1話
証言者1 – RN“クレイジーセクシーブッダ”
「あいつの登場でいろんなことが変わったよ。ラジオも、俺の人生も。やつの登場は鮮烈で、そして……」
証言者2 - RN“俺はお前の上司より偉い”
「嘘でもいいと思ったんだ。嘘でもいいから楽しみたかったし、嘘でもよかったから一人……もしくは二人の人間が、幸せになるかもしれないと思ったんだ」
証言者3 – RN“レイジング・ニンジャ・キルズ・ファッキン・グッドルッキングガイズ”
「俺は一発でわかったね。でもこれは一つのポーカーであり、チキンレースだった。俺たちとあいつら、どちらが本当に“純粋”なのか。負けた方が“純粋”でいられるなんて、因果で皮肉なものだ」
証言者4 – RN“キャプテン・ファック・スパロウ”
「非常に興味深い事例でした。社会実験だったのただのイタズラだったのか。はたまた真実? 僕は真実であったかのように振舞った。その方が楽しかったからだ」
証言者5 - チャールズ・ディーン・ノーマン
「やつは最高だった」
証言者6 – ミランダ・レイチェル・ノーマン
「あいつは最低だった」
〇
「イェアー!! 全国一億人のリトルキラー! DJコニーの“今週のゾンビ殺し”の時間だ! 今日もクレストゲートパークのスタジオから、俺が飽きるまでお送りするぜ! んああ、今日は特別編だ。電話が繋がっている。よぉう!? 俺の声が聞こえるか? お前の名前は!?」
「ノ……いや、“電車屍”です」
CALIFORNIA ZOMBIE KILLERS
EP20 NOBUNAGA NOBELNITRO
「最近なんかつまんなぁい」
読者諸君にとってはルーク・スカイウォーカーの父親がダース・ベイダーだったってことや、タイラーの正体が“僕”だったってことや、あれだけ暴れたインドミナス・レックスは結局旧式のT-レックスにシバかれて死ぬことくらいに驚くべきことではないが、北米大陸最強の兄妹は瞬く間にジャパンで不吉な数字として誰も背番号につけたがらない四十九の数のゾンビを殺害し、車のラジオのボリュームを全開にしてコーラとバドワイザーでよろしくやりながらサンフランシスコに戻った。そしてパンダ・キッチンのウナジューとチャイニーズローストキャメルで炭酸と脂を口内でケミカル反応させていた。
「何がつまらねぇんだ?」
「ゾンビを殺すのもラジオも、もうマンネリ」
「贅沢言うな。俺はお前が初めてブラつけるのよりずっと前から“人生”やってんだぞ。それとも新しい趣味でも探してみたらどうだ? 六十年代から始まったジョギングってやつだぁ、お前もきっと気に入るぞ」
「一番飽き飽きなのは兄さんのジョーク。このコーラよりひどいし飽きてるわ。何しろ兄さんが初めてコンドームつけるのより前から聞かされてるんだもん」
「じゃあ、暇つぶしに賭けてみるか。今日、俺のリクエストがDJコニーに届くかどうか」
「何をリクエストしたの?」
「それは聴いてのお楽しみ」
今日もオープニングはストーンズの『ジャンピン・ジャック・フラッシュ』だ。
「イェアー!! 全国一億人のリトルキラー! DJコニーの“今週のゾンビ殺し”の時間だ! 今日もクレストゲートパークのスタジオから、俺が飽きるまでお送りするぜ! んああ、今日は特別編だ。電話が繋がっている。よぉう!? 俺の声が聞こえるか? お前の名前は!?」
「ノ……いや、“電車屍”です」
今日の放送はオープニングから、いかにもオタクな歯切れの悪い男と繋がった。DJコニーの選曲センスはバツグンだが、普段からトークは九官鳥の集会よりつまらない。特にミッキー・ローリネイティスへの称賛の文句は飽き飽きだった。だからこそ、六十年代から始まったジョギングとかいう趣味にまで手を出しそうな程退屈なミランダは少しばかりの興味を以て、ラジオに耳を傾けた。
トークの内容はこうだった。
「ラジオネーム“電車屍”か。随分と面白れぇことがあったんだってな?」
「あ、ああ。あれはいつも通り、僕がサンフランシスコの日本人街のヘンタイショップにヘンタイコミックを買いに行った帰りだった。あそこはヘンタイの殿堂で、実に三百万ドル相当のヘンタイコミックやヘンタイビデオがある。中には強烈すぎる程にもヘンタイで、頭がくらくらするくらいなんだ」
「OK、電車屍。ヘンタイの話はあとで聞く。場合によってはお前のところにその強烈すぎるヘンタイコミックを借りに行くぜ」
「でも僕はヘンタイコミックのカワイイジャパニーズガール……ハァハァ……じゃなくて、普通の人間の女の子に恋をしそうになっている。こんなの初めてだ。デートだってしたことないんだぜ」
「ああ、その要領を得ない回り道ばっかりのトークじゃそうなりそうだな。遠回りが多すぎて六塁打が打てそうだ。女はデートには三回連れて行けばいい。一塁、二塁、三塁。次はホームインだ」
「そう。あれはヘンタイショップの帰り道だった……」
CZK5 20-1-A
「ミランダ! まだ生きてる冷蔵庫が見つかったぞ!」
「本当? 兄さん!? 中に入ってるは、えぇ~と」
「クラウン・コーラだ! それもキンキンに冷えたのが何ダースも! 両手じゃ数えきれないぜ!」
「Awesome! 今日からクラウン・コーラパーティね!」
クラウン・コーラ 全米のイチバンマーケットにて大好評発売中
CZK5 20-1-B
ラジオネーム“電車屍”ことNOBUNAGA NOBELNITRO(25歳)。
サンフランシスコ市内のオフィスにて一般職として働くビジネスパーソンだ。給料はそんなに良くない。ただし酒もタバコもギャンブルもやらない彼は、ヒーローフィギュアやヘンタイコミック、アイドルの応援などに金を使う。サンフランシスコ生まれサンフランシスコ育ちで、ほとんどサンフランシスコから出たことがない。だからゾンビを見たこともほぼない。
「ヒャッハー! ここは通さねぇぜ!」
彼は路面電車を普段から使っていただった。その路面電車で帰宅のさなか、サンフランシスコで暴れる腐れジョックスのレックス様一味の部下の一人、通称“ラプトル”が降り口に張り込み、みかじめ料として追加料金を強奪するという非人道的行為を行っていたのだった。こんな非道、実際アラゴルンでさえやつあたりでガンダルフのタマキンを蹴り上げるくらいの非人道的行為だ。
「おぉ……。ワシにはもう孫にレモネードを買ってやる金しか残っていないんじゃ……」
「そいつを俺に寄越しなぁ!」
「今日は孫の誕生日なんじゃ……」
「そいつぁ偶然だ! 俺様も今日が誕生日だ」
ラプトルが腕を振り回して威嚇したその時、きゃわいらしくキャッと一人の女性が声をあげた。チンピラの振り回した腕が掠った……のではなく、テレビで『ドラゴンボールZ』の再放送を見たくて急いで降車したかったノブナガとぶつかってしまったのだ。その日はプレゼント応募のためのキーワードの最後の一文字が発表される日だったからことさらに急いでいた。そして女性にぶつかって勢い余ったノブナガは、ラプトルにタックルをかました形になり、腐れジョックスの取り巻きはバスの外に放り出された。
「ああ……運転手さん! 出してください!」
急いで降りたかったノブナガのその言葉は、運転手には「ラプトルを弾き落したから急いで発車させて振り切れ」と認識され、「発車しまぁす」とご機嫌なアナウンス。路面電車は走り出し、女性たちは立ち上がって拍手喝采した。
「あなたとても勇敢なのね」
ノブナガに直接声をかけたのは、ノブナガが図らずもタックルを掠らせてしまった女性だった。
彼女は非常に細身で肉がなく、男子が「そこだけは肉があれ!」と願う場所もミラン……おっとこれはセクハラになる。要は平坦だった。白人離れして華奢で、まるでジャパニーズ・アニメーションに出てくるジャパニーズ妄想エルフみたいに色白で、ほんのりピンクなほっぺがかわいらしかった。それでも大人びた空気があり、ノブナガと同年代か少し上くらいだったという。
「わたしと祖父を助けてくれてありがとうございます。これで弟の誕生日パーティに間に合います。是非、お礼をさせてください。そうだ! あなたも今日のパーティへ来てください」
「い、いえ僕は家でテレビを観なければなりませんので……」
「あら、わたしの弟みたい。毎週この時間になると、『ドラゴンボールZ』にかじりつくのよ。今日だってパーティそっちのけでスーパーサイヤ人だわ」
ノブナガがこれから逆方向の路面電車に乗って家に帰るのより、次の駅で彼女と降りて彼女の家で『ドラゴンボールZ』を観る方が楽そうだった。きっと一つ前に駅、つまりノブナガの降りる駅ではラプトルが張り込んでいるだろう。
だからノブナガは期せずして、女の子の家で開かれるパーティに行った。要はこんな話だった。
「そいつぁスゲェな」
DJコニーは嫌に盛り上がってノブナガのトークを讃えた。
「でも結局お前は彼女の家で『ドラゴンボールZ』を観てたんだろう?」
「彼女の家族はみんな『ドラゴンボールZ』が好きだったんだ。観たかい? この間の回! 二十倍界王拳かめはめ波を食らっても、フリーザは“ちょっと痛い”だけなんだぜ! みんな二十倍界王拳かめはめ波が決まったと思って大喝采だったのに」
「『ドラゴンボールZ』の話題は一旦フリーズしろオタク野郎」
「でも僕は『ドラゴンボールZ』のオリジナルライターと同じで日本の血が流れているんだ。僕たちアジア人は勉強が得意だから、アジア人はガリベンでセクシーじゃないステレオタイプが一般的だ」
「訂正しろオタク野郎。ブルース・リーを除く、と言え」
「……ブルース・リーを除く。『ドラゴンボールZ』を輸出してくれたお礼で、僕は彼女からお土産まで貰ったんだ。きっと彼女もコミックのファンだよ」
「いいか電車屍。世の中にはオタクが山ほどいる。だがオタクって公言する人間はすくねぇんだ。ジョックス野郎にキャンディ・アスをキックされた日々を思い出せ。残念ながら、お前の恋はそこまでだ。大人のレディは、いつまでも『ドラゴンボールZ』を見てることを隠さない男を恋の対象としない。ああ、『ドラゴンボールZ』は七歳、十七歳、二十七歳の男が見る。だが十七歳と二十七歳はそれを隠すんだ。一方で女は七歳で『ハンナ・モンタナ』を観て、十七歳で『トワイライト』を観て、二十七歳で『セックスアンドザシティ』を観る。女はアニメを観ねぇしコミックも読まねぇ。その箱はきっと弟のイニシャルの入ったクッキーだ」
「でも箱に“S&W”って書いてある。これはキャプテン・アメリカの本名のスティーブ・ロジャースと、相棒のウィンターソルジャーの頭文字だろう?」
その時、DJコニーと北米大陸の全リスナーが叫んだ。
「そいつはスミス・アンド・ウェッソンだ!」
当然チャールズも叫んだ。
「おい、こいつは義理のパーティお誘いじゃねぇかもしれねぇぞミランダ!」
「わたしは十七歳だけど『トワイライト』なんて観ないわ。バカバカしい。ラジオに戻りましょう」
……。
「おい電車ァ! そいつはスミス・アンド・ウェッソン、つまり銃だ!」
「銃だって!?」
「参ったぜ。いいかよく聞け電車。この世界にはフリーザもセルもブウもいねぇ。戦う敵がいねぇから、お前は英雄にはなれねぇ。だが“Z戦士”にならなれる。そのスミス・アンド・ウェッソンを使えばな」
「どうやって?」
「ゾンビを殺すんだ。男を見せてやれ。この世界じゃフリーザを殺すのより名誉でカッコいいことだぜ」
「で、でも僕は……。オタクで」
「残念な電車だな。言い訳ばかりだ。初めて小遣いをもらった日から、言い訳をするたびに一ドル貯めてたらもうお前はジーザスだって買える男になっていたことだろうよ。だが俺はお前が気に入った。正確にはお前のストーリーにだが、俺には人脈がある。好きなゾンビキラーを選べ。お前のメンターにしてやる」
なんだ、またミッキー・ローリネイティスの提灯ラジオか、とミランダはウンザリし、バンブーチョップスティックを折ってパンダ・キッチンのペーパーボックスに入れた。
「じゃあ、僕はチャールズ・ディーン・ノーマンをメンターにしたい」
……。
「兄さん」
「俺のリクエストが届くかって賭け、負けちまったが、金は払わねぇ」
「それはズルよ。どうせ何がかかっても俺のリクエストした曲だ、って言ってガメる気だったんでしょう?」
「近々金が必要になりそうなんだ。あのクソッタレDJと電車野郎をブッ殺したら、保釈金が必要だろう?」





