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California Zombie Killers  作者: 三篠森・N
EP19 タワーリング・イン・ブロンド
83/86

2話

「あ、牛乳屋さん!」


「牛乳? とっていたっけ?」


「勝手に注文してごめんなさいベラトリクス。わたしが飲んでるの」


 ベラトリクス・サンダーランドとグレイシャ・ゴールドグレイプの朝は早い。ベラトリクスはエッセイの執筆や麻酔薬の調合、ラジオ出演の準備、地元のお祭りのスピーチなどで忙しい。一方のシスター・グレイシャは昔からの習慣だ。カワイイ・カブキ・キッサの朝のラジオ体操にも参加する。そのためベラトリクスよりも早起きで牛乳をよく飲み、ラジオ体操でトレーニングしたため約二年で身長が十センチ以上伸びた。


「とってくるね!」


 牛乳を取りに行くのは二の次だ。シスター・グレイシャの本当の狙いはポストに届く新たな友人からの手紙だ。


“親愛なるシスター・グレイシャ・ゴールドグレイプ様”


 アリア・アニマからの手紙だ。全米でも珍しい、出した手紙の十五倍の手紙をもらうアリア・アニマ! その珍しい手紙をシスター・グレイシャは受け取った。内容は基本的に他愛のないティーンエイジャー同士の近況報告であり、ちょっと変わっているのは超一流ゾンビキラー同士のあるあるネタや情報交換だが、それでも十九歳の少女と十八歳の少女同士のキャワイらしいものだ。

 アリア・アニマ……。今じゃテレビやラジオをつければ嫌でも彼女の名前を聞くことになるが、彼女のパーソナリティについてはジ・アンダーテイカーのメンバー以上に同じティーンのシスターが知っている。

 だがどうだろうか? それでもアリア・アニマはゾンビ殺し十三年の歴史でようやく現れたミッキー・ローリネイティス越えのチャンピオン。世間は彼女のことを殺戮と蹂躙のことだけ考え、ゾンビを素手で殺して食すサイコだと思っているだろう。ゾンビ殺し十三年の歴史で週間一位に輝いたのはミッキー・ローリネイティス、ベラトリクス・サンダーランド、アリア・アニマの三人。だがベラトリクスが一位になれた理由はミッキーが新婚旅行に出かけていて今週は休むと宣言したから繰り上げの一位、そしてジ・アンダーテイカー結成直後で使い物にならなかったアリアにインストラクションを施していてミッキーが身動き取れなかった週のラッキーだ。

 実力で掴み取ったマンカインドの少女は、キング・オブ・ゾンビキラーの弟子。なんというドラマチックな継承であろうか。


「ねぇベラトリクス」


「なぁに?」


「しばらく外泊してもいい?」


「行き先により」


「サンフランシスコとオークランド」


「ドクのところ?」


「そんなところ」


「もうヤクブツは抜けたわよね? ヤクの売人が声をかけて来たら?」


「顔面パンチで逃げる。もし応じたら、ベラトリクスからわたしに顔面パンチの刑」


「よく出来ました。いってらっしゃい。車も好きなのを使いなさい」


「ありがとう。お土産買ってくるね」


 言えるはずもなかった……。

 サンフランシスコに行く理由が、Bellatrix(ベラトリクス) Sunderland(サンダーランド)を“Bランク”に下げてしまった唯一のAランクゾンビ殺しでイニシャルもAのあいつからのお招きだったなんて。




 CZK5 19-2-A

「エクセル! まだ生きてる冷蔵庫が見つかったわ!」

「本当に? ワード!? 中に入ってるは、えぇ~と」

「クラウン・コーラよ! それもキンキンに冷えたのが何ダースも! 両手じゃ数えきれないわ!」

「Awesome! 今日からクラウン・コーラパーティね!」

 クラウン・コーラ 全米のイチバンマーケットにて大好評発売中

 CZK5 19-2-B




「本当にこれをわたしたちがやったの……?」


 ワード、エクセル、パワーポイント、アクセス、アウトルックの五人のブロンド“5B”はゾンビ殺し初心者向けフィールドであるカリフォルニアで初めての殺戮を行った。もちろん、下心ありでお礼のご奉仕待ちの、Aランクアイドル時代に彼女たちのサポートメンバーだったDランクゾンビキラーも保険として同行してはいたが、アンチ・ゾンビ・ワクチンを打って人間を辞め、憎い憎いあのファッキン・アリア・アニマと同じマンカインド同然の力を手に入れた5Bは思い切りよく銃を撃ち、打撃武器で頭を砕いた。

 ニック・クロフォード(享年31歳 ゾンビ年齢5歳)。日本かぶれでなんでも(チョップスティック)で食べた。ケーキ? パスタ? そんなの簡単だ。リアルジャパニーズに憧れる彼はステーキさえチョップスティックで食べた。エクセルにハチの巣にされた彼をステーキにすることは難しいだろう。ハンバーグならなんとか……。

 アンドレ・マーバヌーザデー(享年21歳 ゾンビ年齢9歳)。カレンダーをめくるのを忘れがち。毎月五日を超えたあたりでめくる。パワーポイントの棍棒が胸を掠ったアンドレの皮膚はぺろりとめくれて内臓がコンニチハした。

 ポール・ヘンダーソン(享年26歳 ゾンビ年齢3歳)。スーファミのカセットにすぐフーフー息を吹きかける。ただし唾を一緒にかなり飛んでしまうのですぐカセットをダメにする。そして兄貴にブン殴られる。今のポールはもう息もしない。かつてはサンフランシスコを席巻したアイドルに唾を吐きかけられても喜びはしない。

 未熟かつ稚拙、力量のなさゆえに、ゾンビたちはいつも以上に不運で凄惨に殺された。だがこの惨殺が意図したものであり、ゾンビに対する一種の舐めプであるというのならそれはそれで新しい新ジャンル! ゾンビ殺したちは自分たちの技量や力量を見せつける“殺し方”にこだわってきたが、凄惨にゾンビを殺して殺されたゾンビを侮辱するやり方はあまり注目されていない分野だ。だがそういった殺しが未注目だったのはゾンビに対する敬意があるからではない。北米大陸某国人は強さとカッコよさこそ至高としているからだ。それで言えば5Bの殺し方は温かいバターを切るのより楽で実際5Bは口ばっかりは達者なトーシロである。

 だが手段として最も凄惨な方法を取れるアリア・アニマへの挑戦状にはギリギリOKなラインだろう。これなら今夜はサポートメンバーにベッドでお礼のサービスが出来る。過去にどうだったか、他の国でどうだったかは知らないが、若手芸能人が性を武器にして仕事をゲットしたりすることはZ暦が始まったこの国では日常茶飯事。むしろそれを拒んでいたからアリアはたらいまわしだった。


「ゾンビ殺しは出来た。後はファッキン・アリア・アニマを殺すだけ」


 準備は着々と進んでいる。もうロリじゃなくてもいいからと目を皿にして女体を求めているジャパン出身のヤク中デブの作詞作曲家はウデは良かった。『白皙優位』程のパワーはないが心機一転捲土重来の一発目には不足のないナンバー。あとは振付、レコーディング……。歌はどうせ加工するしイベントでは口パクだから振付さえすればなんとかなる。


「ねぇ、もしかしてわたしたち、ファッキン・アリア・アニマどころファッキン・ニンジャップにも勝てない?」


 パチパチパチと芝居がかった仕草で黒幕のヨウ博士の登場だ。


「ご苦労。一つ決めたが、私は君たちを褒めることもしかることもしないことにした。君たちが調子に乗れるように煽てる、君たちが調子に乗りすぎるようなら宥める。合理的で機械的に接する。まず、ゾンビ殺しは最低限が出来ているだけだ。だがアリア・アニマと同じくゾンビに対して不死身、さらにアンチ・ゾンビ・ワクチンの残りがあったとなれば、ミッキー・ローリネイティスはクマの爪の義手で斬りつけられたブルース・リーめいて顔の色を変える」


「ブルース・リーって誰?」


「君たちをしからないと言ったが前言撤回する。子供は殴りたくはないが無知を恥じろ!!! ……。よし、私の怒りは去った。私が悪かった。君たちの知性や知識なんかに期待して」


「……アンチ・ゾンビ・ワクチンはスカベンジャーズがブッ壊しに来たと聞いたわ。スカベンジャーズはどうするの?」


「何もしなくてもあのチームは空中分解寸前のバラバラサークル、それにファッキン・スカベンジャーズがゾンビワクチンを破壊しに来たのはクソッタレのラジオDJに脅迫されたからだ。クソッタレのラジオDJが再度脅迫しない限りスカベンジャーズは動かんし、ラジオDJは全手柄をジ・アンダーテイカーのものにしようとジャパニーズ・エコヒーキしている。むしろジ・アンダーテイカーは積極的に動いてくるだろう。コウガ・アヅキは実際侮れぬニンジャだ。君たちがゾンビは殺せても、対人戦も可能なゾンビキラー相手に勝てるなどと思い上がるな。それではダンスの時間だ」


「ダンス?」


「歌詞と振付は最低限覚えているだろう? それでいいから踊れ。そして口パクしろ。どうせどの曲も君たちが歌うのはレコーディングの一回限りだろう?」


 言われるがままにアイドルスマイルで5Bは踊った。今日日製薬会社の営業でも接待の場で取引先に「踊れ」と言われても踊らないのに、こいつらはドス黒い湿原の上でビチャビチャと踊った。




 〇




「こんにちは」


 シアトルからサンフランシスコまでドライブし、そこからは自転車に乗り換えたシスターはヒーコラ言いながら“シスコのブスな妹”オークランドまでやってきて、スチュワートのレストランに入った。今日は貸し切りだから他の客はいない。店内にいたのはアリア・アニマ、コウガ・アヅキ、サミュエル・シュピーゲル・スチュワート・セブンイレブン・ソニービーンだ。


「こんにちは、シスター」


「お招きありがとう、アリア」


「コウガ、スチュワート。こちらわたしの友人。シスター・グレイシャ・ゴールドグレイプよ」


 シスター・グレイシャは久しぶりの都会と精いっぱいのオシャレで新調したメガネに大きなキャスケット帽。ベラトリクスのコーディネートだ。一方のアリアはいつも通り。黄金郷でも見つからない程美しいブロンドにグリーンのメッシュ、オレンジとグリーンとレッドのシャツとベスト、道化師めいたルージュに黒いネイルだ。素材のモノが違いすぎるとシスターは少し落ち込んだ。


「ハァッハァ! そいつぁいい! 俺ぁそういうのはスッゲェいいと思うぜ! ジ・アンダーテイカーとスカベンジャーズは宿敵同士? そういうのを煽るやつもいるし実際俺らのボスはそういう考えだが、ティーンエイジャーに必要なのは! ティーンの友達だぜ。ああ、俺の店にようこそ、シスター・グレイシャ。君も食後のデザートにはアリアと同じものを? ピーチソースたっぷりのホットファッジサンデーだぜ!」


「俺も同感だスチュワート。俺の相手はツブラヤのみ。そして俺自身、アリアと同い年の頃は友人に助けられた。ユウジョウ、ドリョク、ショウリは俺の国のガキがブッダの教えの次に教わる大事な三原則。その大事さは俺が証明している。ショウリのラストピースになったのはアリアだ。そのアリアの友達なら俺は歓迎する」


 サイコ・コックとリアルニンジャは思っていた以上にいいやつだった。人見知りを克服しつつあるシスターは次々と運び込まれるスチュワートのコース料理に舌鼓を打ち、四人でジャパニーズ・ババヌキまでやって、ようやくピーチソースたっぷりのホットファッジサンデーが運び込まれた!


「揃ってるかクソッタレ共!」


 BAM!

 突如、袖なし革ジャンのグラサンハゲが扉を蹴り開けた。腕の表面には太い血管が浮かび、スキンヘッドのてっぺんから湯気が上がっている。手に持っているのはビデオテープだ。


「ケンカ売ってきたゴミ共がいる。全員ブチ殺すぞ! まずはビデオを見ろ」


 ビデオデッキにIN!

 そこに映っているのは、下積み時代のアリアが憧れたかつてのサンフランシスコの人気者によるヘッタクソなゾンビ殺戮をミュージックビデオ風に仕立てた映像だった。どこか『ナチュラル・ボーン・キラーズ』を彷彿とさせる造りだ。それが、『ナチュラル・ボーン・キラーズ』に憧れている生まれながらの殺し屋ミッキー・ローリネイティスの逆鱗に触れた! しかしアリアの心の去来したのは悲しみだった。かつてはサンフランシスコであんなに輝いていたのに……。同じゾンビキラーに転身したのに自分と5Bはこの差だ。


「ジ・アンダーテイカーとの対バンがお望みだそうだ! このミッキー・ローリネイティスに構ってほしいとは百年早いぜ! この欲求不満の出来損ないどもにはまずホームレスのチンカスでも送ってやるか!? 見ろよ、このブスのムーブ!? ハァッハァ! あんまりにも速すぎるよなぁ? 簡単だよなぁ!? この速さならてめぇの残像とファックするのだって楽勝だろうよ! しかもこいつらはアンチ・ゾンビ・ワクチンを使ってる! その効果でアリアをオンリーワンではないと主張している! こいつらは殺さねぇとめちゃ気が済まねぇよなぁ~!?」


 これが……。これがミッキー・ローリネイティス!! 間近で見たキング・オブ・ゾンビキラーにシスターは大きなショックを受けた。なんて汚い言葉! ノーマンハウスの罰金ボトルがいくつあっても足りやしない!

 同時にこの人物が開拓した競技だからこそ、ゾンビ殺しにはトークスキルが求められるのだと理解した。アリアにチャンピオンを譲ったとはいえ、まだ衰えを感じさせない迫力と言葉の暴力! 依然リスペクトの対象であることは変わりなし!


「ところでテメーは誰だ?」


 これは少々マズい展開だ。ブチギレ寸前のキング・オブ・ゾンビキラー! しかもこのキングはスカベンジャーズを激しく敵視している。


「わたしの友達の……。ミンディよ。ミンディ・マクレイディ」


「ミンディ・マクレイディか。よろしくヒットガール」


 ごっつい手で握手を求められた。それでもミッキーはミンディの正体がスカベンジャーズのグレイシャ・ゴールドグレイプだと気付いていない。眼中にないのだろうか。


「じゃあサンフランシスコ郊外のマックイーン・ビルディングまでこいつらをぶちのめしに行くぞ!」


「今から!?」


「事前に言ったらテメーらはこれはアンダーテイカーの範疇じゃねぇとか言って断るだろう」


「ここに揃ってなかったらどうするつもりだったんだい? ボス」


「だから最初に揃ってるか、って訊いただろう? ミンディ、お前も来い。Aランクゾンビキラーのすごさを見せてやる」

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