見てびっくりした。その通りだからだ。描きあがった絵を見て岡島はこう言う。
「なるほど、印象深い顔だね。だが、これはやりすぎだ。人の記憶というものはあやふやなものなんだよ。
こういう実験がアメリカで行われたことがある。授業の前に一人の白人男性が横切る。そして、教授が入ってこう言ったそうだ。
『私が来る前に教卓の前を横切った人はどういう人か』と。
結果はひどいものだ。黒人だったり、女性になっていたりしていた。それくらい人の記憶というものはあやふやでいい加減なものだ。
だが、これは印象に残ることを考えすぎている。この人相のまま街を歩いていることはまずないだろう。
例えば、カツラをかぶってみる。メガネをかけてみる。それだけで印象が変わる。この入れ墨もシールか何かだろう。
色んなパターンを作ってみるとわかるがどうかね」
言われている事を聞いてびっくりした。どうしてこの人はここまでやってくれるのだ。
「どうしてここまでしてくれるんですか?」
気が付いたら声に出ていた。
(多分、この委員長もあっきーの事好きなんだよ)
なんでそうなる。岡島が言う。
「簡単なことだ。厄介ごとや面倒事はこの学園に持ち込んで欲しくない。
だが、持ち込まれてしまったのならば迅速に解決をする。それが学園を預かる生徒会長の役目だ。そういう役職に赤川くんも憧れているのだろう?」
そうなのか?俺は赤川を見る。だが、目を大きく見開いて驚いている。
「いえ、違います。僕はそんな器じゃないです」
首を横に振っている赤川を見て本心だと思った。
(いや、そこは赤川きゅんかわいいでしょ)
はいはい。まあ、確かにかわいくはあった。だが、赤川は男だ。
「そうか。でも、赤川くんは守るべき相手がいれば力を発揮すると思うけれどな。それで、関原くん。君はどうしていのだね。このことを警察に言って取り合ってもらえたかい?」
「いいえ。取り合ってもらえませんでした。警察はアイツらがこの街にいないと思っている。それに俺の証言をそのまま信じてもくれなかった」
「でも、それはさっきの話しでわかっただろう。個人の証言なんて信用にならないってこと。けれど、私は違う。この学園に降りかかる火の粉は払わないといけない。それで、関原くん。君はどうしたい?怖くて隠れるように逃げるのか。それとも、戦うのかだよ」
戦う。誰が。この俺がか。ずっと逃げていたのに。そう思っていたら俺の制服の袖を赤川がひっぱる。
赤川を見ると真剣な目で俺を見ている。なんだこれ。これ俺が戦うという選択をするフラグか?これで逃げるなんて選んだら世界が終わるのか?
(戦う一択だね)
やっぱりそうか。でも、俺には天使ちゃんがついているからね。
「当たり前だ。戦うに決まっているだろう。戦うのは日常を守るためだ。だからこそ俺は俺の日常を守り続ける。それでいいだろう」
決めた。俺は戦うし、日常も守る。
「いいだろう。では、関原くんに護衛をつけよう。今考えられる最高の護衛をつけてあげようではないか。そう、私が君に付き添ってあげようではないか」
耳を疑った。岡島が俺と一緒だと。
「喜び給え。この私が一緒なのだ。こう見えて結構強いからね。それにうれしいだろう。この学園の2大アイドル二人を両脇に抱えてうごけるのだから」
普通に予想できた。確実に放課後に嵐がやってくる。俺の頭の中で思ってことはただ一つ。どうやってむつきんを納得させるのかだ。
横を見ると赤川も不安そうな顔をしている。そりゃそうだろう。赤川も一度経験があるからな。
(多分赤川きゅんは違うことを思っているよ)
俺はまだ知らなかった。この岡島という先輩がどれだけ頭の中がおかしい人だということに。




