2話
Evan Wight
1990年、モントリール生まれ。3歳から子役アカデミーに入団し、『Hello, Robin』(96年)でゴールデンラビット最優秀助演女優賞に史上最年少でノミネートされレッドカーペットを歩んだ。『Attitude Adjustment』(99年)ではPTSDに悩む兵士の娘ケイトの演技で多くの称賛を集め世代ナンバーワン子役に。2002年から学業に専念するために芸能活動を休止。本作は復帰後第一作目で自身初の主演映画である。
「やめてよママ! そのお金はパパの病気を治すために夏休み中毎日レモネードを売って貯めたお金なの! お酒なんて買わないで!」
「アッハッハッハ」
アイシャに案内されたチャールズ……ジェシー・リンカーンの楽屋のトレーラーハウスでノートパソコンを使ってエヴァン・ワイトの子役時代(8歳)の動画を鑑賞し、チャールズは爆笑してミランダはムスっとしていた。ミランダはこの年齢の頃はZの直後で写真もあまりなかったし、アビゲイル失踪直後で暗くなっていたのでミランダの明るい表情の写真もあまり残っていなかった。チャールズの笑いの理由はあんな頃のミランダがかわい子ぶって目に涙を湛えてお小遣いをアル中ママに横取りされるあざとい顔とそれすらもイキイキする雰囲気だ。
Jesse Lincoln
1984年、アナハイム生まれ。最初に批評家から注目を浴びたのはランディ・オースチンの半生を描いた『The Gang』のリッキー役の好演だった。その後、国民的ドラマ『Stairway to heaven』のシーズン3で登場したレイン役、ニューヨークのサブウェイに封印されている悪魔の日常を描いたドラマ『son of devil in subway』で主人公ヴェルのラリった友人テリーを演じ広く認知されるようになる。『Knockin' on bathroom`s door』(06年)以降はウィリアム・ロジャース監督作品の常連となる。『golden newspaper』(68年)のリメイク、『The writer』(13)のヒルトン役で第121回ゴールデンラビット最優秀助演男優賞を獲得した。2014年『Friday Night Fever』(日本未公開)では実在する銀行強盗カール・グゲイシャンの30年間の強盗と逃亡を演じた。2013年、ハリウッドで最もセクシーな男性ベスト6位に選出され快進撃はスクリーンに留まらない。慈善活動家、親日家としても知られる。
「ふぅーん。こんな書き込みがあるわ。“私は同性愛者ではありませんがジェシー・リンカーンと共にヨットで世界旅行に行きたいです。私たちはあくまでもプラトニックで愛の営みを行うことはないでしょう。しかし彼がヒップを引き締めながら帆を張る時、汗ばむ彼の体を眺めていた私は次第にほてりを抑えられず、厭世的に性のシンボルを自ら燃やすでしょう。必死にその衝動は男性であるジェシーに対するものではないと思い込もうとしても無駄であると自ら否定し、私は悲しみの涙を二つ流すでしょう。そして罪悪感から彼の目を直視することが出来なくなります。もしこの旅で彼が先に死ぬのなら、私は最も大事なものとその次に大事なものを大海原へ還すことになります”。だって」
「おいふっざけんなよミランダ! お前にはそんな内容はまだ早い!」
「モッテモテね。それにミランダ・レイチェル・ノーマンは17歳だけどエヴァン・ワイトは1990年生まれの24歳。問題はないわ。それにさすが元天才子役。セリフを読むのもスラッスラ」
二人はステキアイテムスマートホンを早くも使いこなしていた。そしていつもと変わらないやりとりで自分たちはジェシーとエヴァンではなくチャールズとミランダであると再確認できたのだった。
しかもここにあるものは全部二人のもの! ノートパソコンも四駆のラジコンもプレイステーションの最新機体とソフトも海水魚のアクアリウムもだ! こんな贅沢したことがない!
「アイシャ。つまり俺たちにはこの世界でモスマンを見つけ出すまでジェシーとエヴァンを演じろと?」
「それは違うわジェシー。モスマンならほら、そこに」
アイシャが窓の外を指さすとほら。純白紅眼の変態虫野郎、モスマンがすれ違う人々にヘコヘコしながらスタジオを歩いている。中には笑顔でモスマンの肩を叩いてねぎらっている者もいる。
「あの野郎、ブチ殺してやる。俺たちをこんなピエロファクトリーでお化粧なんてさせやがって!」
「あらいいんじゃない? ミランダだってお化粧を覚えなきゃ。それに彼はモスマンであってモスマンじゃない。それにこんなものでモスマンをぶっ飛ばすの?」
モスマンが椅子に腰かけ、担当者の手を借りてマスクを外すと果たして中から姿を現したのは北のリトル・シン・シティ、キッサキで用心棒をしていたリアル忍者のアヅキ・コウガであった。そしてアイシャがチャールズ愛用のクギバットのクギを指先で押してグニグニと弾力を確かめる。アイシャの細指に弄ばれるクギは鉄製ではなかった。ゴムだった。
「ようジェシー、エヴァン! 楽屋を覗き見するなんて無礼を許してくれ。でも君たち二人、口を利くようになったんだね! 主演二人の仲がいいと頼もしいよ!」
窓の外からモスマンのスーツアクターのコウガが本来の世界ではありえないほど爽やかに声をかける。本物のコウガはイケメンを見ると嫉妬で強い怒りを覚えてウルトラコウガモードに突入してゾンビをジェノサイドする危険人物のはず。ここでは気のいいスタントマンだ。
「ああ、ありがとうよコウガ! でもなんてこった! 俺のクギバットが小道具になっちまった!」
「楽屋でまで小道具のチェックとは熱心だなジェシー! ジャパニーズ・アタマガサガルだぜ。Wee Woo Wee Woo! なんの音だ!? まさかまた“イイ男出現警報”か!? よしとくれよジェシー!」
「ああ、んああ、ああ、そうだ、ああ、お前の言う通りだ、ああ。そうだコウガ。お前の言う通りだ。だから少し黙っていてくれ。俺のクギバットはいい。でもミランダ。お前のアンブレラは……」
ミランダがアンブレラの両端を握って膝を当てるとアンブレラは曲がるはずのない方向へと曲がってしまった。これはアビゲイルがジャパンのキョートで買ってきたジャパニーズサムライソードアンブレラではなくアクション用の小道具なのだ!
「怒りはわかるわ。疑問もわかる。なんで自分たちはジェシーとエヴァンなのにアイシャはアイシャのままなの? とか、わたしもモスマンによってこの世界に飛ばされたのか、わたしはモスマンワールドのアイシャなのか。わからないことが多すぎるよね」
「ああ」
「でもそれを説明するには人知を超えた莫大な方程式が必要になる。これを説明して理解するにはノーベル物理学賞五人分の頭脳とノーベル文学賞五人分の読解力が必要」
「ディミット!」
「All right. People. Let`s start at the beginning one last time.(オーケイ、じゃあもう一度だけ説明するね)。この世界には、今までにあなたたちが出会った人たち、これから出会う人たちがいる。現実世界と違うのは、この2015年のバンクーバー」
「Vancouver!? ここはカナダなのか!? 外国に来ちまった!」
「バンクーバーはノースハリウッドと呼ばれるほどの映画の町よ。それにビックリするのはこれからぁ! Z10年の時点では死んでいるはずの人物でさえ、ここでは生きているの。スタンリー・ストーンヘンジには会ったわよね? キャプテン・カリフォルニアの息子ロビン、バドワイザー基地のメンバーもどこかにいる」
「そいつはありがたい話だが全員にあいさつしては回れねぇぞ。これから出会うやつにも予めビールをおごってやるか? 悪人だったらZ10年に戻った後に優しくしてもらえるかもな」
「ロイド・ロールスロイスとかレゴラスとかウェイワードパインのクズどもに? あ、そっか。ピープル・ガスだけは例外。ここにもいないよ」
「まぁよくわかんねぇけどそういうやつらもいるんだろうな。でも何か手があるからお前は俺たちに話しかけたんだろう?」
「ええ。今までの全ノーベル賞受賞者の頭脳を持っている全治全能の“預言者”フィル・サリバン。彼を見つけ出し、正しい“答え”をもらって正しいモスマンを倒す。これがここから出る最も堅実な方法よ。さぁ、仕事の時間。映画の宣伝で『ロー・フォンのハッキィヨォークイズショー!!』の収録に行く時間だわ!」
CZK5 18-2-A
「エヴァン! まだ生きてる冷蔵庫が見つかったぞ!」
「本当にジェシー!? 中に入ってるは、えぇ~と」
「クラウン・コーラだ! それもキンキンに冷えたのが何ダースも! 両手じゃ数えきれないぜ!」
「Awesome! 今日からクラウン・コーラパーティね!」
クラウン・コーラ 全米のイチバンマーケットにて大好評発売中
CZK5 18-2-B
「All right. People. Let`s start at the beginning one last time.(オーケイ、じゃあもう一度だけ説明するね)。この世界ではジェシーとエヴァンを演じることを過剰に意識する必要はない。“チャールズになりきったジェシー”、“ミランダになりきったエヴァン”。周囲はそう斟酌してくれるから、『ロー・フォン・ショー』では自然体でいいわ」
と、アイシャから説明を受け、二人はなるべく平常心を保って鏡台に座った。アイシャは二人の不安と高揚を抑えるようにベストなメイクを施した。ドーランが馴染むように二人の精神がこの世界に馴染んでいく……。『ロー・フォン・ショー』で大勢の観客とカメラを前にしてもガチガチで動けなくなることはなかった。
「『ロォー・フォーン! ショォー』!!」
ガンガンに炊いたスモークにジャパンの下品な繁華街を思わせる豆電球と発光ダイオード! ミランダはハンディクリーナーを持たされ、チャールズは長髪を神秘的な結い方をするジャパニーズ・マゲのウィッグを付けてドヒョウ・リングの中央に立っていた。
ゴージャスな扉を開けてスタジオにエントリーしてきたのはポート・エグゼビアを仕切る凶悪なチャイニーズ・マフィアの親分ロー・フォンだ。テレビの出演者のくせにガスマスクで顔を隠しているけれど品がないほど真っ白でダブルのスーツも本物と一緒だ。
「レッツプレイハッキィヨォークイズショー!! 好好好ォ~! 今日ノ、オ客様ハ、ジェシー・リンカーン、ト、エヴァン・ワイト!(Today's guests are Jesse Lincoln and Evan Wight)」
「ちゃんと英語でしゃべれボケナス。てめぇが英語を喋れることくらい知ってるんだよ」
「ハーハー。役に入りきてるね。さすが金兎賞常連俳優だよー。ねェ? みんな!」
ロー・フォンに対する嫌悪感も薄れていく。このままではまずいのでは? 本当にジェシーとエヴァンになってしまう!
「キャー! ジェシー、こっち向いてー!」
「さっすがは金兎賞!」
「マリーミー!」
悪い気がしねぇぜ。
「それではここで『ロー・フォンのハッキィヨォークイズショー!!』のルール説明するよ! クイズが出題されるとまずはエヴァンはティッシュキャッチャー! スタッフがばらまくティッシュを一枚掃除機で吸うごとに回答権獲得! クイズの内容がわからなかったら何度聞きなおしてもいいし補足を求めてもいいからピンポン出すのなんて小籠包の皮を破るのより簡単~。でも時間内に正解出来ないと! ジェシーは『ロー・フォンのハッキィヨォークイズショー!!』の怖さを知ることになるよ! レッツプレイハッキィヨォーショ~~~ッ! 第一問!」
スタッフたちが脚立の上にスタンバってティッシュの箱を空ける。でも今はローが出題するんだからそれの邪魔をしちゃいけないので掃除機の電源は入れられない、なんて配慮が出来るほど、ミランダはエヴァンに染まりつつあった。
「ミスター・スミスがケガをしたよ! ドクター、膝を押すと痛いんです。このままじゃ仕事に行けません! へぇ、でもレントゲンの結果、膝に異常はありませんよスミスさん。でもドクター、肘も触ると痛いんです! 肘も何ともありませんよミスター・スミス。でもドクター! 胸も押すと痛いし、首もそぉーっと手を添えても痛いんです! さぁ! ミスター・スミスはどこを診てもらうべきでしょう!? 大変なのはミスター・スミスの一か所だけだよ!」
「ディミット!」
「元天才子役の口からそんな言葉聞きたくなかたよぉ~。全然わからない? お兄さんに訊く?」
チャールズは両掌でシャッターを作って妹をシャットアウトした。クイズショーを盛り上げるつもりだったんだろうけど二人が協力しないと大変な目に遭うのはチャールズの方だなんてまだこの時のチャールズは知る由もなかった。
「ミスター・ロー! ソレヨリワタシノハナシ聞イテクダサイネ!?」
扇情的な格好のアシスタントのアジア人女性が何かビニールのパッケージを持ってローに話しかける。アジアの言語で書かれた商品名に北米大陸某国人は食べない色と形状の食べ物だ。
「滋養強壮ワカメヌードル食ベマス、髪フッサフサ! オ肌ツヤツヤ! トッテモ美味シイデイッパイ食ベチャウ!」
「それにしちゃ君スリムだね。健康にもいいよ! 三木&麿吏社のワカメヌードル、いくら食べても大丈夫よぉ! お財布にも優しい価格だよぉ! たくさん食べてお腹いっぱい、たくさん食べてもお財布いっぱい! さぁお話はここまで。レッツ、ハッキィヨォーショー!」
ティッシュがヒラヒラ宙を舞う。ミランダが掃除機のスイッチをオンにすると時計の針が回転! 60秒で1周する仕掛けの巨大な時計がデジタル表記と針で動き出す。アシスタントのセクシーなジャパニーズガール(ハァハァ……)が時間稼ぎをしてくれたのに全然クイズの答えがわからない!
SWISH! 一枚目のティッシュをゲットだ!
「ミスター・スミスが大変なのは……脳! 脳がおかしいからケガしてないところが痛いのよ!」
「不正解~! ヒントあげるよ。ミスター・スミスは脳は触ってみたけど、やっぱり痛かたてよ」
SWISH! 二枚目のティッシュをゲットだ!
「メンタル? ないはずの痛みと戦ってるの? シャドーボクシングみたいに」
「チガウよ。ちゃんと最初に“ミスター・スミスはケガをした”って言たよ。ここではロー・フォン、ウソつかないよ」
Beep! Beep! 時計も半周が過ぎて針が不穏なアラートのタクトになる。観客たちのボルテージが急上昇だ! 怖いもの見たさ、面白いもの見たさ……。何が起きるんだ!?
「ミランダ! 脳に痛覚はねぇ!」
「じゃあローがウソをついてるってこと?」
Boo!
「ハイ時間切れェ! それじゃあ正解発表するよ。ミスター・スミスがケガをしたのは、指! だからどこ触ても痛いよ。痛かたのは指だたんだよ。だから痛覚がない脳触ても指痛いだよ。オー。アイムソーリー、ジェシー・リンカーン」
ローがガスマスクのレンズをなぞって涙の軌跡を表現する。アシスタントのジャパニーズガールたちも口を覆ったりエンエン泣いたりしてしまった。しかし熱狂するのはオーディエンス! 口を揃えて大合唱だ。
「ハッキィヨォー! ハッキィヨォー!! ハッキィヨォー!!!」
KABOOM! ローが入場してきた扉を開けずにタックルで破壊してエントリーしたのはチャールズと同じ神秘のヘアスタイル、マゲを自毛で作った、身長7フィート、体重も300ポンドもありそうな……筋肉と脂肪の塊のスモウ・レスラーだというのだろうか!?
「待てよ。待った! 撮影を控えてるんだ。こんなのと戦ったらケガしちまうぜ!」
「原作ノベル読んだよジェシー。“チャールズ”はスモウ・レスラーに怯えるようなタマじゃないね」
「待て……待てェ!」
「マッタナシ! ノコタノコタ! ハッキィヨォー!」
汗だくの体でチャールズを抱きしめて体温を交換してからSMACK! ジャパニーズ・ハリテ! アイシャのメイクは身代わりにしては薄かった! すごく痛いし熱い! アイシャのメイクが余計だったのは兄がスモウ・レスラーにぶっ飛ばされて笑ってしまうミランダの笑顔を強調しすぎてしまい、何人かの男性のハートを射抜いてしまったことだ。
「ザッツ『ハッキィヨォークイズショー!!』 第2問!」





