4話
「ハッハァ! コウガ! 頼れる援軍の登場だぜ」
ジャキッと薬莢を排出したスチュワートは白い歯を剥き出しにしてニカッと笑った。
「パーティにようこそ、ノーマン兄妹!」
「お呼ばれした覚えはねぇ。だが人の邪魔をするのがメシより好きでね」
クギバットでマギー・ウィリアムズ(享年19歳 ゾンビ年齢0歳)をウォータメロンスマッシュゲームじみて粉砕! 並みのゾンビなど目隠してでも殺せる最強の兄妹ゾンビ殺しの登場だ! 明日の清掃員はいささか骨が折れることだろう! だが、もしマックイーン・ビルディングに殺人ブッチャーがいたならば今日は仕事がなくて大変時間を持て余し、国会中継でも観たことだろう!
「おやおやVIPのご到着ですよぉ!」
ご機嫌に口笛を吹いたスチュワート。肥大した腕をミランダに伸ばすのはフランケンシュタインだ。
「よっと」
回避は容易。フランケンシュタインは恐れるべき相手ではない。倒す方法が確立されているからだ。十分に距離を取り、ミランダがサムライソードアンブレラで攻撃して硬直を誘い、チャールズのクギバットフルスイングを頭部にブチ込めば頭でホームランが出来る。今回もそれをすればいいだけだ。
「おーい、チャールズ、ミランダ。ヘッヘッヘ、お前たちに感謝しなくちゃあなぁ! お前たちはアリアをただのサイコだと思ってるだろう? お前らはそれでいいや。だがアリアに理解者が出来た! お前らを多少は融通が利くやつらだと思って言うぜ! アリアとそちらさんのシスター・グレイシャはいい友達だ。あれでアリアは救われた。だが俺ぁそれをひけらかしてぇ訳じゃあねぇぜ! シスター・グレイシャもここにいる。だが生憎俺らは手が回らねぇ。フランケンシュタインを始末したら早く彼女を探しに行ってくれ!」
「お前、名前なんだっけ?」
「サミュエル・シュピーゲル・スチュワート・セブンイレブン・ソニービーン。気軽にスチュワートと呼んでくれ! だが仲良くする気はねぇ。慣れあいは腐敗を招く」
「かもな。だが停滞も腐敗を招く。……俺はミセスをリスペクトしている。それはきっと一生変わらねぇ。北米大陸最強はミセスだ。だがタイマンでフランケンシュタインに勝てるのはミセスだけってのはつまらねぇ。ミセスが誰よりもそれを退屈がるだろう。同じやつがずっとチャンピオンじゃ腐敗する。それを証明したのはミッキー・ローリネイティスだ。ヘイ、ニンジャマン。フランケンシュタインを頼んだ。タイマンでな」
〇
「うぅん、吸いすぎに注意しましょう」
シスターの潜伏活動はまだ続いていた。5Bにメリーポピンズ製薬との付き合いがあることを突き止めたシスターは5Bの楽屋に忍び込み、多くの人は使用方法は知っているが使ったことのないガラスパイプ(シスターは使ったことがある。だからドクにひっぱたかれた)、タバコ、男女で使うゴム製のグッズなどを発見した。
「よし」
今日は遊びに来ているので武器はナイフしかない。こういう大きな建物には斧が設置されているが、シスターの腕力と肩を壊しやすい体質では危険だ。ショッピングエリアのハンティングショップでボウガンか弓も調達したかったが、時間もないしよくチューンした自分用の弓でないと邪魔なだけだ。だが5Bの楽屋には遠い東の神秘の国ジャパンで学校などに導入されている凶悪な暴徒鎮圧用スピア、通称ジャパニーズ・サスマタがあった。これはシスターが普段訓練している槍に使い方が似ている。ゾンビ殲滅に役立つ。
〇
「ようこそ、アリア・アニマ」
アリアはヨウ博士を無視した。アリアの歌を止められるものはアリアしかいない。ゾンビの報せは入ってきている。客席後方のミッキーからのハンドサインで連絡済みだ。だがここでアリアがパフォーマンスを止めてしまえば5Bの番が来ない。
……あの頃。サンフランシスコの最前線だったかつての5B。末席だったアリア・アニマとの立ち位置は逆転した。だがサンフランシスコの底辺からアリアは5Bに憧れていた。だから5Bにチャンスを与えたい。見捨てられ、拾われ、チャンスを与えられた5Bに。
「いい気なものだ」
「アリアの邪魔はさせねぇぜ」
「フッ。ミッキー・ローリネイティス。どうした? 歌姫のホイットニー・ヒューストンを守るボディガードのケビン・コスナーのつもりかね? それとも未だにジョン・ウェインに憧れるカウボーイか?」
「本当のことを言うとケビン・コスナーの映画じゃ『ダンス・ウィズ・ウルブス』が好きなんだ。ゲイリー・クーパーの再来だぜ。ああ、『フィールド・オブ・ドリームス』も捨てがたいな。俺が“それ”を、“ゾンビ殺し”というフィールドを作った。やってきたのは過去じゃなくて未来だがな。その未来の象徴が、かつてはチャールズ・ディーン・ノーマンで、今はアリア・アニマだ。邪魔はさせねぇ」
「すると言ったら? すまんね、カウボーイ。我らの国の男子は皆ブルース・リーとリー・リンチェイとジャッキー・チェンに憧れるのだよ。だが私はひねくれものだ」
ヨウ博士がポケットに突っ込んでいた左手を抜く……前に!
映写技師はフィルムを止めてくれ。シアターのスタッフ、用意はいいな? 渡したメモの通りに読んでくれ。
ピンポンパンポーン。
“この後、大変刺激の強いシーンが流れます。心臓の弱い方、小さなお子さんなどはしばしの間ご退場いただき、ご希望の方には本作品の入場料の二割の払い戻しに応じます。サービスカウンターへお越しください。また、本シーンをご覧になって体調不良に陥った方には、セラピーや温かいお風呂、ネコとの触れ合いなどでのケアをお勧めします。”
ピンポンパンポーン。
ヨウ博士がポケットに突っ込んでいた左手を抜くと!
OMG! ヨウ博士の左の手首から先に丸ごとクマの手が移植されているではないか! 恐るべき長い爪は血でメノウのように濁り、残虐に輝いている! メリーポピンズ製薬カリフォルニアラボで左手をミランダに破壊されたヨウ博士は、その左手にクマの手を移植したのだ! なんという神をも恐れぬ悪魔の所業!
「これで斬りつけられるとブルース・リーですら激高するのだよ」
「激高させるだけかよ。殺せねぇのかよ」
「タフガイもそこまでだ。時代遅れのカウボーイ」
「ああ、俺じゃあ無理かもな。老いぼれだ。しかもハゲてる」
「じゃあどうする? 今度ばかりはアリア・アニマをヒロインにして、グレイス・ケリーと腕を組んで、夕日の中を去るジョン・ウェインとはいかないぞ」
「ゲイリー・クーパーだバカ」
「冗談もこれまでだ」
クマのパンチがキング・オブ・ゾンビキラーめがけて振り下ろされた途端、ヨウ博士は急遽行動を中止した。
「……まぁいい」
「まぁいいだぁ?」
「対バンの後でいい」
ヨウ博士の中に生じた感情は何だったのか。まさか、情か? 5Bに対し、使い捨ての5Bに対し、勝てるはずもないアリア・アニマとパフォーマンス対決をさせてやろうという温情だというのだろうか!?
CZK5 19-4-A
「エクセル! まだ生きてる冷蔵庫が見つかったわ!」
「本当に? ワード!? 中に入ってるは、えぇ~と」
「クラウン・コーラよ! それもキンキンに冷えたのが何ダースも! 両手じゃ数えきれないわ!」
「Awesome! 今日からクラウン・コーラパーティね!」
クラウン・コーラ 全米のイチバンマーケットにて大好評発売中
CZK5 19-4-B
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
5Bのパフォーマンスが終わった。勝負にもならなかった。
「無駄な時間だったな」
「無駄? どうかな」
ヨウ博士の言葉をミッキーが否定した。
「無駄じゃねぇ。やつらは刹那を生きている。俺たちゾンビキラーにもそりゃあルックスは必要だ。アリア、チャールズ、サイコ・ビッチのブリテン女、ベラトリクス・サンダーランド。やつらもいずれ老いる。だが渋みも増してくるってもんよ、俺みてぇにな。ゾンビキリングが出来ればランクはそんなに下がらねぇが、まぁルックスはあるに越したことはねぇ。だが、アイドルってのはそうはいかねぇんだろ? ゾンビキリングの世界以上のジェットコースターで人気の上下がある。それに賞味期限も短い。まだ戦えるうちに戦わなくてどうする? わかるかタコ。これが北米大陸人のスピリット、三億総カウボーイだ。あのブロンド共も結構カウボーイしてるぜ」
「バカバカしい。実に……。アリアを捕まえよ」
その時だった!
「コンチハァーッ!」
階段に築かれたバリケードを一発で蹴り壊し、一時は最強のゾンビキラーとミッキーに認められたチャールズとその妹、さらに友人の殺人修道女がエントリー!
「あぁらこんなところでキング・オブ・ゾンビ殺しに謁見出来るなんて畏れ多いぜ!」
「ジャパニーズ・シラジラシーだぜ、チャールズ・ディーン・ノーマン」
「いい仲間を持ったな、とジ・アンダーテイカーのメンバー全員に言ってやりたいぜ。ここで会ったが百年目だぜファッキン・マッド・サイエンティスト。こいつを見ろ。俺の体の……一部だぜ。そのクマの手以上にな」
チャールズはブンブンとクギバットを振り回して挑発した。
「シスター、オーディエンスの避難誘導を頼む」
「頼んだぜ、ヒットガール」
キング・オブ・ゾンビキラーはやはりオミトーシだったか。
「私が劣勢だな。致し方なし。ここは退こう」
ヨウ博士は白衣の左ポケットに入っている何かを取り出すために右手を伸ばして四苦八苦し、そして何かタバコのパッケージ大のものを取り出した。
「我々のいるこの屋上には爆弾が仕掛けてある。わたしはお暇しよう」
バルバルバルとローター音。ヘリコプターが屋上の上空でホバリングし、ヨウ博士はクマの手内蔵の射出装置とロープ巻き取り機構でクマの手を飛ばし、ヘリコプターを掴んでロープを巻いて撤退した。そして、5Bを残したまま起爆装置のスイッチを押した。
KABOOM!
屋上は炎に包まれた! と思われたが一瞬でそこにいる人物全員が死ぬとかそういうことはなく、意外と爆発は小さく、出入り口が爆発で塞がれただけだった。それでも火事は起きている。素早い避難が必要だ。
「ワード、わたしたちも早く逃げないと!」
「ええ、ファッキン・アリア・アニマをブッ殺してからね。それからでも間に合うわ」
ピーガガガ……。ヘリコプターのスピーカーが割れた。
「ご苦労、ワードくん、エクセルくん、パワーポイントくん、アクセスくん、アウトルックくん。残念だが君たちはゾンビに殺される」
「なんですって!?」
「君たちに渡したアンチ・ゾンビ・ワクチン。あれはただのビタミン剤だ。君たちはゾンビに噛まれると死ぬ。君たちにあんな貴重なものを渡すはずがないだろう。少し考えれば……。いや、君たちに考える脳はなかったな。プロデューサーの言いなり。事実、君たちはわたしの言いなりだった」
「……」
チャールズは舌打ちし、ゾッとする程冷たい目で遠ざかっていくヘリを睨みつけた。全てを察したのだ。
「ミランダ」
「考えていることはわかるわ。あのマッドサイエンティスト、殺しましょう」
5Bは引き際を察した。
だが出入口は爆発炎上! 逃げるには屋上から飛び降りるしかないが……。
「わたしが行くわ!」
アウトルックは体に鋼鉄製ワイヤーを巻き、屋上の縁からタフにダイビングした!
「ギャア!?」
しかし鋼鉄製ワイヤーは硬い! 飛んでしばらくしたところでアウトルックはワイヤーを結んだ地点から体が両断されて死んだ! アウトルック(享年22歳)。
「わたしが行くわ!」
アウトルックは頑丈すぎる鋼鉄製ワイヤーを巻いたことで死んだ。そのため学習したアクセスは、ワイヤーよりは適していそうなアドバルーンのロープを結んで屋上の縁からタフにダイビングした!
「ギャア!?」
しかしアドバルーンのロープはマックイーン・ビルディングの標高より長かった! アドバルーンのロープは命綱として機能せず、アクセスは地面に激突して死んだ! アクセス(享年30歳)
「わたしが行くわ!」
ワイヤーは硬すぎた。長すぎるのもダメだ。そのため、パワーポイントは伸縮性に優れたバンジージャンプ用のヒモを見つけ出し、それを巻いて屋上の縁からタフにダイビングした!
「ギャア!?」
しかしゴムは伸びるのだ! 命綱がびよんと伸び、結局マックイーン・ビルディングの標高を超える長さに伸びたゴムのせいでパワーポイントは地面に激突して死んだ! パワーポイント(享年19歳)。
「わたしが行くわ!」
ワイヤーは硬すぎ、そして伸びしろを計算し、エクセルは偶然見つけたバンジージャンプ用のゴムを使って屋上の縁からタフにダイビングした!
「ギャア!」
おお! 今度はちょうどいい長さに収まったぞ! しかし、ゴムを腰に巻いただけだったので弾力で内臓が破裂し、さらに途中でゴムはほどけてエクセルは地面に激突して死んだ! エクセル(享年20歳)。
「わたしが行くわ!」
全ての失敗例を頭に入れ、ワードは偶然見つけたバンジージャンプ用ゴムロープのちょうどいい長さをハーネス着用して、屋上の縁からタフにダイビングした!
「ギャア!?」
イディオット! もう片側をどこかに固定するのを忘れていた! ワードはそのまま地面に激突して死んだ! ワード(享年21歳)。
「アリア、消火器あったぞ。これで火を消して外に出よう」
「……」
「感傷に浸るのはもう少し後にしておけ。今は出るぞ、アリア」
一方のチャールズは屋上から降りていた垂れ幕を巻き取って回収し、半分に折ってUの字にビルから垂らした。そしてディスプレイされていたフェラーリに乗り込んでウィンドウを開け、そこから逞しい腕を突き出して横断幕の端を巻きつけ、アクセルを踏み込んだ。
「イピカイエ、ザマぁみろ!」
フェラーリはフェンスをブチ破って空へと飛び出す! そしてUの字になった垂れ幕は……。どんどんUの谷が浅くなり、それを認めたミランダは垂れ幕の滑り台に飛び込んだ。
「ゾンビ共によろしく!」
フェラーリに引っ張られた垂れ幕の滑り台は斜めの直線になり、それはトランポリンの役割を果たしてミランダを空中に跳ね上げてヘリを銃の射程距離に入れた!
BLAM!
ローター部分をスナイプし、ヘリは黒煙を噴き出して歪に回転し、どこか遠くに墜落した。
おお、なんというノーマン兄妹! 常人ではない! 常人ではないアイディアと連携、そしてカウボーイに恥じぬクソ度胸! 素晴らしいテクニック!
「ミランダァー!」
だがこの後にもまだミッションは残っている! 空中のミランダを助けねばならない。フェラーリと垂れ幕が作ったトランポリンの範囲を飛び越え、さらに重力の支配が戻ってトランポリンの機能が失われている!
そのためチャールズはフェラーリを捨て、垂れ幕を命綱にミランダを空中ブランコじみたアクションでキャッチした。しかし次に襲ってくるのは慣性の法則! この長さのターザンロープはあまりにもデンジャラスだ。マックイーン・ビルディングに叩きつけられただけでミランダは絶命するだろう。片手に垂れ幕、片手にミランダのチャールズも危険だ。
「風呂を沸かして待っとくぜ」
ミランダ空中ツアーの終点は、マックイーン・ビルディングの庭園の池。空中でリリースされたミランダはその池に落ち、事なきを得た。チャールズはビルに叩きつけられる直前に銃でガラスを撃ち、そこから安全にビルの中に戻った。
OAKLAND 20XX
「ハァッハァ! お約束通り! ピーチソースたっぷりのホットファッジサンデーだ!」
「……ありがとう、スチュワート」
ピンクに輝く最高のデザートが二つテーブルに。ミンディ・マクレーディ改めシスター・グレイシャは落ち込むアリアとジャパニーズ・ダルマ・フェアリーのような顔でだんまりのミッキーの様子を窺った。
「憧れてたんだな、やつらに」
スチュワートはカウンターに頬杖をついて白い歯を覗かせた。ミセスに続いて二人目となる単独でのフランケンシュタイン殺害を成功させたコウガはまた謎の果実を咀嚼し、栄養を補給していた。
「使い捨てられるなんて」
「ああ。やつらはそうだった。なぁ? 二人のブロンド・ガール」
テレビでは、新たなにサンフランシスコで人気の出始めている新しいアイドル……。どんどん奇を衒い、過激になっていくパフォーマンスの特集だ。次から次へ。そして使い捨てられる。少なくとも、ゾンビキラーとしての地位を確立しているアリアはもう捨てられることはない。……いや、わからない。だがしばらくは大丈夫だ。
「若いってのはいいことだ。感傷に浸ることも結構。それに女に“賞味期限”なんてひでぇ言葉を使うつもりもねぇぜヘッヘッヘ。だが物事には“いい時期”ってのがある。波のように来る。今のアリアは来てる時期だ。若い時間はすぐに過ぎる。ブロンドがロマンスグレーになっちまう前に、楽しめることは楽しんでおけ」
シスターは両手を合わせてお祈りをした。今日死んだすべての人に。そして……。
「カロリーなんて気にしないような若い時間が永遠に終わらんことを」





