1話
むにゅあァ……っとエロティックに艶めかしく動く舌。ベートーベンだって触らせてもらえない程高級なピアノの鍵盤のような美しい歯列、針の一刺しではじけ飛びそうな張りのある唇。
天国でパーツをかき集めても作れないような美しい顔が今、吐き気を催す醜さのダン・タトル(享年33歳 ゾンビ年齢3歳)の腐った肉にかぶりつく! ダンは噛みつかれたショックで痙攣してドス黒い血をバコッ、バコッと肺と心臓の動きに合わせて吐き出した後、動かなくなってアリアのご飯になった。
「いただきます」
骨も肉も腱も血管も血液も関係ない。アリア・アニマの前では等しく獲物! おお、比較的マイルドで省略している直接的でもなければ写実的でもない、アリアの殺しの基本スタイルの描写にて吐き気、頭痛、肩こり、手足の冷え、急に神のお告げが聞こえるなど身体や精神に影響を来した心臓の悪い読者の皆様は今すぐにこのページを離れて家族や恋人、ペットと触れ合ったり食事をしたりお風呂に入ったり、『ブリジット・ジョーンズの日記』『(500)日のサマー』『ラブ・アクチュアリー』などの映画を観てセルフセラピーを行っていただきたい!
出来ればメディアは全て断つべきだ。ラジオを回してもこんなことを聴く羽目になる。
「よぉうリトル・キラァーッ!? 今週のランキングの発表だ。お前らが一番楽しみにしているのは2位の発表だろう? 1位はもう決まってるからな。白皙優位! アリア・アニマがぶっちぎりのチャンピオンだ! 俺の番組のオープニングはストーンズの『ジャンピン・ジャック・フラッシュ』だが、もうアリアの『白皙優位』は『ジャンピン・ジャック・フラッシュ』のカップリングだな! そういう訳で本日一回目の『白皙優位』の時間だ!」
その『白皙優位』を聴いて心臓をバクバクさせる五人のブロンドがいた。こいつらはクソ度胸の強心臓だ。
「ブッ殺してやる……。ブッ殺してやる! アリア・アニマァァァ!!!」
CALIFORNIA ZOMBIE KILLERS
EP19 The Scavengers -The Towering in Blonde–
アリアに強い恨みを持つ五人のブロンドを紹介しよう。その前に、この五人をひとくくりに紹介出来る言葉がある。それは“落ちぶれアイドル”だ。
彼女たちはかつて、現在の北米大陸の芸能最前線サンフランシスコで最も人気のあるアイドルグループだった。若い女の子を好む肥えた芸能プロデューサーに恩に着せられ芸能人となり、“恋愛禁止”の掟を掲げるくせにラブソングを歌い、ライブではスタッフが捕まえてきたゾンビに四十八人がかりでトドメを刺すというパフォーマンスで人気を博した。しかしゾンビを捕まえるどころか現場で踊り食いが出来るアリア・アニマの出現は、ゾンビ殺し業界のみならず芸能界にも影響がデカかった……。何しろアリアの歌唱力は天性のジャパニーズ・オリガミツキ。その美貌もだ。かつてはその大器の片鱗のせいでレーベルをたらい回しにされたアリアはようやく覚醒し、全てのゾンビキラーとアイドルを過去のものにした。そしてこの五人も誰からも見向きもされなくになり、賞味期限も切れてロリコンプロデューサーに見捨てられた。
そんな五人の名前を紹介しよう。
Word(21歳)。リーダー格。現役中は五股していた。
Excel(20歳)。爆乳。この歳で豊胸手術をしなくてもまだ自力で大きくなったかもしれないのに。
PowerPoint(19歳)。いじられキャラ。しかし誰からも見られず、可愛がられないショービジネス上のいじりはただのいじめだ。ドンマイ。
Access(30歳)。このメンバー唯一のアフリカ系でLGBTでヴィーガン。
Outlook(22歳)。人気のコンテンツにすりよってにわかファンぶり、ファンをそのコンテンツに群がらせるステルスマーケティング担当。
もはや彼女たちの本名に意味などない。五人まとめて“5B”、もしくは“ジャパニーズ・ウゴーノシュー”でもいいぞ。名前はあるがどれも知能、美貌、性格、野心、伸びしろの程度に差異はない。
5Bが所属していたアイドルグループはサンフランシスコに専用シアターまで持っていたがプロデューサーの素早い見切りによりそれもなくなった。プロデューサーは今度は女優志望の十三歳から十八歳の女の子たちにチャンスを与えるオーディションリアリティ番組を始め、そのリアリティ番組の敗北者たちにバラエティ番組をやらせてまた若いティーンに囲まれて「チャンスをくれてありがとう!」と言われてほくほくしている。
「……」
今となっては、サンフランシスコのビルボードの主役はアリア・アニマ。かつてのロスのアンジェリーンのようだ。
“アリア・アニマ御用達”と書いてあったり、アリアの写真、イラスト、文言が入っていればゴミでも売れる。
「ファックオフ! ニンジャアアアアアップ!!」
そんなじゃすまない。『ジ・アンダーテイカー』の主演アリア・アニマの助演男優賞になってしまったミッキー・ローリネイティスどころか、あのリアル忍者アヅキ・コウガのブロマイドすら今では5Bの水着下着生写真より売れる。
かつては5Bが着たブランドの服は、サンフランシスコ中のティーンがターミネーターみたいに「君の来ている服が欲しい」とショップに押し寄せたってのに、今じゃコウガの2.5次元イケメン忍者歌劇団の衣装の方が売れ、子供たちは「忍者になりたい!」とハロウィンで「ニンポー・オア・トリート」と言う。
かつての5Bはジャパニーズ・セッタイやジャパーズ・ケーヒでどんな高級店にでも行けたが、今じゃ“サンフランシスコのブスな妹”オークランドにあるスチュワートのボロいレストランをバズらせることも出来ない。それ程影響力を失い、さらにスチュワートのレストランはアリアの本拠地と言うことでバズり、聖地巡礼の客が押し寄せすぎて予約は十二年待ちだ。なので、今の5Bの拠点は専ら大型イチバンマーケットのフードコートである。一応セレブなのでサングラスとフードは欠かさない。意味のないプライドだ。
「ファッキン・アリア・アニマを殺す方法は思いついた?」
「一つコンタクトがあったわ」
「誰から?」
「アジア人のヨウという足長おじさんよ。アリア・アニマをブッ殺して死体を持ってきたら十万ドルPON! とくれるって」
「あのファッキン・アリア・アニマをブッ殺せるならタダでもやるわ」
「生きたまま捕らえたら二十万ドル」
「なら殺しましょう」
ワードが読み上げた手紙には、傘のロゴが入っていた。
CZK5 19-1-A
「エクセル! まだ生きてる冷蔵庫が見つかったわ!」
「本当に? ワード!? 中に入ってるは、えぇ~と」
「クラウン・コーラよ! それもキンキンに冷えたのが何ダースも! 両手じゃ数えきれないわ!」
「Awesome! 今日からクラウン・コーラパーティね!」
クラウン・コーラ 全米のイチバンマーケットにて大好評発売中
CZK5 19-1-B
5Bがお招きされたのはベイブリッジの近くにある怪しげな中華料理店だった。そこで待っていたのはカマキリを彷彿とさせる線の細いボディに釣り目のトンボのような銀のフレームのメガネ、白髪交じりの髪を後ろでくくり、左手を白衣のポケットにつっこんだアジア人男性だった。
「こんにちはぁー。ワードです!」
以下、エクセル、パワポ、アクセス、アウトルックと続くキャピキャピアイサツ。しかし博士には通用しない。この博士も自分たちからアリアに乗り換えたクチの非情なアイドルマニアか? それとも初めから5Bはアウトオブ眼中か?
「かけたまえ。なんでも食べるといい。白身魚やエビにアレルギーは?」
「わたしはヴィーガンなんですぅ」
「ならば君には豆苗の炒め物がいいだろう」
昔よりもスタイル気にしなくなったなァ……。豚の角煮やギョーザ、エビチリ、フカヒレ、ラーメンなんかをたらふく食べ、ようやく白衣のアジア人、ヨウ博士は本題を切り出した。最高のチャイニーズ料理よりも待ちに待ったアリア・アニマ殺害計画だ。
「君たちはメリーポピンズ製薬という会社を知っているかね?」
「いいえ、知らないわ」
「君たちが無知でむしろ助かった。簡単に言うと北米大陸最高の頭脳であるこのヨウ博士擁するサイエンスの最先端だ。君たちの憎い憎いアリア・アニマの検体を求めている。彼女の特異体質“マンカインド”の細胞を摂取すれば、この世界の脅威であるゾンビ、そして最大の脅威フランケンシュタインに対抗できるワクチンが作れる。生け捕りがベストだが、死体、もしくは死体の一部を持ちかえれば十万ドルPON! とくれてやろう。一人に十万ドルPON! だ」
「最高ね」
「プランはある。マックイーン・ビルディングにアリア・アニマをおびき寄せろ。メリーポピンズ製薬&素晴らしい五人のブロンドの共同戦線と行こうじゃないか」
「でも取り巻きのジ・アンダーテイカーのメンバーはどうするの?」
「彼らが死んでも構わないと思うかね?」
「もちろん。でもあのニンジャップには手を焼くはずだわ。相当のタツジンよ」
「どうにかしよう。マックイーン・ビルディングは大型商業施設、劇場もある。そこで五人のブロンドvsジ・アンダーテイカーの対バンでも演出出来ればいいのだが」
「大舞台なら任せて。慣れてるの」
「慣れてるかどうかじゃない。君たちの実力と集客力、知名度でアリア・アニマ及びジ・アンダーテイカーへの挑発になるかどうかが不安なんだ」
「アリア・アニマに曲を提供している作曲家と作詞家以上のタツジンをわたしたちにつけてくれれば彼女以上のパフォーマンスは出来るわ。歌とダンスならね」
「知らないのか? アリア・アニマの楽曲は全てアリア・アニマ作曲・作詞だ。北米ビルボードランキングをずっと独占している作曲家と作詞家はアリア・アニマだ。えげつない富と名声だ。印税だけでも十万ドルPON! と稼いでいるぞ」
「……じゃあどうすればいいのよ」
「君たちは自分たちのことを知るべきだ。君たちは終わったコンテンツ。過去の人。アリア・アニマからすれば空っぽのカニだ。ほじくりもしない。だから身の程知らずにアリア・アニマを挑発し、あえて同じ土俵に立て。我々も可能な限りいいスタッフを用意する。そしてゾンビを殺せ」
「ゾンビを殺せって……」
「数少ないレアものをプレゼントしよう。あのクソッタレの……ファッキン・ザ・スカベンジャーズのチビガキとファッキン・ベラトリクス・サンダーランドに壊されなかったアンチ・ゾンビ・ワクチンの残りを君たちに渡す。それを使えばゾンビへの抵抗力ではアリア・アニマとギリギリ並べる。あの非凡なアクロバットキリングとゾンビを食すエゲツナサァーはそうそう真似出来ないだろうが、そう簡単には死ななくなるから大胆にゾンビを殺してくれ。それにジ・アンダーテイカーにはミッキー・ローリネイティスがいる。彼が溺愛しているアリア・アニマと同じくゾンビに殺されず、さらに音楽もやるアイドルとなれば、たとえ五匹のハエでもバズーカで殺しに来るのがミッキー・ローリネイティスという男だ。失礼、君たちをハエなどと……。だがプライドを捨て、現状を受け入れるのは必要な儀礼、そして必要な勇気だ。エクセルくん、ウーロン茶を?」
「いいえ、いらないわ」
「私が欲しいんだよ。淹れてきたまえ」
既に主導権も生殺与奪の権もヨウ博士……。そう印象付けられ、エクセルはウーロン茶を淹れた。





