あの白いバンは一体?
~あのバンは一体~
朝を迎える。最近は天気が良いみたいだ。五月晴れらしい。やはり晴れは気持ちいいのだ。まあ、入院はGWと被っていたから授業にも支障なかったし。まあ、実際事故にあっていなくても、GWにすることといったら赤川と出かけるくらいだ。
(じゃあ、今度赤川きゅんとデートね。デート)
天使ちゃんは朝から平常運転だね。おはよう。とりあえず、今日は授業が終わったら手土産を買ってまた訪問だね。謝罪が通じるまで訪問しなきゃだ。
時計を見る。早く起きたのは、お弁当を作るためだ。これから帰りが遅くなるかもしれない。
だから結構色んなものを作りだめをしておかないといけない。昨日はいつもあまり買わない冷凍食品も購入した。まあ、20%オフだったというのもあるけれどな。
(そういうとこしっかりしているのにね。他はまだまだだから)
わかっているけれど、指摘しないで。俺だって人並みに凹むんだからね。まだまだなのも自覚しているから。
とりあえず起きたら「おはよう」のLineをむつきんに送る。ここ最近は落ち着いてきたみたいだ。
といってもちょっと気を抜くと未読が100件を超えている。しかも内容はすべて同じ「なんで返事しないの」である。
既読スルーなんてしてしまった瞬間はもうお祭り騒ぎだ。「既読スルーするな」ばかり何千件と連なるのだ。
恋とは確かに戦場を突っ走るものなのかもしれない。いたるところ地雷だらけだ。
(その恋は普通じゃないからね)
って、つっこみ辞めてよ。
まあ、こうやって脳内会話をしていても手は動いてくれる。朝ご飯もお弁当も完成している。
しかも、今日の晩御飯の下準備まで終わっている。といっても、今日は豚の生姜焼きに、コールスロー、オニオンスープにトマトサラダ。そう返ってきて生姜焼きを作るだけだ。もう他は準備が終わっている。
「おはよう」
妹のちあきが降りてきた。すでにちあきの席には朝食を置いてある。ちなみに父親はすでに出かけ済み。
今日は母親も一緒だ。何かわからないけれど忙しいみたいだ。そんな理由は俺ら子供には教えてくれない。
教えてくれたとしてもできることは限られている。そう、家のことをするだけだ。だから俺は家事マスターになったんだ。
「ああ、おはよう。今日も早いのか?」
ほら、この会話とか父親みたいでしょ。まあ、母親にはなれないからね。
(どこかお嫁に行くの?)
行かないから。何度も言っているけれど俺はもらう方だからね。
(赤川きゅんをでしょ)
「ねえ、お兄ちゃん。噂で聞いたんだけれど彼女できたってホント?」
ご飯を食べながらちあきが話しかけてきた。びっくりだ。結構無言で食べることが多いのに。
「ああ、そうなんだ。今度紹介しようか?」
「いいよ。知っているから。あれでしょ。お兄ちゃんの彼女って赤川さんなんでしょ」
「違うから」
ってか、お前もかよ。なんかカエサルの気持ちがわかった。ブルータスは近くにいたんだ。なんでそう思われるのかが謎だが。
(ここに同士がいたよ。語りたい。語りつくしたい。ちょっとあっきーそこはそうなんだよって照れながら言ってよ)
言わないから。ってか、誤解が加速するからそういう指示は辞めてよね。
「え?違うの。てっきりそうだと思っていた。まあ、別にどういう人と付き合うのは自由だけれど、私に変な噂が飛び火しないような人にしてよね」
うん、しそうなくらい結構デンジャラスな子と付き合っているんだよね。
(クラッカー山崎だったっけ)
むつきんをそんなちょっとしたパーティーに出てきそうなお菓子にしないであげて。
「じゃあ、私先に行くから。後、帰りは部活で遅くなるから」
「ああ、気をつけろよ。まだ、銀行強盗犯つかまっていないらしいから。この辺りも物騒だよね」
「そうだよね。お兄ちゃんはねた車の持ち主も見つかってないみたいだし。って、私そこまでどんくさくないから。じゃあ」
そう言ってちあきが出て行った。食器を洗い自分も用意をする。出かける時間は決まっている。
というか、最寄駅でむつきんが待っている。多分遅れるとマジで殺される。洗い物も終わったので急いで鞄を持って行く。
戸締りを確認。
この家に取られて困るものがあるとは思えないけれど、知らない人が勝手に入ってくるのは怖い。
(赤川きゅんは勝手に入ってもいいのね)
ああ、赤川は友達だからね。あいつの家も結構かわった家なんだ。だからうちに遊びに来るのはゆるしてあげて欲しいんだ。
(歓迎してるよ。それより絶対にむつきんは家に上げちゃダメだよ。多分惨劇が起きるからね)
惨劇って一体何が起きるというのよ。まあ、何かを間違えたらすごいことになりそうなのはわかるけれど。
でも、天使ちゃんが言うのだから気をつけます。では、学校行ってくるね。そう、俺はまだこの惨劇の意味を知らなかった。知るのはもう少し未来の話し。そして、それは別の話しだ。
家を出て駅に向かう。何か変な視線を感じたような気がした。ねえ、天使ちゃん。誰か俺を見ていないかな?
(う~ん、どうだろう。別に電柱の影に人がいたりはしないわよ。路駐している車はあるけれど、助手席に人が座っているくらいだから運転手待ちだと思うし。気になる?)
う~ん、よくわからない。でも、なんか変な感じがしたんだ。
「おそいよ。あきらん」
その声で体がびくっとなる。時計を見る。7時40分。いつも乗っていた電車より5分早い。ってか、むつきんはいつからここにいるのだろう。
「ごめん、朝ご飯だけじゃなく、晩御飯の仕込みをしていたんだ」
「そうなんだ。じゃあ、今度私が晩御飯作りに行ってあげようか?」
(絶対に断って。それ危ないから)
なんかものすごいテンションで天使ちゃんに言われた。
「悪いよ。それに、これからしばらく俺、謝罪に行かないといけないから。許してもらえるまで」
「悪い、ですって?私より他の女がいいの?その菅田ユリって女が。私の愛がわからないの?この愛が、愛が、愛が、愛が。どうして、わからないの?伝わらないの?ひょっとしたらあきらんの目は節穴なの?コンタクトがあってないんじゃない?私が調べてあげようかしら?」
怖い。絶対に目を潰される。
「むつきんの愛はちゃんと伝わっているよ。伝わりすぎているよ。でも、これは俺の罪悪感からなんだ。俺のせいで事故に巻き込まれたんだ。
本当に悪いのは運転手だとわかっているけれど、でも、それでも俺が俺を許せないんだ。自分に嘘はつけない。でも、ちゃんとむつきんとの時間も作るからね」
俺は必死だった。必ず死ぬって書いてあるけれど、必死になるのは間違えたら本当に死が待っていそうだからだ。
「わかった。でも、ちゃんと私のことを一番に考えてね。私はこんなにもあきらんのことを一番に考えているんだから」
ええ、他にももっと目を向けてほしいと思うくらいその愛を感じているからね。
「じゃあ、行きましょう」
俺は電車の中でも何を話したのか全然思い出せなかった。そして、別れて歩く。
「おはよう。あっきー」
なんだか赤川の声がすごい癒しに感じる。
「ああ、おはよう。今日はどうしたんだ?」
「何か、変かな?」
あきらかに赤川はおかしかった。というのもあれだけ自分で男だと言いながら今日は髪留めで髪を止めているのだ。しかもピンク。そして、花がついている。
「いや、どうしたのかと思ってさ」
「うん、髪が伸びたから。切りに行こうとしたんだけれど、母親に見つかって髪止められちゃって」
「そっか」
赤川の家はちょっと特殊だ。赤川は見た目女の子に見える。それは確実に遺伝だ。
そして、赤川の母親は自分には息子じゃなく娘が欲しかったらしい。だから赤川を娘のように育てている。
いや、もう一人子供を作ればよかったじゃないかと言うかもしれない。けれど、そう行かない事情があったらしい。
そう、赤川は避妊治療の上ようやくできた奇跡の子らしい。だからかなりかわいがられて育っている。ただ、その方向が普通とちょっと違うのだ。
「男なのに髪留めとかして変じゃないか?」
(似合っているよね)
「似合っているよ」
ってか、つい天使ちゃんが言ったそのままを言ってしまった。こんなこと言ったら赤川が嫌がるはず。そう思ってドキドキしながら赤川を見る。
「そっか。やっぱりあっきーもこう言うのが好きなんだね」
そう言われた。なんだこの展開。おかしくないか?
(ようやく気が付いたの。おかしくないわよ。赤川きゅんはあっきーのことが好きなのよ)
それはない。男同士だ。それに赤川自身がそれを気にしている。
「おや、お二人ともおはよう。今日も生徒会室に来るかい?」
すがすがしく声をかけてきたのは生徒会長だ。登校も女子高生スタイルだ。
それで親は何も言わないのか?すでに赤川が警戒をして俺のほうにくっついて来ている。なんだこれ。なんで赤川はこういう時女子力が高いんだ。間違いをおかしそうになるだろう。
(そのまま肩を抱けばいいんだよ)
まあ、天使ちゃんのおかげで冷静になれるんだけれどね。いつもありがとう。
(今度黙ってみようかな)
それはやめて。というか、天使ちゃんに声をかけられることと、話しをするのが俺の一番の癒しなんだから。その声は本当に耳が幸せになれるのだから。
「まあ、その様子だと昨日の助言が聞いたみたいだね」
「ええ、おかげ様で。後は犯人が捕まるのを待つだけです」
そう言って去ろうと思った。だが、生徒会長の岡島聖がこう言ってきた。
「おかしいと思わないかい?警察が未だに車から持ち主を特定できていないのだ。そんなこと普通じゃありえない。あの交差点付近には監視カメラも多いしね」
「監視カメラだと?そんなの見てわかるものか?」
そう言うと生徒会長の岡島は信号機近くを指差した。
「あの場所にドーム型のものが付いているだろう」
「ああ、それが何だ?」
「あれが、カメラだ。普段は交通量を見たりをするのだけれど、事故がある時にはその動画が役に立つ。一番はナンバーの確認だ。だが、そのナンバーを見ても車や持ち主を特定できないとしたら、盗難車かそれこそ、存在しない車だね」
存在しない車?なんだいきなりオカルトの話しか?俺は幽霊にでも跳ねられたのか?俺だけじゃない。菅田ユリもだ。そんな馬鹿な話しがあるか。
(ってか、存在しない車って言われてそう考えるあっきーの発想が面白いよ)
え?そうなの?普通そう考えるんじゃないの?俺がきょとんとしていたら岡島がこう言ってきた。
「存在しないのは書類上だ。つまり、廃棄される、スプラッターになる前の車だとしたらそれは存在しない車だ。
そして、そんな車を普段から使うことなどない。関原くん。君は何に巻き込まれているんだろうね。よっぽど君は運がないみたいだ。
忠告しておくよ。この件は高校生が調べてどうにかなるものじゃない。だから目立たずひっそりと家で過ごしているがいい。
ああ、あの他校のクレーム女子高生もできればこの学校に連れてきてほしくないな」
いや、俺だってここに来てほしくないよ。何名かのトラウマの原因らしいし、それに他の生徒がざわつくのがわかる。でも、どうしようもないだろう。
「ってか、俺は犯人を捜したいわけじゃない。俺のせいで事故に巻き込まれた菅田ユリとその家族に謝りたいだけなんだ」
「それが目立つ行動だというんだ。関原くん。君はまだ気が付かないのかい?警察が見つけられないような車。
そんな計画的犯罪がこの街で行われたんだ。普通想像できるだろう。何に使われていた車かなんて。それに人を二人も跳ねて逃亡する。
運よく死ななかったけれど、人の生き死にを無視してまで突き進んだ車だ。止まれない理由があの車にはあったんだよ」
「わかんねえよ。わかっているならもったいぶらずに教えてくれよ。生徒会長さんよ」
俺はいらっとした。何を言いたいのかわからなかったからだ。岡島が言う。
「仕方がない。普通に考えればわかることだ。この街で今起きている大事件と言えばそう、銀行強盗だ。
そして、その犯人は未だ捕まっていない。その逃亡に使われたと言われているのは白いバンだ。
新聞にも出ていただろう。そして、関原くんを跳ねた車も白いバンだ。そして、そのバンは見つかっていない。この点と点は関係ないと言えるのかい?この狭い界隈で」
俺は言われて気が付いた。なんで今まで気づかなかったのだろう。
「だから目立つ行動はしないで欲しいんだよ。相手を逆なでるようなことはね。特に関原君は跳ねられたけど生きている。
そして、意識もある。ひょっとしたら運転手の顔を覚えていると思われるかもしれないからね。この学園に面倒事や不利益を持ち込まないでくれ給えよ」
そう言って岡島は去って行った。
(ねえ、あそこ。あの道路に止まっている車。さっきも居た。見える?)
そう言われて俺はその車を見た。運転席にはスキンヘッドで大きな目をした男性が座っていた。そう、俺を跳ねたバンの助手席に居た男だ。俺は見てはいけないものを見てしまった気がした。




